第38話 傷

俺はダンジョン『魔獣の窟』にて、ゲス冒険者達と対峙していた。


弓を構えた冒険者が矢を放つ。


しかし、亜空間作成で空間をバリアの様に展開しているので、矢を弾く。


カコッ!


その直後、元『烈風の戦士』のアユムが剣を振り降ろすが、剣も亜空間のバリアで阻んだ。


ガコッ!


「くっ!てめぇ!やっぱり強えか?」


面倒だなぁ。

アユムを空間魔法で封印した。


そして、続いて斬り掛かる、Bランク冒険者のレオも封印した。


2人は人形の様にそのまま体勢で固まって動かなくなった。


後1人剣で迫って来るが・・・。


ドガッ!!!


ブラックドッグのクロドが後ろから、押し倒して、俯せになっている男の背中に乗っていた。


「グルルル。動くなワン。いつでも首を噛みきるワン」


クロドって唸り声は怖いけど、喋ると気が抜けるなぁ。


とその時・・・。


「きゃああああああああ!」

女性の悲鳴。


「ユウマァ!仲間を元に戻せぇ!そして黒犬も退かせろぉ!」


弓使いの男が『風月の戦乙女』の1人であるカエデを、後ろから掴んでナイフを首に当てていた。


カエデは両腕を縄で縛られたままだ。


その周りを『風月の戦乙女』のカノン、ミウ、ワカナ、マナミの4人が囲んでいる。


「ユウマくん、御免しくじった」

カノンが男から眼を離さず、構えたまま俺に詫びる。


俺が男を見て睨むと、男はカエデの胸から下にナイフを滑らせた。


ブシュ!


胸の中央から腰にかけて、服が切れて赤い線が入り血が流れて、肌が露わになった。


「きゃあああああ!」


「ユウマァ!こっちを見るなぁ!早く仲間を元に戻さないと、こいつを殺すぞぉ!」


俺は眼を逸らし、怒り込めて心の中で

呟く。

(別にそっちを見なくても、空間魔法をお前に使えるんだぞ!)


空間把握で確認し、先ず始めに男のナイフを亜空間にしまった。


突然持っているナイフが消えて男は焦る。


「な、ナイフが消えた。ちくしょう」


男はショルダーバッグをごそごそあさり、何かを出そうとしている。


他にも武器を持ってるのか?


俺が気を抜いた為にカエデが斬られた。


致命傷には見えないが、傷は残るかもしれない。


怒りが沸々と沸き上がり、思考能力が落ちていく様だ。


俺は弓使いの男の脳を亜空間にしまった。


息の根が止まり、糸が切れた操り人形の様に崩れ落ちる男の身体。


俺はカエデさんの元に駆け寄る。

「カエデさん、御免なさい。俺が気を抜かなければ、こんな事にはならなかったのに・・・」


俺は亜空間から回復薬を出して、カエデさんに渡す。


「有難う、大丈夫よ。命は助かったわ。ユウマくんは何も悪くない。回復薬も有難う」


カエデさんは回復薬を飲み、傷口にかける。


そこにヨロヨロと集まる、『風月の戦乙女』の他のメンバー。


「ユウマくん、有難う。でもね、お姉さんが冒険者にとって、大事な事を教えてあげるわ」


カノンが決意した真剣な眼で俺を見詰める。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


その頃、ダンジョン『亡霊洞窟』の『焔の剣』は・・。


「おい、俺はAランク冒険者パーティー『焔の剣』のミナトだ」

いきなり冒険者の1人の肩を組み、冒険者証を見せて、声を掛けるミナト。


「は?ど、どうも。Cランク冒険者パーティー『太陽の獅子』のケンシンっす」

取り敢えず頭を下げるケンシン。


「ちょっと迷子になっちまってよ。出口まで案内してくれ」

ケンシンの耳元に口を寄せ、ドスの効いた声でお願い・・・するミナト。


「は?」

驚くケンシン。


「良いよねぇ。断る何て言わないわよね?」

魔法使いアオイが強引に進める。


「は、はぁ」

明らかに気乗りしていないケンシン。


「有難う!宜しくね!」

弓使いヒマリは近くに居た女性冒険者の肩を叩く。


「・・・」

俯き無言の女性冒険者。


回復士ユイナはもぐもぐ何かを食べていた。

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