第17話 あれから一年過ぎました! ええ、過ぎました!!
季節は巡る。
気付けばあっという間に一年が過ぎていった。こんなこと言うと先生たちは、自分たちくらいになったらもっと早く感じるよと笑うわけだけど。
「ほら。先生、見えるかな。あたし達が怒鳴り合ったあの時と同じ葉桜だよ」
写真の中で先生は不器用に笑う。
あまり写真写りが良いほうではないと言っていた先生の、それでも一番良い笑顔な写真。
「あと一年……。あたしも頑張っていくからね」
「……」
「ちゃんと卒業して、お母さんのお墓に向かって」
「すまないのだが」
「何すか」
「人が死んだみたいに演出するのは止めてほしいのだが……ィ!?」
「ふんッ!!」
悲しそうな顔をしている爺の足を思いっきり踏み抜いてやってから、私はどんちゃん騒ぎする一行のもとへと戻っていく。
後ろでひょこひょこ歩いている姿に若干すっきりした。
「まさか、宮尾先生があの伝説の不良『熊殺しのミヤ』だったとは!」
「止めてよぉ! 中学生の時に周辺の高校まで制圧しちゃった友川さんに言われても恥ずかしいだけだよ!」
無事に高校を卒業し、お菓子つくりの短大へと出向、じゃない。出て行った友川元部長がここに居るのはどうしてだろう。
「抜け駆けはさせんッ」
ああ、そうですか……。
抜け駆けもなにもさ。あんな爺……。
「で、どうして桜っちはいまだに秋田っちに対して冷たいんさ」
「ンなもん! 嫌いだからだよ!」
「へぇん。で、本音は?」
お前はそこで勝手にさきいかでも食べてろよ!!
何が本音だ。そんなもん、本音も何も!
「そんなもん決まってんだろうが」
「成瀬先生!!」
この一年ですっかり素を見せてくれるようになった。なってしまった成瀬先生があたし達の会話に割って入ってくる。
「乙女としちゃ思うわけだ。自分を始めて助けようとしてくれた男性に」
「先生!」
「家族になろうと言われて。はっ、まさかこれはプロポーズ!?」
「だまッ!!」
「それがまさかの」
「先生ッ!!」
「養子縁組ッ!」
「くたばれッ!!」
美貌が崩れることお構いなしに大口開けて笑う成瀬先生にジュースの缶を投げつけるけれど、いとも簡単に受け止められるのがまた悔しい。
ああ。そうそう。
そうですよ。
あのあと、あたしと秋田先生は養子縁組を結ぶことになりましたともさ!!
血縁関係になれば私が御金を出すだけで問題は解決出来ると、さも素晴らしい案だと言わんばかりにね!!
色々。別に成瀬先生が言ったことは関係なく!! 色々と茫然としている間にあれよあれよと親戚の家などに先生が押しかけてひと悶着もなくあたしは養子になりましたともさ! ええ、なったともさ!!
「さすがは秋田っち。突拍子はないけど、そこで結婚とかな少女漫画要素はないわけだ」
「その辺があいつがまだ独身な理由だな」
「そこで俺が先生を養っていくと!!」
「お待ちください! わ、私が先生、とその、結婚ということもある、はッ! 春川……じゃない桜子!! ママと呼んでも良いんだぞ!!」
「呼ぶかァァ!!」
「だっはっはッ! 諦めろよ小娘共。あれが今更教え子に手ぇだすわけねえって」
「出したらまさに物語なんすけどね」
「そこで俺が!」
「「その物語はいらねえ(っす)」」
「いったい何の話をしているんだね」
足をひょこひょこさせてようやく合流出来た諸悪の根源。
やっぱり一発殴って入れ歯をぶっとばしてやろうか。
「ンにゃ? なんでまた花見じゃなくてこんな時期にどんちゃん騒ぎしてんだろうなって話だよ」
「俺は先生となら真冬だろうが、火山のなかだろうが喜んでお付き合いしますよ!!」
宮尾先生のヤバい発言は放置するとして。
やっぱり葉桜見は変だろうか。変だな。
皆の予定が合う日程にしたっていうのが一番の理由ではあるんだけど、でも、それともう一つ。
あたしが……。
「そうかね」
「ン?」
「確かに桜の花は美しいものだが」
あたしが……。
「そのあとを誇る桜の緑は、木々が一生懸命生きている証拠を見ているようで……、私はこちらのほうが好きなんだがね」
あたし、が……ッ!
「やっぱりお前の感性はおかしいって」
「かもしれないな。だが良いじゃないか、桜だってたまには花見以外の時期に見られることも許してくれ、うん、どうした桜子ォオ!?」
「少しはッ!!」
不良が教師によって更生されてハッピーエンドな物語?
それはそれはなんとも
「物語性持たせろォォオ!!」
心地悪いお話でありますことよ!
葉桜の君に @chauchau
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