第2話 追放されたくない

 私は追放されたくなかった。けれど、ディアナは私の想像より遥かに圧倒的に強かった。クマを素手で倒すだけのことはある。1日64時間も筋トレすれば人はクマを倒せるのだ。


 だとすると破滅フラグを回避するもう1つの方法を試すしかない。それはディアナに媚を売ることだ。徹底的に媚を売って売って売りまくって追放を免れるのだ。


 考えてみればそうだ。なんでこんな簡単なことに気づかなかったのだろうか。悪役令嬢モニカが追放されたのは、主人公のディアナに嫌がらせをしまくったからである。つまり、私がディアナを虐めさえしなければ、なんの問題もないのだ。


 というか、あんだけ強いなら虐められるなよ。おかしいでしょうが! なんで、モニカもディアナとかいう筋肉馬鹿を虐めようと思ったの。やり返されるに決まってるでしょうが!


 そうと決まればディアナと友情を深めることにしましょう。そうすれば、きっと彼女と戦わずに済む。


 まずはディアナのプロフィールから確認しようか。ディアナの好きなものは紅茶だったはず。だから、彼女をお茶会に誘いましょう。


 そうと決まれば善は急げ! 私はディアナの元に向かった。


 いた! あの主人公特有のモブ顔をしている女こそディアナ。第一村人発見! 今すぐ話しかけよう。


「ディアナさん。御機嫌よう」


「おっす、おらディアナ。よろしくな」


「なんですかその挨拶は……」


「庶民の間で流行ってんだ。おめえそんなことも知らねえのか? ぶっ殺すぞ」


 やめて。野沢さんはそんなこと言わない。確かに貴女もカカ□ットも修行好きの戦闘民族だけれども。


「これからわたくしはお茶会を開きますの。ディアナさんもご一緒にいかがですか?」


「おら肉食いてえぞ? そのお茶会っつーのは、飯が出るんか?」


 出るわけないでしょうが。って、いつまでその喋り方続けるつもりなの?


「ふざけていると参加させませんわよ」


「ご、ごめんなさい。ジョークです。参加させてください。お願いしますモニカ様」


 くくく、かかった。このお茶会でディアナの好感度を上げて、私の破滅フラグをなかったことにする。追放さえ免れれば後はどうにでもなる。


「では、今日の放課後、中庭にてお茶会を開きます。よろしくお願いしますわ」


「うん。楽しみにしてるね」


 ディアナは紅茶が飲めるということですっかりニコニコ笑顔になっている。この世界の紅茶はとても貴重な品で、庶民では滅多に飲むことが出来ない。紅茶で餌付けさえしてしまえば、こっちのもの。


 世の中は所詮金がある方が勝つ仕組みになっているんだ。悪役令嬢モニカの財力を見せつけてあげる。



 放課後、ディアナは言われた通りにやってきた。完全に浮足立っていて、このお茶会に参加したかったことが伺える。


「ねえねえ。モニカちん。早く紅茶飲みたいよ」


「慌てないで下さいませ」


 事前に紅茶は淹れていた。後はティーポットに入っている紅茶をティーカップに注ぐだけ。私がティーポットを手に持った瞬間……


「うぇーい」


 阿呆な男子二人組が中庭でふざけていて、私の背中に思いきりぶち当たった。衝撃を受けた私は手からティーポットを話してしまった。宙を舞ったティーポットは中身を盛大にぶちまける。そしてその液体が思いきりディアナにかかった。


「熱っ! 何この熱さ!」


 熱湯ではないとはいえ、そこそこの温度のお湯をディアナが浴びてしまった。


「だ、大丈夫ですか? ディアナさん」


「……モニカ。私に嫌がらせして楽しい?」


 ディアナは静かに怒っていた。まずい。このままでは私がわざとお茶をぶちまけたと誤解される。


「ち、違いますのディアナさん。この男子二人が私にぶつかってきたから、だから、紅茶の中身をぶちまけてしまったんですの」


「言い訳は聞きたくない。折角私達仲良くなれると思ったのに……もう話しかけてこないで」


 ちーん。ものの見事に玉砕してしまった。好感度爆上げ作戦は完全に裏目に出てしまった。



 続いての作戦はお菓子でディアナの気を惹く作戦にしよう。私は生前料理が得意だった。その時の技術を活かして美味しいお菓子をディアナに振る舞おうというわけだ。


 確かディアナが好きなのはチョコクッキーだったはず。早速、買い物に出掛けましょう。


 私は熟練された動きでお菓子を作り上げていく。ふふふ。この程度のお菓子作りなど元料理部の私にとって造作もないこと。小麦粉を練りこんで形を作りこんで焼くだけのお仕事……あれ? オーブンがないのにどうやって焼くんだろう。まあいいや適当に窯で焼いちゃえ。


