間奏2

桜の御所の庭園にて。彼はひとり、スコーンをつまむ。


滑らかで濃厚なクローテッドクリームをそえ、そして香り高い紅茶には、霧の帝都風にミルクをたっぷりいれて。


「うん、ミストナイトくんお手製のスコーンも、悪くない。いや、大したものだ。女王のには少々及ばないけれども」


スコーンをかじり、彼はそう上機嫌に呟いた。


「君は世界を美しいと言ったね。そして生き抜く意思も」


そう自分の前で言い切った青年の凛々しい顔を思い出し、桜の君は穏やかな笑みを浮かべる。


「僕もそう思うよ。それはとても大切なものだと。だからね。」


だから、ロアテラに捕食させるわけにはいかないんだ。           「君はまた、彼らを遣わして邪魔をするのだろうけれど。でもね、今回の愛しき思いメモリィズ
はとっておきだ。」


とびきり美しい思い出は、それだけ強力な力を有している、だから。




頭上には決して散ることのない桜の花。


大切なものも、美しいものも、そのままに。


輝ける世界よ、永遠にあれ。


このまま時を止めてしまうことが、桜の皇帝である彼の意思。

この世界の民と、
そしてなにより、君を救うために、
今度こそ、この世界を滅ぼす。



もうじき会えるから、待っていてくれ。
壊れてしまった、僕の愛しい霧の女王ブリンガー。





霧の帝都、白亜の宮殿の一室にて。

彼女はひとり、スコーンをつまむ。


クローテッドクリームは山盛り。そして熱々の紅茶にはミルクとお砂糖をたっぷりいれて。


「今度のレシピはどうかな。うん、悪くない。ちょっと冒険して、にんじんとか入れてみたんだけど」


スコーンをひと口かじり、彼女は軽く眉をよせてそう呟いた。


「今度いつ、彼に会えるのかな」


彼がまた、世界を支える柱を壊すための使徒を造りだしたことを、彼女は知っていた。


黒き使徒が現れるのは明日である。もちろん、彼女も何もしないで手をこまねいているわけではない。


「私は、戦わずにあきらめるのは嫌なの。」


たとえ、いずれ暗闇の世界が訪れるとしても。


「あなたは、私のことを壊れているというのだろうけれど。でも願いを持つ者がいる間は、可能性に賭けてみたいの。」


まだあきらめたくない。
だって、人々の願いはこんなにも美しくて、そして強力な力を有している、だから。




窓の外には決して晴れることのない白い霧。


大切なものも、美しいものも、いずれ消えてなくなってしまうのかもしれない。


でもまだ、ほんのひとかけらでも可能性が残っているのならば、それに賭けてみたいのだ。


最後の時まで破滅に抗うのが、霧の女王である彼女の意思。


私といっしょにロアテラと戦って。


きっと私とあなたなら、ロアテラにだって、勝てると思うの。


だって、私はこんなにもあなたのことを想っているのだから。



お願い、私の最後のわがままを聞いて。


完璧にして完全なる、私の愛しい桜のシース

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