第106話 水竜の牙

ここはカアメリ帝国の都市トンワシンにある冒険者ギルド。


俺は受付を終えた後、ギルドを出ようとしたら、後ろから声を掛けられて振り向いた。


「俺はCランク冒険者『水竜の牙』のリーダー、ルアップだ。てめえ、うちのメンバーのタクヤに何をした?」


「タクヤ? 知らないなぁ。ダレ?」


俺は惚けてルアップの横を通り過ぎようとした。ブラックドッグのクロドが俺の横を歩く。


「ちょい、待てよぉ」


「……」


無言で歩みを止めない俺。


「おい」


ルアップは仲間に声をかけて顎で合図すると、ルアップ達4人は駆け足で俺達に追い付き取り囲んだ。


「タクヤがてめえに絡んでいたのを見てるんだ。タクヤがあの通り動かなくなったのは、てめえが何かしたからに間違いないだろう! おい、何とか言ったらどうだ?」


「ホントダ、ナンダカ、カタマッテルネー。ところで、お前ら、そのタクヤが俺に絡んでいるのを、ただ見てたのか? 止めようともせずに?」


「そんな事ぁ、どうでも良い! タクヤを元に戻せ!」


「どうでも良くないよ。つまりあんた達は、仲間が他人に絡んでいるのを、止めようとしないで、笑って見てたんだな? 悪いとも思わずに……」


「そうだよ、だからどうした? いいから、タクヤを元に戻せ、今直ぐ依頼に行かなきゃいけねえんだ」


「あんたらの事情なんて知らないね。ずっと見てたんだろ? 俺がやった証拠でもあるのか? 変な難癖つけないでくれないか?」


「証拠はねえが、お前以外にタクヤをこんな風にする動機がねぇ」


「知らないね。クロド行こう」


俺はルアップ達の足を封印し動かなくした。


「な、何だ? あ、足が動かん」

「うわっ」


俺とクロドが男達の間を擦り抜けると、俺達を力尽くで止めようとした男達は、足が動か無くなり一斉に転がり倒れる。


男達は足が動かない為、追ってくる事が出来ない。


「何だこりゃ?」

「待てええええ」

「待ってくれえええ」

「助けてくれ」

「俺達はどうなっちまったんだ」


騒ぐ男達を後にして、俺とクロドは冒険者ギルドを出た。


半日もすれば封印は解ける様にしておいたので、反省すると良いんだけど。


……無理かな?


「クロド、隣街に行こうか」


「分かったワン」


俺達は入って来た門を出ると隣の都市アカリフォルニを目指した。


海沿いの道だ。右手に海が見えて、左手は平野。俺はクロドの上に乗ってるので、右側を見ながら進んでいる。


「凄い綺麗な海だよクロド」


「潮の香りがするワン」


今日は雲一つ無い晴天だ。抜ける様な青空にエメラレルドグリーンの海と白い砂浜。立ち止まればそよ風が心地よいが、今はクロドに乗っているので、良い感じで風を感じている。


穏やかな水面に光が反射して、とても綺麗だ。海鳥が遠くに飛んでいる。


この世界に来て初めての海に、冒険の期待が膨らんでいた。

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