第144話 勇者バージャス5

アカリフォルニの冒険者ギルドに駆け込む勇者バージャスのパーティー。


バタン!


「どけ、どけぇ!」


勢い良く扉を開けると、列に並ぶ冒険者達を押し退けて受付に進む。


「ちょ、ちょっと、お前等何様だ」


「勇者バージャスだぁ!」


文句を言った冒険者を威圧して睨むバージャス。


「文句があるのかぁ! あ"ぁ」


聖剣を抜いて脅す。


「ひ、ゆ、勇者様ですか……」

「どうぞどうぞ」


救急車やパトカーがサイレンを鳴らして道を進む時の様に、列は左右に分かれて勇者バージャス達を優先させる。


バージャスは、受付嬢と向かい合って依頼受注中の冒険者の後襟を掴むと。


「邪魔ぁ!」


と言って、横に放り投げた。


目が点になって勇者バージャスを見詰める受付嬢のナマドンは、引き攣った笑いを浮かべて、勇者バージャスに皮肉っぽく対応する


「勇者バージャス様、受付中の冒険者を押し退ける程の緊急事態でしょうか?」


「勇者の要望はいつでも最優先なのさ。『海の洞窟』を攻略する! ダンジョンの情報開示を求める」


ナマドンは、バージャスの言葉を聞いて、目を見開き、感謝の表情を浮かべる。


「え! おぉ! 助かります。有難う御座います」


受付嬢の対応が、思っていた対応と異なりちょっと戸惑うバージャス。


「ん?」


「実は最近『海の洞窟』の難易度が急激に変わって、負傷者が続出していたのです。調査も含めて、最下層まで攻略していただけると助かります。元々水中洞窟で難易度も高い為、Sランク冒険者も二の足を踏んでいたのです」


「す、水中? ……難易度が高い? ……ユウマって言う奴が攻略したんじゃないのか?」


「はい。ユウマ様が攻略してから、難易度が上がって、1階層を抜けられる冒険者は出ていません。人魚とマーマンが連携して襲ってくる様になり、高ランクの冒険者も敬遠する始末で、アカリフォルニの冒険者ギルドの売り上げが激落ちなのです」


「な、なにぃ……」


「勇者バージャス様に攻略していただけるなんて、願ってもない事です。本当にありがとうございます」


両手を握って感謝を述べるナマドンに、戸惑い今更止めると言えなくなったバージャス。


「ん、ま、まあ、……そ、そうか」


「ところで、バージャス様は水中洞窟に入る為の装備は、御用意しておりますか?」


「……水中洞窟に入る為の装備?」


「まあ、まだの様ですね。それでは、この店で一式揃えるといいでしょう。宜しくお願い致します」


ナマドンはロスキューバプのチラシをバージャスに渡す。


バージャスはチラシを受け取り、それをみながら、冒険者ギルドを出るのであった。


「ねえねえ、水中洞窟って何?」

「水の中って事じゃない」

「息が出来るの?」

「分かんない」

「私、泳げないんだけど……」

「私も……」


ヒソヒソ話ながらバージャスの後をついて行く、魔女ヴァユーと聖女ナリエ。

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