第39話 冒険者にとって大事な事

「ユウマくん、有難う。でもね、お姉さんが冒険者にとって、大事な事を教えてあげるわ」


俺に助けられた、冒険者パーティー『風月の戦乙女』のカノンさんが決意した真剣な眼で俺を見詰める。


俺はそれどころでは無く、殺してしまった弓使いの男を震えながら見詰めていた。


殺す為に亜空間に収納したその男の脳は頭に戻した。血が流れている訳ではなく、見た目も死ぬ前と変わらないが、確実に死んでいる。


俺は初めて人を殺した。


モンスターを殺した時とは訳が違う。


この男は殺されなければ、この後で悔い改めて、真面目になったかも知れないし、もしかしたら家族がいるかも知れない。


俺はこの男の事を何も知らない。

今日初めてあった男だ。


俺は転生前の記憶もある程度思い出していた、転生前は日本人だった俺。


日本では、例え相手が殺人者であっても、殺してしまえば犯罪だ。


転生前は勿論、転生後も人を殺した事はない。


頭の中で色々な考えがグルグルと回る。


「ユウマくん!ユウマくん!」


いつの間にかカノンさんが、俺の側で俺の両肩を掴んで揺すっていた。


「は、はい」


「初めて人を殺したのね」


「は、はい」


俺は自分の顔から血の気が引いて、真っ青になっている事を感じている。


「その男の右手を見てごらん、太い針に紫色の液体が塗られているでしょう。毒が塗られている武器だわ。もしユウマくんがその男を殺されなければ、カエデが殺されていたわ」


「ユウマくん有難う。貴方は命の恩人よ」

カエデさんが俺に抱き着いてきた。


ナイフで斬られた傷は、回復薬の効果で塞がっていたが、傷痕は残っていた。胸もちらりと見える。


カノンさんは続けて話す。

「ユウマくん、武器を構えた敵は、躊躇しないで、殺さなければダメよ」


「・・・」

俺はカノンさんの言葉を黙って聞いている。


「ユウマくんは強いから、殺さなくても制圧出来ると思ってるでしょうけど、もしユウマくんに仲間や家族が出来た時、ユウマくんが敵を殺さないと、その人達が傷付けられたり、殺されたりするのよ」


確かに、アユム達を前回襲われた時に殺していれば、又は今回も空間魔法で全員殺してから現れれば、カエデさんは傷付けられなかっただろう。


でも、それで本当に良いのだろうか?


「ユウマくん、冒険者がCランクに昇格する時に、盗賊討伐のクエストを達成して、人を殺す経験をさせる事は知っているわよね?」


「そ、それは、知っています」


「護衛の依頼を受けられる冒険者が、Cランク以上になっているのは、護衛をする場合に躊躇して敵を殺せないと、依頼者を守れないからよ。依頼者も敵を殺せない護衛は雇わないわ」


「そ、そうですけど・・・」


「ユウマくん、私達を襲った冒険者達が、まだ4人生きてる。彼等がこのまま生き延びて万が一逃げられたら、次はどんな手を使って来るか分からないのよ。彼等だって生きる為には何でもやるわ」


「は、はい・・・」


「今すぐ、4人を殺しなさい!」


「え?」


「それが、ユウマくんが今後も冒険者としてやっていく為には、絶対必要で大事な事よ!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


その頃の『焔の剣』は・・・。


「お腹空いたなぁ。そろそろ食事の時間じゃない?」

回復士ユイナは剣士ミナトに尋ねる。


(この人さっきから、何か食べていたじゃないか)と思っているが、口に出せない冒険者。


「そうだな、俺も腹減った。お前等も腹が減っただろう?」

剣士ミナトはCランク冒険者達に聞く。


「ま、まあ、そうですね」


「休憩場所まで案内してよ」

弓使いヒマリが冒険者の女性にお願いするが、お願いと言うか殆ど命令だ。

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