第102話 帝国
俺はブラックドッグのクロドに乗って、山道を南に走っていた。
向かっているのはカアメリ帝国だ。この大陸で帝国と言ったらカアメリ帝国の事を言う。
軍事、経済、文明……。何を見ても最高峰に位置する大陸最大最強の国家。
他の国家が中世ヨーロッパの世界だが、帝国だけは産業革命後のヨーロッパの世界を実現している。
具体的には蒸気機関の発明と魔導科学による工業化の発展と技術革新。あわせて製鉄業の発達により、蒸気船や鉄道を使った交通革命があり、帝国全体の社会を支える。
山を越えると帝国の北の玄関口で、巨大な港を擁する都市トンワシンが見えた。
俺はクロドから降りて、クロドと一緒に歩いて城壁に近付く。
その巨大な城壁を呆然と眺める。
なんだこりゃー。
今まで見てきた城壁の比じゃない。
マジか……。
鋼鉄製の巨大な門に並ぶ人々の長蛇の列。
うへぇ、今日中に入れんのか?
しかし、列は幾つかに分かれていたので、一番短く進みの早い列の最後尾に並んで、前にいる人に尋ねた。
「すいませーん。この列ってどんな人が並ぶ列ですか?」
俺の前に並んでいた女性が振り向く。
「あら、可愛いワンちゃん♪ あぁ、この列は冒険者が並ぶのよ」
女性の冒険者は勝手にクロドをなでなでしながら、教えてくれた。
「あぁ、良かった。俺も冒険者なのです。あ、名前はユウマと言います」
「私はトテイよ。よろしくねぇ」
トテイは、ブロンドの髪に切れ長の青い瞳で、長身のモデルの様な美人だ。
「あらあら、ナンパ? トテイってばナンパされちゃったの?」
トテイの仲間の女性冒険者が割り込んで来た。
「そんな訳ないじゃん。列の事を聞かれただけよ」
「怪しいなぁ」
「全くぅ」
クロドを撫でながら会話するトテイ。
トテイの仲間が俺を向いた。
「私はリーマラ、よろしくね。私もワンちゃんをモフりたいわぁ」
と言ってウィンクするリーマラは、金髪で瞳が茶系のちょっとぽっちゃりした、だけど美形の女性冒険者だ。
俺が何か言う前に、トテイと一緒にクロドをモフり始めた。
この二人はクロドを見ても驚く様子もなく、接しているところを見ると、相当の実力がある冒険者なのだろう。
逆らわないほうが良いね。
「私達は二人でパーティーを組んでるのよぉ。ああ、このモフモフいいわぁ」
クロドを見ると大人しくモフモフさせている。まあ、しっかり洗って毛もふさふさだからね。モフりがいはあるよねー。
目を細めているので、まんざらでもないみたいだ。
「あ、相棒の名前はクロドです。俺とクロドでパーティーを組んでます」
「へぇ、クロちゃんね。良い名前だわぁ、英雄ヒナタの相棒と一緒ね」
「そ、そうなんです……」
本物のクロドと言っても、信じてくれるか分からないから、話を合わせておこう。
「帝国は初めてかしら?」
まあ、列を聞くぐらいだから初めてって分かるよね。
「そうです。初めてなんです。宜しければ、帝国の事を教えて貰えると助かります」
「良いわよぉ」
俺とクロドがトテイとリーマラと会話しながら列は進んでいった。
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新展開になりましたが、アラクネとトヨシモの行方や、第3王子の殺害の件もその内明確にする予定です。
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