幕間
皇帝と別れ塔の根元の隠し部屋にこもってから、どれだけ時がたったのだろうか。
あれから、ずっと冬海の夢を見ている。
霧の都から来た少女の目が冬海と同じ色だった。
そのせいだろうか。
深い青色の、彼の綺麗な目が好きだった。
彼が私を呼ぶ時の、少し遠慮がちな、でも優しい声が好きだった。
ステラナイツとして戦いにのぞむのは正直あまり好きではなかったけれども、
でもステラドレスに宿る自分を守る彼の存在を感じるのは、何よりも好きだった。
愛しき
この記憶は私のもの。
ロアテラに冬海を奪われてしまった今、私に残されたものはこの記憶だけなのだから。
正しく世界を終わらせよう。
私の、そしてこの世界の愛しき記憶を守るために。
聞こえますか?
私の声が聞こえますか?
世界の自死を認めぬ同胞たる騎士たち、そして異界の騎士たちよ
今宵、次元の柱に凝華の怪物が現れます
あなた方の力を貸してください
世界を正しく終わらせようとする者に
我らは間違い続ける道を選ぶと告げるために
——さぁ、誓いの言葉を、星と霧の騎士たちよ
ティア:その日の深夜、ティアはウィリアムと初めて出会った場所に駆けていた。さきほど、はっきりと霧の女王の声が聞こえたからだ。息を切らしながらひと気のないそこへ辿り着くと、すでにシースたる彼の姿があった。
「ウィリアム!」
ウィリアム:彼は闇の中で彼女が来るのを見ていた。ここについたのは彼のほうが早かったが、大した時間差はない。彼女の足音に安心と高揚を覚える。
「ああティア、来たね。……行こうか、螺旋階段の先へ」
僕は君と共に走れないけれど、君を包んで守ろう。
ティア:「ええ、行きましょう」
ティアはウィリアムの差しのべてきた手に自らの指先を置く。
「笑顔を未来に伝えるために!」
ウィリアム:「笑顔を未来に伝えるために!」
そう応えて、彼女の指先に唇を寄せた。彼女の笑顔が見たいけれど、それはきっと自分で叶える願い事だな、と思いながら。足元から琥珀色の桜の花びらに変わっていくのが判る。ウィリアムは無数の花弁になってティアの体をそっと包んだ。
ティア:降りしきる花弁が消えると、ティアは紫の布地に琥珀色で桜の花びらが刺繍された東洋系の伝統的なドレスをその身にまとっていた。腕には大きめの手甲が装着されている。
この姿であれば、霧の時計塔の更に上、見えない螺旋階段を登っていくことが可能となる。ティアは深呼吸をすると、霧の時計塔へと走り出す。誰かの一存で世界は終わるべきではない。その考えが正しいのかもまた、わからないのだけれど。
いまの自分に出来ることは、ミストナイトとして怪物と化していく誰かを止めることだけだった。
アリアナ:静かな夜だった。霧に沈み眠ろうとする街でアリアナの耳に響いたのは、先日の少女の声。凛とした声音に注意すれば、あの邂逅のときももっと早く気付けただろうと思いながら、時計塔近くの公園のベンチから立ち上がる。
「行こっか、ラウ。あの人を止めよう」
フラーウム:「ああ。止めなければ、世界が終わってしまうだろうからな」
フラーウムも立ち上がり、アリアナの手を取った。
アリアナ:彼の温もりを感じながら、重なった指先に僅かに力をこめる、フラーウムの瞳をまっすぐに見つめながら高らかに歌うように告げた。
「望むものがある限り、世界に光を!」
フラーウム:突っ走ってくれるなよ、とアリアナの瞳に語りつつフラーウムもまた告げる。
「望むものがある限り、世界に光を!」
その言葉とともにフラーウムの体は光の雨となり、アリアナに降り注いだ。
アリアナ:アリアナに光の雨が降り注ぎ、鈍色の鎖帷子が編み上がる。板金の籠手と足鎧、濃灰色のマント、柄にシロツメクサを象った琥珀の飾られた大剣。
手にした白い蝶のような仮面をつけ、アリアナは深呼吸をする。
「誰かの一存で、人に望まない終わりを強いるなんてだめなんだよ。ラウ、明日のために今日も行こうね」
剣の柄をそっと撫でて囁く。アリアナは天を目指して走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます