第104話 冒険者タクヤ

両手をポケット入れて、肩で風を切って歩いてきて、俺の目の前に立ち塞がる目付きの悪い男タクヤ。


顔を斜めに傾け、チンピラの様に下から斜め上に見上げながら俺を睨む。


「おい、調子乗ってんじゃねえぞぉ! 偶々、トテイさんに話し掛けられて、ギルドまで一緒に来たぐらいで、トテイさんやリーマラさんと仲良くなったなんて思うなよぉ」


なんか言い返すのも面倒なので、無言でタクヤをスッと横に躱して通り過ぎる。


「てめえ、無視すんじゃねえぞぉ!」


俺は空間把握をしているので、後ろにいるタクヤの動きが分かる。肩を掴んで振り向かせようとしたタクヤが俺の肩を掴む瞬間、横に躱す。


スカッとタクヤの手が空をきる。


「あっ……」


バランスを崩してヨタヨタするタクヤは、クロドに足をぶつけて転倒した。


ドタン!


クロドは敢えて避けなかった様だ。

ニヒヒって笑ってる。


周りで成り行きを見守っていた女性の冒険者達がクスクスと笑って、男性の冒険者達は明らかに笑いを堪えてる。


「あの馬鹿、勢い良く絡んで無視されて転んでやんの、クックック」


その囁きが聞こえて頭に血が登るタクヤ。


立ち上がると全力で走り、俺達の前に回り込んできた。


「おい、てめえの実力を見てやる。ギルドの訓練所に来い」


「断る」


なんで俺が見ず知らずのこの男に実力を見せなきゃいけないんだ?意味が分からない。


俺は即答して、タクヤを避けて受付の列の最後尾に並んだ。


クロドも俺の横に並んでいる。


「てめえ、怖くて声もだせねえか。ビビってんじゃんねえぞ。俺が冒険者の実力を教えてやるぜ」


俺の後ろから叫ぶタクヤ。


煩いなぁ、周りの奴らも誰も止めないんだね。


タクヤは列に並ぶ俺の前に、また回り込んできた。


「無視すんじゃねえぞ。もう我慢出来ねぇ、決闘だぁああああ」


「断る」


大体俺は剣とか武器を使う訳でもないし、魔法も空間魔法しか使えないから手加減して決闘って出来ないんだよ。


何だか段々腹が立ってきた。


「てめえ、自信がねえんだろう? 弱っちい癖に強がんじゃねえぞぉ。自信があるなら決闘を受けてみろやぁ! 弱虫クソ野郎がぁ」


唾を飛ばして大声で、怒鳴りだすタクヤ。

本当にこいつチンピラだなぁ。


俺を怒らせて決闘を受けさせようとしてるのは分かるが、煩くて我慢出来なくなってきた。


俺は顔をハンカチで拭いて、横を向いてタクヤから目線を外すと……。


「おらああああああああ──」


タクヤは右手をあげて、殴る振りをした。


俺が目を閉じたりびびったら、ここぞとばかりに更に煽るんだろうねぇ。


なんてゆっくり考えてる。


どうしてのんびりしだしたかと言うと、殴る振りをした状態でタクヤを封印したからだ。


俺がこの都市にいる間に、またまとわりつかれると面倒なので、多目に半年は封印が解けない様にした。


右手をあげて殴りかかる寸前で身体を固定している。目を見開き大口を開けたその表情はちょっと見に怖い。


この顔なら言い訳は出来まい。誰がなんと言っても、先に手を出したのはこいつだ。


俺はタクヤを無視して、そのまま列が進むまま受付を待っている。


俺の後ろがざわめき始めた。

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