第83話 焔の剣の親達

実家の家の門を出た俺を、村人達が取り囲み睨む。中央には元焔の剣の回復士ユイナと、その父親である村長。


村人達はくわや斧、なた、棒など身の回りの物を武器に変えて持ち、まるで百姓一揆の様だ。


「武器を構えて相対している者は、殺される覚悟があるとみなすが、良いのか?」

俺は村人達に最終通告をした。


「ふん、ハルキチの小倅がぁ、いっぱしの口ききやがってぇ!」


「どうせ、ハルキチと同様に痛めつければ、泣いて謝る癖に生意気なんだよう」


「いいかぁ! 村の疫病神は手足を切り取られて、イヤと言うほど生きて来た事を後悔するんだぁ」


「殺して下さいと泣いてお願いするんだぞ」


辺境の閉鎖的な村は残酷だった。俺の父親ハルキチは、相当酷い殺され方をしたようだ。


俺は小さい頃に、近所の大人から優しくされた覚えがない。まあ、母親が亡くなった後、村では厄介者の父親が、半分村八分の状態だったので、子供の俺にも良い印象は無かったのだろう。


母は俺が3才時に亡くなったと聞いているので、母が生きていた時の事は記憶にないしな。


取り囲む村人の中には、見知った顔の老人もいるが、特に懐かしい感情もわいてこない。


単に顔を見た事がある程度。


ここまで言われれば、襲って来たら殺す事に躊躇する事もないだろう、……と思う。


ヒュン! ブシュッ!

「う゛っ」


その時、矢が飛んできて俺の肩に突き刺さった。俺は片膝をついて矢を抜き取り、矢が飛んできた方を見た。


向いの家の屋根上に、弓を構えた老人がいた。元焔の剣の弓使いヒマリの父親だ。

「ヒマリを国外追放にしやがってぇ!」


ヒマリの父は2発目、3発目矢を放っていた。


「油断し過ぎだワン」

クロドが俺の横に来て飛び上がり、矢を前足で叩き落とした。


「そうみたいだ、村人程度と侮っていたよ。ありがとう」

俺は亜空間で俺とクロドを囲った。


「それぇ! ユウマを殺せぇ!」

村長の号令で村人達が襲い掛かって来た。


カキン! カキン! ゴン!  ドン!


亜空間に当たる村人達の武器が、亜空間に跳ね返されて俺とクロドに当たる事は無い。


「くそぉっ! 当たらねぇ」

「なんだぁ?」

「おかしいぞ!」

「おい! どうなってんだ?」


亜空間の中にいる俺は、冷めた目で村人達を眺める。


キン! キン! キン! キン!


ヒマリの父が放つ矢も同様に、亜空間で跳ね返る。


「化け物!」

「ひぃ」

「聞いてた話と違うぞ!」

「ただのポーターじゃねぇのか?」


「ちょっとぉ! お退きぃ!」


一際高い声がして、村人達が俺の周りから急いで離れると、炎の塊が亜空間に当たり、目の前が炎に包まれた。


「アオイの恨みよぉ!」

「やったかぁ!」

「流石、村の魔導師 !」


アオイの母親だな。


ミナトの父とヒマリの父、アオイの母は元冒険者だ。歳はとっているが、それなりにまだ戦闘力がありそうだ。ミナトの父親もどこかで様子を伺っているのだろう。


この元冒険者の老人達が、寄ってたかって戦えない俺の父親を、残酷な仕打ちで殺したかと思うと、沸々と怒りが込み上げてくる。


炎が消えて無傷の俺とクロドが、炎の魔法を浴びる前と変わらず、冷めた目をしているのを見て、村人達は驚愕し後退る。


「ひぃ」

「化け物だぁ」

「おい、どうするべぇ」

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