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休憩は終わり。


シートと食事を片付けて、改めて出発だ。


——少し歩いて。


「てかさ、今更だけど」

「どうかしたんです?」

「今日って平日だよね」

「はい」

「世間一般の学生さんは普通に午後の授業の時間だよね」

「でしょうね」

「君は『いつになったら通学』するの?」

「……しません」

「いや、おめぇ学校通いたいって『前の職場』で言ってたべ」

「気が変わったんです! 瓏さんとの時間を大切にしたいんですっ! あ、でも瓏さんも通うなら!」

「通わんから。同い年でも僕はもう社会人で収入あるから学校通う必要ないの」

「ぐぬぬ……」


全く。

最近のこの子は恵まれ過ぎて『普通に学校に通える贅沢』すら解らなくなったらしい。


「あっ! 瓏さんっ、あそこあそこっ」


話題を逸らすように、脇道を指差すクノミ。

その先には……キラキラと陽光で輝く場所があった。


「川ですよ川っ。寄って行きたいですっ」

「さっき休憩したばっかだろ」

「食後の運動ですっ」

「つってもなぁ……ん? 狐ちゃんもそっち行くの? て事は、川の方が正規ルート?」

「ほらっ、行きますよ瓏さんっ」

「やれやれ、そんなに水着回したいのか己は」


綺麗な川辺だった。

岩肌には青々とした苔も生えた、人の手の入ってない、自然なままの姿。

せせらぎは穏やかで、川魚ものんびり泳いでるのが見える透明度。


「てかクノミ、水着は? 全裸で泳ぐ気?」

「何をおっしゃってるんですか瓏さんっ。私の今着てるワンピは『あの服』ですよっ」

「ああ、『嫁入り道具』ね」


テンションの高いクノミが変身ポーズを取ると パァー ワンピースが輝きを放ち——

光が収まると、『白のビキニへと変化』していて。

コレには冷静な狐も、ピクリと眉を動かす。


「あの子が着てるアレは『どんな格好にも成れる』そういう便利なコスプレ道具なのさ」


訊かれてもないのに答えた僕に、フンッと狐は興味を無くしたように鼻を鳴らした。


「どうですか瓏さんっ。来る前に雑誌で見た良さそうなのを参考にしたんですがっ」


露骨に豊満な乳をたゆんと揺らすクノミ。


「水着の事はようわからん。エロけりゃそれでいいよ」

「つまりエロいって事ですねっ。私は『瓏さんの物語のお色気担当』なので有難いお言葉ですっ」

「何言っても喜ぶやん君。ほら、披露出来て満足でしょ。忙しいんだから先行くよ」

「えー、瓏さんも脱いで私と遊びましょうよぉ。お水の掛け合いとかっ」

「僕はさっさと仕事終わらせて帰りた——あっ、サワガニだっ。まてまてー」

「私はカニ以外!?」


——一〇分後


「ふぅ、楽しかった……どしたの?」

「なんでもないでーす(プクー)」


戻って来ると、クノミがパシャパシャと足で水面を揺らしていた。

狐は狐でウロウロと何かを探してる。

皆暇そうだな。


「あ、そういえば瓏さん、思い出しました。さっきの話の続きですが」

「さっきって?」

「事務所での話の続きです。ほら、あの『悪巧みする魔術師、妖怪さんらは別に瓏さんの敵じゃない』だのって話。その理由を聞きそびれて」

「さっきじゃねぇじゃん。こんな川辺でする話? 言おうとした事なんて忘れたわ」


主にサワガニに夢中で。


「えーっ、気になりますっ。瓏さんの敵は少ない方が私も安心しますっ」


敵かぁ、敵ねぇ。


「えーっと、アレよ。そういう悪い輩は、寧ろ『仕事仲間』? 不幸な人が居ないと探偵業は成り立たないからねぇ」

「困ってる人を助けるには困ってる人が不可欠……ままならないですねぇ」


医者や消防士みたいなもんだ。

マッチポンプ。


「それに、僕は『世間一般の定義』で見れば正義でもない」

「そうなんですか? でも、瓏さんは『私を助けて』くれましたよ?」

「認識の齟齬だねぇ。見る人によって正義は移り変わるってやつ。自分の事を正義だなんて思った事は無いけど、君が僕をそう思うのは勝手だよ」


僕が人を助ける時は、気が向いた時か、仕事の時くらい。


「では勝手にそう思いますっ」


ニコッと満面の笑みを見せるクノミ。


「……けれど、一つ懸念がありますねぇ」

「なに?」

「瓏さんに敵対する意思がなくとも、今回、瓏さんに『ゲームをクリアされて計画を潰された』相手が居る筈です。その者には確実に敵視されるのでは?」

「ああ、それこそ心配するだけ無駄な話」


僕は肩を竦め、


「あの程度のゲームに頼るような奴が僕の敵に『なれるわけない』だろ?」

「かっこいい!」


「キャン!」


ん?


『アホな会話してないで本題を思い出して下さいまし!』とでも言いたげにこちらを睨んでる狐。


「どしたどした? 何か見つけた?」

「これは……【本】、です?」


本だ。

本が何冊か川辺の地面に散らばってる。

表紙を見るに、日本の本じゃなく、【洋書】。


「捨てるにしても、こんな場所ってのも変だね」


ヒョイっと一冊拾う。

こんな場所なのに、特に濡れてたり湿気ってたりはしてないな。

ふむ……何というか、つい『拾いたくなる』魅力がある不思議な本だ。


「え!? ろ、瓏さん! 体が!」

ん、どうしたんだクノミったら、急に叫んで。

「体? あ、なんか『透け』」


言い終わる前に、パッと、景色が『変わった』。

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