第76話 シミツコ捕縛

「おい、ユウマ!」


アスカの死体をボーッと見詰めていた俺は、ベーマタ騎士団長の言葉にハッとした。


隣にはクロドが寄り添ってくれていた。


「ユウマ、このままシミツコ商会に行くぞ。騎士達には商会を包囲するように指示を出している。」


「そ、そうですね。」


「ここでシミツコ商会を叩かないと、逃げられる可能性もあるのでな」


「はい。分かりました。行きましょう」


「アスカとデミツヒ、騎士達の遺体は、騎士達に運ぶ様に指示を出しているから、このまま行くぞ」


「はい」

俺は、空間把握で再度都市内を確認する。


おや? シミツコが馬車に乗って移動しているぞ。


「ちょっと待ってください」

俺はベーマタ騎士団長に声を掛けた。


「ん? どうした」


「シミツコが馬車に乗って逃げます」


「え?」


「門に向かいましょう。商会の包囲はそのままにしてください」


「分かった。急ぐぞ」

ベーマタ騎士団長は走り出した。


俺はクロドに乗るとクロドが走り出して、ベーマタ騎士団長を直ぐに追い抜く。


「お先に行きます! 門前で馬車を止めておきますよー」


クロドに馬車の位置を伝えると、クロドは壁を蹴って屋根を走り、最短距離で馬車に追い付いた。


門まで数百mの位置。


シミツコ商会の馬車の前に屋根から飛び降りたクロド。


俺は馬車と馬車馬を空間固定した。


ドゴーン!!

御者が宙を飛び、馬車の中で勢い良くぶつかる音がした。


御者は気絶し馬車は止まり、1部の荷物が散乱する。


「何事だぁ!」

「痛たたた」

「痛ぅ、何があった? 早く出発しろ!」

シミツコと2人の男が降りてきた。


「シミツコさん何処に行くんだい?」

俺はシミツコに尋ねる。


「誰だぁ! お前はぁ、儂を誰だと思っとる」

シミツコが俺を睨む。


「シミツコ商会の会長、シミツコさんでしょ」


「ぬぬぬ、黒犬と一緒に居るところを見ると、ダンジョン攻略者のユウマか、何故儂の邪魔をする! そこを退け!」


「蜘蛛の牙と繋がる者の捕縛をする騎士団に、協力しているのです。」


「はぁ、蜘蛛の牙と繋がるとは、とんだ言い掛かりだ! 何処にその証拠がある。 良いからそこを退け!」


俺とシミツコが言い合いをしていると、ベーマタ騎士団長が走って来た。


「はぁ、はぁ、間に合ったか、シミツコ! 大人しくしろ!」


「む、ベーマタさん、これはどう言う事ですかな? 儂の馬車を止めさせた上で、賊との関係があるなどと、在らぬ疑いをかけて拘束しようとは、ただでは済まされませんよ」


「はっはっは、既にお主と蜘蛛の牙の関係がある証拠を入手している。大人しくついてこい」


「な、何ですと! ええい、掛かれ! 儂を逃がすのじゃ」


俺はすかさずシミツコの2人の護衛を封印した。


「おい、どうしたぁ。早く倒せ、ってしまえ!」


シミツコは動かなくなった護衛を怒鳴りつけるが、うんともすんとも言わず固まる護衛達。


「観念しろ!」

ベーマタ騎士団長がシミツコに槍を向けた。


「ひぃ、金を出す。見逃してくれ! 武器でも宝石でも好きな物を渡すからぁ、馬車にあるんだぁ。なぁ、頼む!ここで見逃してくれれば──」


ゴン!


ベーマタ騎士団長がシミツコの頭を叩くと、シミツコは気絶した。


「ベーマタ騎士団長、取り敢えず、この馬車とシミツコ達を俺が収納します。商会に急ぎましょう」


「おお! 助かるよ。頼む」


俺は馬車とシミツコ達を亜空間に収納すると、馬車から落ちた物を何気なく拾って見た。


それは本だった。


題名は「禁断の騎士団」。

作者は、……メイ?


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


とある宿で強制缶詰中の元受付嬢メイが、出版社の編集者と会話していた。


「メイ先生! 例の本が売れに売れてますぅ。増刷に入りましたぁ! 騎士団の中での禁断の愛! 最高ですぅ。早く、早く、次の話を書いてくださいいいいいいい」


「え! マジで! そんなに売れて大丈夫なの? サキヨマさんとかトヨシモさんってバレてるよね?」


「大丈夫ですってぇ。ちゃんと名前をマサキヨ・・・・モトヨシ・・・・って変えてるでしょ」


「順番変えただけじゃない?」


「メイ先生! 『ビール』と『ルビー』は同じ物ですかぁ! 『タイヤ』と『ヤタイ』は同じですかぁ? 順番が変われば別の物なのですよぉ! 勘違いする人が悪いのですぅ! ですから早く『禁断の騎士団2』を書き上げてくださいいいいいいい!」


どうやら、メイは小説家に転身してたらしい……。

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