がうんがうんがうんがうんがうんがうんがうんがうんがうん

「お、おおおお……」


 膝から崩れ落ちて身悶えした。

 狂っている。

 この町は狂ってしまっている。


「荷物が少なかったのがせめてもの救いだ……こうなればゆっくりしてはいられない」


 アイザワが細腕にしては思いがけない力で私を引っ張り上げ無理やり立たせた。

 そのまま、まだ震える私を抱えるようにして歩きだす。


「ど、どこへ……」

「脱出しなくては、コインランドリーから」

「ああ、あ……ああ、そうだな」


 なんとか足に力を込めてアイザワに付いて自力で走りだす。


 道の左右を過ぎていくコインランドリーが先ほどよりも増えている気がした。


 いや、気のせいではない。確実に増えているのだ。


 今こうしている間にも誰かの家が、どこかの店が、コインランドリーへと変わっている。



「遅かったか……」



 吐き捨てたアイザワの言葉はがうんがうんと駆動音に呑み込まれた。


 最寄り駅はすでにコインランドリーへと変わっていた。


 ここまで来ると敷地や建物の規模については度外視されているようで、コインランドリーにしては巨大で異様な佇まいだった。


 呆然とする私を置いて、アイザワは走り出す。

 どこへ行くのだろうと思いながらも私の頭は事態の把握に忙しく、彼を追う足取りはのろのろとしか進まない。アイザワが折り返してくる方が早かった。


「コインロッカーはまだ生き残ってたよ!」


 段ボール箱と大きなビニール袋を脇に抱えて満面の笑みだ。


「何を呑気な……お前……」

「いやあ、この分だと次は何がコインランドリーになってもおかしくはないね、急ごう」

「歩いてか」

「僕の推測が正しければ、人の少ないところへ向かった方がよさそうだ」

「なに、お前何かわかって……」

「とにかく早く!」


 言われるがままに歩き出した。


 いや、ほとんど走っていた。


 まるで今まさにコインランドリーの怪物が巨大な洗濯槽や恐ろしく長い排水ホースを伸ばして我々をがうんがうんと呑み込もうとしているかのようだった。

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