第73話 蜘蛛の牙のアジト跡前

『蜘蛛の牙』のアジトに乗り込んだ俺と、ブラックドッグのクロド、ベーマタ騎士団長、剣姫アスカは、蜘蛛の糸の上に立ち宙に浮いてる様に見えるアラクネと向かい合っていた。


「なんだか変だワン。このアジトを取り囲んでる騎士の数が増えたワン」


「何があったんだろう?」


「くくく、予定よりだいぶ遅かったけど、やっと来たようね。」

アラクネは意味不明の言葉を呟き、身を翻す。


「待てぃ! 逃げるなぁ!」

アスカが大剣を横に払う。


「ちょっ──」

俺は、『ちょっと待って!封印するから』と言おうとしたが、遅かった。


アラクネは跳躍し躱した。


ズズッ……。


大剣は空を斬る。

刃が届かないはずの距離。


しかし、アスカの剣撃はアラクネの後ろにある建屋を斬り裂いた。


太い大黒柱が切断されて、天井とその上の2階が、ミシミシと音をたてて軋む。


ズズッガガガガ……。


「逃げるワン。乗ってワン」


俺は封印した生き残りの奴らを亜空間に収納し、クロドの背に飛び乗った。


ドドーン、ガシャガシャン!!!


崩れ落ちるアジト。


アスカは落ちてくる瓦礫を、大剣で斬り飛ばしながら走って来る。


ベーマタ騎士団長も槍で、障害物を叩き飛ばしながら走る。


俺はクロドに乗って、アジトを出た。


「おい、アスカ遣りすぎだ」

埃を払いながら、俺の後ろを歩くベーマタ騎士団長。


「躊躇しちゃダメなのよ、遣る時は思いきって遣る。これ鉄則ね」

ベーマタ騎士団長の後ろからアジトを出て来たアスカ。


ベーマタ騎士団長とアスカの会話が続く。

「ふん、アラクネに逃げられてしまったじゃないか。」


「結果よ、結果。逃げそうだったから先手をうったの。しょうがないわ。何もしないで逃げられるよりいいでしょ」


「ユウマが折角捕まえた奴らも瓦礫の下だ。生きているか、怪しいぞ」


「そんなの、これから行くシミツコ商会で、捕まえればいいでしょ」


俺が会話に割り込む。

「生き残った奴らは、俺の亜空間に入ってるから、問題無いですよ」


「おお! そんな事が可能なのか。それは良かった。ありがとう、ユウマ」


「アラクネもどっちに逃げてるか、今なら分かりますよ」


「良し、シミツコ商会は俺とアスカで行くから、アラクネを──」


「アスカァアアアアアア!」


その時、アジトを取り囲む騎士の中から、大声を出して男が現れた。


痩身で藪睨みの男。


「ちっ、見たくもない奴が来たわ。」

アスカは舌打ちをして男を睨む。


「お前を捕まえに来たぁ! 武器を渡して大人しくついて来い!」


「あの人誰ですか?」

俺はベーマタ騎士団長に聞く。


「あぁ、アスカと犬猿の仲で、王家専属騎士隊の副隊長デミツヒだ」


「王家専属騎士隊? 強いんですか?」


「『蛇剣』の二つ名で呼ばれていて、この国の騎士の中では、そこそこ強いな」


そこそこって、そんな実力でアスカを捕まえる気かな? そう簡単にはいかない気がするぞ。


「で? 何のご用かしら?」

アスカ大剣を肩に担いだ。


「アスカァ! 第3王子を殺害したお前を、捕まえに来たんだよぉおおおおお!」


「はぁ? そんな事知らないんだけどぉ」


「ククク、連行して自白させてやるさぁ。証拠もあるんだよぉ。惚けても無駄だぁ。逃げるなよぉおおお!」


「あんたバカァ?」


「ククク、お前がな!」

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