 私は作ったチョコクッキーを持って、ディアナに手渡した。


「ふふふ。ディアナさん。わたくしはクッキーをこしらえてきましたの。ぜひ、お召し上がりになってくださいませ」


「わあ。ありがとうモニカ。この前の紅茶の件はきっと何かの間違いだよね? モニカはそんな酷いことしないよね?」


 誤解が解けたようで良かった。これで、ディアナと仲良くなれる。ディアナが私のチョコクッキーを口に含む。すると、ディアナは渋い顔をした。


「あのさあ……モニカ。これ焦げてるんだけど」


「ええ!? そんなはずは……」


 よく見たら、いつもより黒みがかってる気がする。まさか、いつもオーブンで焼いている現代っ子がこの世界では裏目に出たということ!? 窯で焼くスキルが私にはなくて、焦がしてしまったっていうの!?


「やっぱり……私に嫌がらせをして楽しんでるんだね……最低。もう話しかけてこないで」


「ち、違うんです! これは何かの間違い……そ、そうです。この世界にオーブンがないのがいけないんですわ! チョコクッキーも焦げ色と区別付きにくいのも悪いし……わ、わたくしは悪くありませんわ」


 私は必死に言い訳をした。言い訳、言い訳の連続。しかし、それを繰り返せば繰り返すほどディアナの心象は悪くなってくる。


「もういい。喋んないで……私本気で怒ったから」


 なんてこった。今フラグが立った音がした。ディアナとの決闘フラグ。私の破滅への序曲。敗北、追放、破滅……わ、私が何をしたって言うの。生前もトラックに轢かれる不幸な事故に遭ったし、この世界でも破滅フラグしか待ってないなんて……


「あははは……」


 私は力なく笑うしかなかった。私より不幸な人間ってこの世に存在するのだろうか。結局、私はどの世界線でも悲惨な末路を歩むんだ。


「ふーん……」


 何者かが私を遠目で見ている。一体何なの? 可哀相な私を見せ物にして楽しいの? 完全にそういった被害妄想が頭の中をぐるぐるしている。


「なんですの……? 私をあざ笑いたいのですか?」


「ごめんごめん。面白い女だなと思ってさ」


 出た。面白い女! 少女漫画、乙女ゲームでこのセリフを言うキャラは最低一人いる定番のセリフ。スペックの高いイケメンは何故面白い女が好きなのだろう。それは永遠の謎だ。


 あれ? このキャラはどこかで見たことがありますね。確か攻略対象の……


「俺はケン・ジールって言うんだ。自分で言うのも難だけど、皆から打撃のスペシャリストと呼ばれている。あのさあ、良かったら俺と一緒に特訓しないか?」


「特訓ですか!? あ、あなたいきなり何を言い出すんですの! それが、レディを誘う謳い文句なのですか?」


 普通の乙女ゲームならこういう誘われ方は絶対しないだろう。しかし、これは乙女ゲームではない。漢女ゲームなのだ。自身を鍛え上げて、筋肉を虐め上げて、霊長類最強の肉体を創り上げることを是とする女子のためのゲーム。別名、遊ぶプロテイン。


「何だ。特訓は嫌か? 残念だなあ。お前みたいな面白い女と一緒に特訓してみたかったのに」


 まずい。このままでは、ケンとのフラグが折れてしまう。このゲームはフラグを立てた攻略対象の数だけ新たな技を習得できるというゲームシステムだ。それは恐らく悪役令嬢の私でも変わらないだろう。


 ディアナと和解の道が断たれた今、ディアナに勝つしかない。なら出来るだけ手札は多い方がいいだろう。ケンの技を手に入れたい。


「嫌とは言ってませんわ。仕方ありませんね。わたくしが貴方の特訓に付き合ってあげてもよろしくてよ?」


 こうして、私はケンと特訓をすることになった。強くなって、好感度が上がる。一石二鳥だ。

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