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——舗装されている隠し通路とは言っても、そこは山道。


僕には登山の趣味が無いので代わり映えのない道にすぐに飽きたが、クノミは汗をかいて白いワンピースを透けさせながらも「気持ちいいですねぇ!」と楽しそうだ。

山登りが好きなのかもしれない。

虫除けスプレーを顔面にかけてやっても「アハハ冷たい!」と楽しそうだったから違うのかもしれないが。


「少しキューケーしようぜ」

「はーいっ」


丁度良い感じのスペースがあったので、レジャーシートを広げ、腰を下す。

木の下なので、木陰で涼しい。


「はいっ。お弁当、食べましょうかっ」

「サンドイッチ、おにぎり、家でお昼に食べる予定だった唐揚げ、フルーツ、ビシソワーズ……ま、急ごしらえと考えたら上出来かな(もぐもぐ)」

「麦茶もどうぞっ」


……ふぅ。

一息ついて、ふと、周囲に意識を向ける。

さわさわと柔らかな風で揺れる木々。

ジージーと命がけでナンパするセミ達。

登山は面倒かったけど、この時間の為ならたまに自然を満喫するのもいいかもね。


「狐さんもご飯、食べますかね?」

「玉ねぎもチョコもイケると思うよ。普通の犬と違うし」


クノミが紙のお皿にいくつかのおかずを置いて狐の前に差し出すと、狐は一度クンクンと匂いを嗅ぎ、チラリ、クノミの側にあったウェットティッシュを指(手?)指す。


「え? 使うんです? はい」

「中身一枚引き抜いて、そのまま手元辺りで持っててあげて」


クノミが僕の言う通りにすると、器用に片手を上げてペタペタと肉球を拭き、


「わっ、すごいっ。オカズを手に持って食べ始めましたよっ」

「逆に食べ辛そうだなぁ……意地でもはしたない犬食いはしたくないか」

「なんて賢い子なんでしょうっ。道案内も出来るし、偉い偉いっ(なでなで)」

「じゃあ僕はお腹や胸辺りを(そぉ……)」


!! ガブッ!!


「ギャア! コイツ噛みやがった!」

「だ、大丈夫ですか瓏さん!?」

「まぁ痛くないんですけどね(ケロッ)」

「よかったぁ(ホッ)甘噛みしてくれたんですねっ」

「ガチ噛みだったけど、僕は丈夫だからね」


狐は僕の反応を見て口を離し、つまらなそうに『フンッ』とそっぽを向く。

因みに、この子のガチ噛みは岩とかをスナック感覚で噛み砕ける模様。


「前側を触られるのは嫌なんでしょうか……」

「そりゃあ考えたら『女の子』だからねぇ。普段はこの姿より『人型でいる方が長い』んじゃない?」

「人型? 人に成れるんですかこの子?」

「前見た時は『ツインテ』で『ですわ口調』の高飛車なお嬢様だったよ」

「見たい! 見たいです! 『ですわ』って言って下さいっ」


言う筈も無く、スタスタと狐は先に進に進んでいく。


「行っちゃったね」

「見たかったのに……って、それより瓏さんっ。つまり、さっきは女の子の胸を触ろうとしたって事ですか!?」

「まぁそうだね」

「ダメですよダメです! 女の子のおっぱいが触りたいなら私ので満足して下さい!」


クノミはゴロンと犬の様に腹を見せるポーズに。


「こんな爽やかな場所で下品すぎるだろこの雌犬」

「ワンワン!」

「君の乳なんて今更新鮮味もないわい。ほれ、腹冷やすぞ(ペチンッ)」

「キャウン! クゥゥン……」


白いお腹に赤い手形が付くくらい勢いよく叩いてやったのに、なんでそんな嬉しそうなんだ。


「(……)」


一方、狐は僕らにゴミを見るような目を向けていた。

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