第66話 エリクサー

天槍ベーマタさんが俺に金貨の袋をよこす。


「前騎士団長サキヨマの件で、大変迷惑をかけて済まなかった。『蜘蛛の牙』討伐の報酬とお詫びだ。領主も感謝を伝え、お詫びしたいと仰っているが──」


「あっ、それは結構です」

金貨を受け取り、領主のお招きは即答で断る俺。


「あははは」

苦笑いのベーマタさん。


「それと、『蜘蛛の牙』の拠点を教えるのは了解しますが、報酬はいただけるのですよね?」


「勿論、当然だ。それは領主より報酬がでる。討伐する訳では無いので、報酬は金貨5枚だな、それで良いか?」

ベーマタさんの言葉に。


「それで結構です。今までは感謝の言葉さえなかったので、ちょっとした確認です」

と嫌味っぽく言って、


「最後にこの子なんですが……」


剣姫アスカを指差す。


「子供じゃなあああああい!ワタシは大人の女性だああああああ!歳は19歳だぁ!」


クロドを撫でて和んでいたアスカが、急に大声を出した。


「おや、19歳のレディは街中で剣を抜いて、他人の従魔を殺そうとした挙げ句、俺まで殺そうとするの?」


「レ、レディ! そうよレディよ!」


そこに反応するんかい!


「ギルド長、Sランク冒険者は街中で剣を抜いて、人と獣魔を殺しても罪にならないなんて事はないですよね?」


「罪になるな、それはアスカの事か?」


「殺してないじゃん」

アスカは頬を膨らませて「ぷぅ」って怒ってる。


「俺じゃ無ければ確実に死んでたよ」


「死なないってば、精々腕1本落とすぐらいだもん。それに腕もエリクサーがあるから治るし!」


アスカがアイテムバッグからエリクサーを取り出した。


「エリクサー!」

えええええ!凄いの持ってるじゃん。滅多に見ることも無い、幻の神級回復薬だ! 死んでなければどんな傷も一瞬で治っちゃうヤツ! 流石腐ってもSランクかぁ。


「分かった、そのエリクサーをくれるなら許そう」


「えええええ! どうしよっかなぁ?」

迷ってるアスカ。


「ギルド長、ベーマタさん、街中で剣を抜いて人を襲った場合はどうなりますか?」


「まあ、殺した訳では無いが、殺そうとしたんだろう?」


「そうですね。少なくともクロドが避けなければ殺されてたし、俺は片腕を斬られてましたし、その後は明らかに俺を殺すつもりの剣撃でした」


「斬れなかったのよー! ねぇどうして?」


「アスカ、殺人未遂は死刑では無いが、冒険者証剥奪の上、犯罪奴隷落ちだぞ。」

ジロリとギルド長がアスカを睨んだ。


「まあ、そうなるな」

ベーマタさんも同意する。


「えええええ! 殺す気なんてなかったわよ! ああああ、分かったわよ、エリクサーは渡すわ。もう!」


アスカはエリクサーを俺によこした。


「もう! それで『蜘蛛の牙』討伐は明日にして、今日はキラーデュラハーン討伐に行くわ!」


「明日の朝に、またギルド待ち合わせでいいかな? 俺はこれで引き揚げるよ。じゃあね」

俺は立ち上がり執務室を出ようとした。


「ちょっと待って! クロちゃんと一緒に『亡霊洞窟』を案内してよ! 報酬は出すからさー。ギルド長! 冒険者に案内させるって話だったよねぇ。ユウマがいいな!」


アスカが俺の腕を掴んで引き留める。


むっ! 速すぎて亜空間を展開出来なかったぞ。流石腐ってもSランク。

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