第51話 領主の召喚状
俺とブラックドッグのクロドは冒険者ギルドで、領主からの召喚命令のお達しを受けた。
受付嬢のヤヨイさんから領主の召喚状を受け取る。
「ヤヨイさん、午前中にシミツコ商会から呼び出しがあって、午後は領主からの召喚命令で、本日は依頼が受ける事が出来ないのですが、冒険者ギルドで何らかの補償って無いですかねぇ。それを理由に召喚をギルド経由で断れると嬉しいんだけど」
「それは無理です。ギルドと冒険者は対等な関係で、雇用関係では無いですからねぇ。ユウマくんが召喚を断る書状を書いて、それを領主に届ける事は出来ますが、あまりお奨め出来ませんよ」
「まあ、そうでしょうね。しょうがないので、行きます。はぁ」
領主リミツナの召喚状には、本日中に館に参上する様にと記載があった。
貴族や大商人は平民の都合を全く考えないんだなぁ。怒りがふつふつと湧いてきた。
ギルドから領主の館に向かって歩いていると、前から数人のチンピラ風の男達が歩いてきた。
「Cランク冒険者のユウマだな。ちょっと顔を貸せ!」
クロドを見てちょっとビビりながら声を掛けてきた。
いきなりだなぁ。
「断ります。俺は今、領主からの召喚に応えて館に向かってるのですが、それ以上の緊急の用事でしょうか? もしそうなら付き合いますので、領主に事情を説明して了承を貰って来てください」
俺は領主からの召喚状を見せた。
どこの誰かは知らないが、領主の召喚よりこっちの方が断然楽だ。
「りょ、領主・・・」
ビビる男達の中で、リーダー格の男が前に出てきた。
「うるせい!四の五の言うな。直ぐに済むから、始めにこちらに付き合え!」
「そちらに付き合って、領主の召喚に応えられなかった場合、どう責任を取るのでしょうか? 貴方達やその上の人が、とても責任を取れると思えませんが?」
「煩い!俺達も手ぶらじゃ帰れんのだぁ!」
「ぐるるるる」
俺の腕を掴もうとした男は、クロドの唸り声に後退る。
「おい、その犬を大人しくさせろ。犬が俺に手を出したら、お前は犯罪者になるぞ」
ん? そうなのかなぁ?
俺が考えていると、男達は大きめのナイフを抜いて、ゆっくりと近付いてきた。
「動くなよ。動いたら刺すぞ」
「その黒犬さえ動かなければ、大した事無いだろう」
「そうだな。黒犬が動けばお前を刺すぞ」
はぁ、領主の召喚に遅れるよ。
俺は男達の武器と服を全て亜空間にしまった。
「え?」
「なんだなんだ」
「何があった?」
「なんで裸なんだぁ!」
手に持った武器が急に消えて、裸になった男達は驚愕し慌てふためく。
俺は更に男達の首から下の空間を固定し封印した。
急に身体が動かなくなった男達は、恐怖から血の気が引いて顔が青くなり、冷や汗を流す。
「俺達に何をしたぁ!」
「俺の事を知らないのか?」
「『魔獣の窟』を攻略したCランク冒険者のユウマだろ? 黒犬のモンスターをテイムするテイマーじゃないのか?」
「テイマーじゃないよ。『魔獣の窟』を攻略した冒険者が弱い訳無いじゃん」
「で? お前達は何者だ。ん? その入れ墨はどこかで見たなぁ」
男達の身体の一部に、蜘蛛がナイフを咥えた入れ墨があった。
「あぁ、闇組織の『蜘蛛の牙』だね」
「そうだぁ!俺達に喧嘩を売ってただで済むと思うなよ」
「え? 喧嘩を売ってきたのは貴方達だよねぇ。『蜘蛛の牙』って『魔獣の窟』の下層のモンスター達より強いのかなぁ? 『魔獣の窟』が長年攻略されなかったのを考えると、そうは思えないけどねぇ。敵対した組織は許さないからね。『蜘蛛の牙』と貴方達を寄越したシミツコ商会は、俺と敵対したと認識したからね。伝えておいてね」
「え? 敵対する気はないです」
「なんで、シミツコ商会の依頼だと知ってるのだ?」
おやおや、鎌を掛けたら直ぐに白状したぞ。
「シミツコ商会に頼まれて呼びに来ただけなんです」
「助けてくださいぃ」
「せめて動ける様にしてくださいぃ」
「ダメだよ。ナイフを出して刺そうとしたでしょ、暫くそのままにしておくから反省した上で、上司に報告してね。後で仕返しに行くからね。それから、領主の召喚を邪魔した事も忘れないで報告してね」
俺は男達の武器とナイフを、亜空間から目の前に展開し、クロドと一緒に領主の館に向かった。
全裸で慌てふためく様子で固まった男達が、涙目で俺達の後ろ姿を見ていた。
「なんだか、ちっちゃいねぇ」
商店街のおばちゃん達の囁きが聞こえた。
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