記録12 惚れ薬

そこは魔王城内の一角。

魔族たちが談笑している。

そこにはあの子も・・・


「ルナーリア様ってば美人なんですから、もっとシャキッとなさいな。前髪も切った方がいいんじゃありません?」

漆黒の翼が美しい鴉の婦人が扇越しからルナーリアをじっくりと見ながらそう言う。

「そうですよ~そうですよ~ルナーリア様はとぉっても美しいのですから~」

鴉の婦人に同調するように羊の獣人少女がうんうんと頷く。


「いや、その、美しいだなんて、そ、そんな・・・」

しどろもどろに答えるのは、腰まである艶やかな青紫色の髪に、長い前髪の隙間から覗くは深い海の底の様な群青色の瞳。

そして、抜群のスタイルの持ち主、サキュバスのルナーリアが縮こまって座っていた。


そんな時だった。


「そうよ!私の妹は超!可愛いの!そして美しいの!!さすが、私の妹ね!」

突然、ルナーリアたちが座っている側の観葉植物の間から現れたのは・・・

ルナーリアと同じく、美しい青紫色の髪を持つ、抜群のスタイルの美女・・・


「お、お姉さまっ!?」

そう、ルナーリアの姉、リナリアの登場である。


リナリアはエメラルドの様な鮮やかな緑色の瞳でルナーリアを見ると、得意気な顔をする。

そして、ポケットからあるものを取り出す。


「リナリア様、一体、それはなんですの?」

鴉の婦人が小首を傾げてそう聞けば、ずいっとリナリアは座っている三人に顔を寄せる。

リナリアは片手に持つ小瓶を振る。

小瓶の中のベリーカラーの液体も揺れる。


「よくぞ聞いてくれたわ!これはズバリ!」

「「「ズバリ?」」」

「惚れ薬よっ!!」

数秒の沈黙。

「なんだぁ~惚れ薬なんてこの魔王城にいくらでもあるじゃないですかぁ~」

羊の獣人少女がつまらなさそうな顔してそう言う。

しかし、リナリアはニヤリと笑う。

「普通の惚れ薬と思ってはいけないわ!この惚れ薬は『確実にルナーリアに惚れてしまう薬』なんだもの!!」

「な・・・お、お姉さまっそんな物をど、どうしてっ・・・と言うか、いつの間にそ、そんな物を・・・!?」

ルナーリアはあわあわとそう聞けば、リナリアがぐっとルナーリアの体を引き寄せる。


「だって、ルナーリアってば私とよく似て美人だって言うのに、サキュバスらしく男たちを魅了して誑かすより、得意な裁縫ばっかりしてるんだもの。最近はクローチェ様の衣装を作ってばかりだし?」

リナリアはルナーリアの体に密着させ、耳朶を舐めるように囁く。

その姿は艶かしく、同性の鴉の婦人と羊の獣人少女は目のやり場に困り出す。


「でもね、これはまだ完成じゃないのよね。あとルナーリアの吐息をこの小瓶の中に入れて、満月の光に当てたら完成なの!」

リナリアはルナーリアにぴったりと寄り添い、ルナーリアの青紫色の髪を指に絡めて遊び出す。


「そんなわけでルナーリア。この小瓶に貴方の吐息を入れて頂戴?」

「そ、そんなわけってどんなわけなんですか!?大体、そんな物・・・ひ、必要ないですよ!」

ルナーリアはリナリアの体を引き剥がそうと押したり揺らしたりする。

それでもなかなかリナリアはルナーリアから離れない。

小瓶を持つ片手も揺れるので中の液体も激しく揺れる。


「えぇ~、それだとルナーリア、経験が少なすぎない?例えばだけどルナーリア。今、勇者たちが来たとして、逃げずに勇者とかその仲間を魅了出来る~?」

リナリアのその言葉にうっと言葉を詰まらせるルナーリア。


そんな時だった。

突然、ルナーリアのほぼ真上に真っ赤な魔方陣が浮かび上がる。

そしてそこから・・・


「ルナーリアッ!!探したよー!」

「ちょっと姫様!!」

クローチェとフィクが魔方陣から現れ、クローチェはガバッとルナーリアに抱きつき、ルナーリアはバランスを崩しかける。


ルナーリアに密着していたリナリアもバランスを崩す。


スルリ


「あ」

リナリアが持っていた小瓶が手から滑り落ちる。

背後は吹き抜けになっており、小瓶は下へ落ちていく。


それに真っ先に反応したのは。


バサァアアッ!

翼を広げたフィクが飛び降り、落ちていく小瓶に手を伸ばす。


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