第79話 おやっさんとの別れ

冒険者ギルドの裏に回り解体所へ行く俺とブラックドッグのクロド。


解体所の奥へ勝手に入っていくと、おやっさんが解体していた。


一息つくまで解体の様子を黙って見ている。流石プロだなぁ。流れる様な作業で、迷い無く解体していく。


あっという間に素材が分別されて、廃棄する部位と分かれていく。


解体が一段落すると、解体中に俺とクロドの気配を感じたのか、俺達が見ている事を知っていた様で、俺達を振り向くおやっさん。


「ユウマ、どうした?」


「忙しいところすいません。依頼が完了して、素材の買取をして貰う為に来ました。土蜘蛛の魔石です」


「蜘蛛の牙の依頼か。そうするとBランクに昇格したんだな。おめでとう」


「ははは、ありがとうございます」


「魔石は、またとんでもない量なんだろう? 向こうの倉庫に出して貰おうかな」


「はい」


俺達はおやっさんと一緒に倉庫へ歩く。


俺は亜空間から土蜘蛛の魔石を取り出し、倉庫に展開した。


おやっさんは倉庫に展開した魔石を確認して、

「おお! やっぱり多いなぁ。しかもキズ一つも無い。相変わらず見事な魔石だよ。買取額も高く出来るぞ。冒険者証を預かるよ、どうせまだ冒険者のポイントに加算してないだろう。ちょっと待ってろ」


「はい」


俺は冒険者証をおやっさんに渡すと、おやっさんはギルドの方に歩いて行った。


少し待つとおやっさんが金貨の袋と冒険者証を持って来た。


「ほい、これが買取の代金だ」

金貨の袋と冒険者証を俺に渡す。


「ここを出て行くんだってなぁ」


ああ、ギルド長が話したのかな?


「そうです。ちょっと実家に顔を出して、その足で他国に向かおうかと思っています。」


「そっかぁ、寂しくなるなぁ」

おやっさんは腰に差した解体用のナイフを抜くと、鞘ごと刃の方を持って俺に差し出した。


「どうやって解体してるか分からんが、どうせ、解体用のナイフなど持って無いんだろう?」


「いえいえ、解体用のナイフは持ってませんが、解体は出来るので、大丈夫です」


「これは解体以外でも使える。冒険には最低限必要な必需品だ。1本持ってても邪魔にはならんだろう。餞別替わりだ」


おやっさんは俺の手を掴むと解体用のナイフを握らせた。


「すいません。ありがとうございます」


俺は解体用のナイフを受け取った。


「ん~、クロドはこれだな」

おやっさんは倉庫から燻製肉の塊を持って来た。


「長持ちする肉だからな、食料が無くなっていざとなったら食いな」


俺に肉の塊を渡すおやっさん。


「ありがとうございます。なんだか申し訳無いです。なので……」


俺は黒き獣の肉の1部をおやっさんに渡した。


「おいおい、そんなつもりであげた訳じゃねえぞ、貰いすぎだよ!」


と言いながら、しっかり受け取り涎を流しそうな顔のおやっさん。


「良いんですよ。今まで世話になったし、この都市にあまり良い思い出が無かったんですが、おやっさんには助けられました」


「まあ、気が向いたら何時でももどってきな。」


俺は微妙な笑顔で応える。


俺とクロドはおやっさんに別れの挨拶をして宿に戻った。


そして1泊後、翌朝早くに都市を出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る