第49話 シミツコ商会
「祝『魔獣の窟』攻略の宴」の次の日、俺はノックの音で目が覚めた。
宿の部屋のドアを誰かがノックしている。ベッドからモゾモゾ起き上がり、ズボンをはいて、上着を羽織る。
ベッドの横で寝そべるブラックドッグのクロドを、チラッと見たが警戒している様子は無いので、問題無いのだろう。
「どうぞ」
瞼を擦りながら入室を了承して、開くドアを見ていると、入って来たのは、宿の従業員。
「お早う御座います。朝早くすいません。シミツコ商会の使いの者が見えています。応接室に通しておりますが、如何致しましょうか?」
「お早う、シミツコ商会? 知らないなぁ。間違いじゃ無いの?」
「いえ、Cランク冒険者のユウマ様と仰っておりましたので、間違いありません」
「え? 昨日Cランクになったばかりなんだけど、何で知ってるの?」
「ははは、『魔獣の窟』を攻略したユウマ様の事は、街中の噂になっていますので、みんな知っていますよ」
「うひゃ、嬉しい様な、はずかしい様な・・・。シミツコ商会ってどんな商会なの?」
「この街最大の商会です。総合商会で日用品から高級品、武器や回復薬等何でも扱っていて、貴族街の一画に大きな本店を構えています」
うはぁ、1番会いたくない手合いだよ。昔、商人の元で奴隷の様に働かされてたから分かる。大きな商会って碌な者がいないんだ。普通は相当あくどい事をしないと大商会にならないからね。
しかし、ここで断ると使いの人がこっぴどく怒られるんだろうなぁ。
気は進まないが、行きますか。
「クロド行くよ」
「ワン」
クロドは目を開けてのそりと起き上がった。
俺とクロドが応接室に入った。
応接室には、ピシッとした服装の背筋をピンと伸ばしたおじさんが、立って待っていた。
俺が部屋に入ると男は訝しげに俺を見て、素速く身体全身を値踏みする様に見た後、平然としていた風に戻り頭を下げる。通常の人には分からないだろうが、俺は商人の元で叩かれながら教え込まれたので、その目線を見逃さない。
そしてクロドが部屋に入ると、一瞬驚愕の表情を浮かべるが、直ぐに戻す。
これも日頃の訓練で形だけ平然としているが、凄く驚き動揺しているのが分かる。
クロドの事は知っていたが、思ってたより大きくて怖い存在だったのであろう。
ただの使いっ走りでは無いな、中堅どころの使用人か商人だね。
「お早う御座います。シミツコ商会の使いのマタカシで御座います」
「お早う御座います。ユウマです。こんなに朝早くどんなご用でしょうか?」
「当商会のシミツコ会長が、『魔獣の窟』を攻略されたユウマ様と、お会いしたいとの事でお伺いしました。随分早いとは思いましたが、冒険者は朝早くから依頼を受けて街を出る事もあるので、依頼受注前にお願いする為に朝早くなった事をお詫び致します。是非ご同行していただきたくお願い致します」
ふうん。丁寧な物言いだが拒否を許さない雰囲気だ。上客なら都合を聞いて日程調整するんだが、その日のうちに直ぐに来いって、人の都合を無視するとは、随分下に見られてるんだね。
「分かりました。普通は都合を聞いて日程調整をすると思いますが、本日お伺いしないと、使いの貴方に迷惑が掛かるのでしょう。致し方ないので同行しましょう」
行きたくないけど、あんたの顔を潰さない為に同行してやる。って事だ。
「有難う御座います」
俺の冒険者らしく無い体格と言葉に、内心の警戒を僅かに滲ませた表情のマタカシが、深く頭を下げた。
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その頃、冒険者ギルドでは、『焔の剣』を指名手配にして、全国の冒険者ギルドに魔道具で手配書が回った事を、ユウマとミナトはまだ知らない。
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