記録43 兄と弟
アルジェントの父、レライトはアルバムを持ってきた。その数、十冊。どれもかなり分厚い。
「どこから話そうか……」
レライトはアルバムを捲りながら、どんな過去を語ろうか迷っていた。
「お祖母様から聞いたことがあるんだけど、叔父様って幼い頃から、私のお父様にべったりだったって……」
クローチェがそう言うと、レライトは頷く。
「そうだよ。兄はとても優しくてね。いつだって私のことを気にかけ、かわいがってくれたんだ」
レライトが見せてくれたアルバムのページには、幼い2人の写真が並んでいる。
どの写真を見ても、レライトは自分の兄にぴったりくっついている。
レライトは、写真を見るとふんわり笑う。
「懐かしいな……それと、思い出すな」
「何を?」
アルジェントが少し首を傾げてそう聞く。
「アルジェントも、幼いクローチェをお世話したり一緒に遊んだりで、べったりだったんだぞ」
ピタッと動きが止まるアルジェント。
クローチェは「今のアルジェお兄様からは想像がつかなーい」と言う。
「へぇ〜ぜひとも詳しく聞いてみたいな〜?」
にやにや顔のフォルティ。
アルジェントがフォルティの首を絞めようとするので、アガットとリザシオンが必死で止めた。
「えっと、若い頃の魔王ってどんな生活を送っていたんですか?」
アルジェントが落ち着いたのを見計らって、リザシオンはレライトに質問した。
「やる事をささっと終わらせて、気がつくと寝てたね」
それを聞いたクローチェはクスクス笑う。
「お父様ってば、昔からよく寝てたんだね」
レライトは別のアルバムを手にとって、あるページを開いて見せてくれた。
みんな、思わず覗き込んでまじまじと見てしまう。
「すご〜い!お父様の寝顔の写真!!」
クローチェは感嘆の声を上げる。
それも何枚もある。
「よく撮れましたね……」
ミーチェが呆れと驚きを交えた声で呟いた。
「最初は面白半分でね。でも兄は、寝顔の写真を見せても全く気にしないどころか、もっと撮ってもいいんだよ?って言ってきたんだよ」
レライトはハッハッハと当時のことを思い出して笑う。
「ひぇええ……魔王の心は鋼というか、海のように広いというか……」
リザシオンの言葉にレライトは頷く。
「そうだね、勇者殿の言う通り。兄は優しく、優秀で、そして心が広い上に強靭……無敵の人だったよ。……何をやっても普通の結果しか出せない私とは違って」
「……叔父様?」
レライトの最後の一言から、ドロッとした闇を感じたクローチェは思わずレライトの顔を覗き込む。
そんな時、クローチェの隣に座るアルジェントがレライトと向き合う。
「確かに魔王様は優秀で素晴らしい方ですが、父上もすごい方です。誰よりも、魔王様のことを理解し、魔王様がやりたいことを問題なく進められるようにしていたのは、他の誰でもない、父上です」
その言葉にレライトはふっと笑う。
「ありがとう、アルジェント。だけど私は、当然のことをしただけだ。弟である私は兄を支えるために存在しているのだから」
「父上……」
もやもやとしたものが、アルジェントやクローチェ、リザシオンの心に残る。
ふと、リザシオンはここに来る前……クローチェと共にレライトのいる屋敷に向かう馬車に乗ることになった時のことを思い出した。
偶然だった。
たまたま魔王城に行ったら、馬車に乗り込もうとしているクローチェと、見送りにきた魔王代理と鉢合わせしたのだ。
そしたら……
「ちょうどいいわ、貴方達も一緒に行ってくれない?」
「え……えぇ!?」
リザシオンは、まさかそうなると思わなくてうっかり叫んでしまう。
「行くのはいいけど……でも、どうして?」
あわあわしてるリザシオンをほっといて、ミーチェが代わりに聞く。
「強力な術を使える魔族……ということで、彼は当てはまるのよねぇ」
馬車に乗り込みかけてたクローチェがひょこっと顔を出す。
「叔父様はもちろんだけど……叔父様と親しい部下にも何人かは魔術に詳しい魔族がいるものね」
クローチェの言葉にフォルティは、なるほどと呟く。
「つまり、レライト殿と周辺人物を調べてこいってことですかね?」
魔王代理は頷く。
それに……と魔王代理は口にする。
「彼はいつも、魔王と比べられていた……色々と心配なのよ」
「そうだ、馴れ初めとかききたいんじゃない?」
レライトが話題を変える。
「え、お父様とお母様の馴れ初め!?聞きたい!」
クローチェがガバッと前のめりになったところで部屋の扉をノックされる。
入ってきたのはレライトの妻、レティアだ。
「皆様、そろそろお茶とかどうですか?」
そろそろ喉も渇いてきたので、ありがたくお茶をみんな頂く。
クローチェは隣に座るアルジェントの様子が気になった。
「アルジェお兄様、変な顔してる」
「は?いきなり何なんだ」
「いや、冗談じゃなくて。険しい顔してるよ」
アルジェントは自身の顔に触れる。
「最近……父上の様子が、変なんだ」
声を潜めてアルジェントが言う。
チラリとクローチェはレライトの方を見る。
レライトはレティアとリザシオンと会話している。
「そうなの?その、最近っていつ?」
「確か……アレだ。この間、勇者達が捕まえただろう?魔王様を陥れた魔族を。その報告を聞いた辺りからだな」
クローチェは静かに紅茶を飲み干した。
やはり、レライトなのだろう。
ラノと同じく魔王を陥れ、そしてラノに心の声を周りの人に聞かれないようにガードする魔法をかけたのだろうか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます