第14話 もう一人の転生者
私の頭は追いついていなかった。私は今まで自分だけが転生者だと思っていた。だけれど、このダリオも転生者らしい。
「あ、あの……ダリオと呼べばいいのかな?」
「むふ。それでいいでござるよ。拙者にも前世の名前はございましたが、今はダリオで構いませんぞよ」
「じゃあ、私もモニカでお願い。今更、前世の名前で呼ばれても違和感の方がありそうだし」
色々と疑問に思うことはある。なら、私は1つずつ質問することにした。
「ねえ、ダリオ。どうして私が転生者だと気づいたの?」
最初の疑問はこれだ。まず、それがわからなければ正直言って気持ち悪い。
「それは、モニカたその行動を見ていればわかりますわー。ほとんどのキャラがゲーム内と同じような言動をするのに対して、モニカたそは違いました。悪役令嬢にあるまじき、品行方正さ。正に女神! 拙者のエンジェル!」
「は、はあ……」
「正直、モニカたそは見た目だけなら拙者の好みドストライクなのです! ただ、性格が悪役令嬢なので主人公のディアナを虐める性悪女ってところが受け入れられなかったのです。その性格が是正されたモニカたそは正に無敵! 推せる! 最推し!」
「そ、それはどうも……」
「まあ、拙者の知っているモニカたそと性格が違いすぎたから、これは拙者と同じく、転生者が中に入っているものだと確信したわけです」
なるほど。この世界は基本的にゲームの登場人物がそれ相応の行動をとって成り立っている。もし、想定外の行動を取るキャラがいたら、それは間違いなく転生者であろう。
「次の質問いい? どうして私を助ける気になったの?」
「そりゃ、拙者は生前から、ディアナよりもモニカたそ派ですからな。モニカたそのえちえちなイラストも描いてネット上にアップしたこともありますぞ」
「え、ちょっと待って。貴方一応男の人だよね? 乙女ゲーをプレイしているの?」
「ええ。拙者、乙女ゲーも守備範囲ですからな。ギャゲーの女性キャラは狙いすぎていて受け付けないのです。その点、乙女ゲーの女性キャラは狙っていない自然体な可愛さというものがあって、推せますなあ!」
変わった人もいるもんだ。それにしてもモニカのえちえちなイラストか。正直見たくない。モニカは言わば私の分身のような存在。あんまりひどい目にはあって欲しくないな。
「あ、そうだ。モニカたそ。ちょっと拙者の必殺技を使おうとしてみてください。拙者のスキルは体を硬質化する
「ん。わかった!」
私は全身に力を籠める。しかし、私の体は柔らかいままだ。硬くなったりしない。
「むむ、おかしいですな。拙者のモニカたその好感度は既に振り切っているはずなのに、スキルが扱えないと」
確かに不思議な話だ。このダリオの中の人は私……というかモニカのことが好きなはずなのに。
「もしかして、ダリオが転生者なことに関係あるのかな?」
「それはわかりませんなあ。ただ、拙者の
「そうだね。ダリオの攻略難易度は最高難易度。その分得られるスキルも、強力だからね。ダリオルートは好感度上げが大変だけれど、一度好感度を上げたら、戦闘は楽勝だから」
ダリオのスキルが使えないのは私にとってかなり痛い話だ。なら、他のキャラのスキルを集めるしかない。
私が現状取得しているスキルはケンの飛び膝蹴りだけのはず……あれ? いつの間にかヨシツグの一本背負いも習得している。さっきの戦いでヨシツグの好感度が上がったのかな。
なんにせよ、もうヨシツグの好感度を上げる必要がないのはいいことだ。他のキャラの好感度上げに専念できる。正直、他の漢キャラをとっかえひっかえするのは私の信条に反するけど、事情が事情だから仕方ない。きちんとみんなの好感度を上げてスキルを集めないとディアナには勝てない。
「モニカたそ。ディアナはハッキリ言って強敵です。モニカたそが勝てる確率は、相当低いでしょう。けれど、拙者はモニカたそに勝って欲しいのです! モニカたそがいない学園生活なんて送りたくありません!」
「うぅ……ダリオ。そこまで私のことを思ってくれるんだね。ありがとう」
この世界に転生してからあまりいい思いはしてこなかった。けれど、同じ転生者の仲間がいて、その人が私のことを思ってくれる。これだけで少しは救われたような気がする。
「さて……そろそろキャラを戻そうか。俺様たちのキャラが違うことが他のキャラに気づかれたら、この世界がどうなるかわからない」
「ええ。そうですわね。久々に素の状態でお話できてとても楽しかったですわ」
「ああ。俺様もそう思うぜ。モニカ。修行が必要ならいつでも付き合うぜ。遠慮なく言ってくれ」
「それは心強いですわ。ディアナもダリオと同じく硬い皮膚の持ち主。その攻略法を掴むためにはダリオと戦うのが一番ですもの」
私はダリオと堅い握手を交わした。ダリオの手はゴツゴツとして硬かったけれどなんとなく頼もしさのようなものを感じた。
「うひょー! モニカたそと握手してしまった。夢ではないでしょうか! 拙者もう死んでもいいでござる!」
大丈夫かな。この人……
◇
「わー急げ急げ」
何者かがそう言いながら私に突進をかまして来た。痛い。一体なんなのもう。
「いたた……なにしますの! 廊下は走ってはいけませんわ!」
私はぶつかってきた人物を叱った。するとその人物はしょんぼりしてしまった。
「うぅ……ごめんなさい」
オレンジ色のツンツンした髪型の少年はそう言った。まだ幼さの残る顔立ちと言動。そのキャラが世のショタコンお姉さまに受けているのだ。これで主人公のディアナや悪役令嬢のモニカと同い年である。
そう。このキャラこそがビル・パイソン。こんな顔しているけれど、関節・絞め技が得意というじわじわと攻めて来るいやらしい性能をしているキャラである。
そういえば、某巨大掲示板群の攻略スレッドにビルきゅんに絞められたいとか妄言言っている人がいたな。懐かしい。
「大丈夫? 怪我はない?」
純真な瞳で私を心配してくれるビル。ああ、やばい。私にはその気がなかったはずなのに、目覚めてしまいそうだ。やはり、画面越しに見る世界と実際の景色とでは違う。
違う。私はショタコンじゃない。ノーマルだ。きっとそうだ。ってか、別にビルは同い年だからショタコンもなにもないんだけれど。それでもこの幼い顔立ちはどこか犯罪性を秘めている。
「あのー……やっぱり怒ってる?」
ビルは不安そうな表情を見せた。私がさっきから黙っているせいで怒っていると思われたのだろう。
「いえ。少し考え事をしてましたの。怒ってませんから安心しなさいな」
私の言葉を受けてビルの顔が明るくなる。本当に表情が顔に出やすい子だ。可愛い。やばい。私の中の母性がきゅんきゅんと疼き始めてしまった。私、ビル推しじゃなかったはずなんだけどなあ。
「そっかぁ! なら良かった! あ、僕はビル・パイソンって言うんだ。よろしくね!」
「わたくしはモニカ・アルスターですわ。よろしくお願いしますね。それより、ビル。あなたのほうこそ怪我は大丈夫ですの?」
「ぶつかってきた僕のことを心配してくれるの? ありがとうモニカさん。優しいだね」
「べ、別に優しいとかそんなわけじゃ……」
「ううん。モニカさんは優しいよ。僕のお姉ちゃんになって欲しいくらいに」
「もう! なに言ってるんですか!」
「えへへ。冗談だよ。それじゃあね」
こうして私はビルとの初対面イベントを済ませた。新しい攻略対象キャラと接触できて少しテンションが上がってきた。
ビル。必ずあなたを私の虜にしてみせる! そして、そのスキルを私にちょうだい。私には必要なんだ。ディアナを倒すだけの力が……
なんだか、私は力に取りつかれたバーサーカーみたいになっているけれど、仕方ない。これも破滅フラグを折るために必要なことなんだ。
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