44
2
——1時間後。
準備が整い、外に出る僕達。
ジワリとした気温、眩しい日差し。
時刻は昼前。
暑さも今がピークだろう。
「着替えるのはいいけど、そのワンピ姿で乗れるの?」
「こう(スルスル)たくし上げて裾を結べばなんとかっ」
「そ。パンツ見えるけどくっつきゃ見えないか。ま、僕も半袖短パンとかいうバイカーが見たら怒られそうな軽装だけど。……目的地に着く頃にはお昼時かな」
言いながらヘルメットをつけてバイク(250cc)に跨ると、クノミも(最近買ったマイヘルをかぶり)後ろの座席に跨って、僕の腰に手を回した。
ブニョンと、背中で潰れるたわわ。
「楽しみですねぇ、ピクニック!」
「仕事だけどね。じゃ、行くよー」
ブロロロロ……
——それから、更に一時間後。
「到着! ですねっ?」
「ここが情報通りの目的地ならね」
駐車場にバイクを置き、少し歩いて……登山コースの入り口に立つ僕達。
ざわざわ …… ザワザワ …… ガヤガヤ ……
「んー、結構人が居ますねぇ」
「定規山(じょうぎやま)は有名な霊山でもあるからね。上の方にある定規神社もパワースポットとして結構な人が日々訪れるし、名物の油揚げも絶品だよ」
「油揚げが名物だなんて面白いですねぇ。お狐さんが喜びそうな場所ですっ」
「狐なら『そこにいる』よ」
「え?」
ピンッ
まるで狛犬の様に姿勢正しくこちらを見ている一匹の狐。
「わぁ! 本当です! 可愛い! こう見るとワンちゃんみたいですねぇっ」
クノミがワシャワシャしても動じぬ狐。
『ままー、きつねさーん』『本当っ。ここで飼ってるのかしらね?』『私も触りたーい』
むっ、クノミがウルセェから周りの観光客らが狐と美少女を見つけちゃったぞ。
スマホを向けてる輩はインスタに上げてイイネを稼ぐつもりだな? させねぇよ?
パンッ 「『ミスディレクション』」
『あ、あれ? 消えた?』『狐ちゃーん』『くそ! 俺もあの姉ちゃ……狐をワシャワシャしたかったのにっ』
さて、これで彼らからは僕らが見えなくなった。
「行くよ、クノミ。狐さんから離れて」
「え? アッハイ」
クノミがハグを解くと、スタスタ歩き出す狐。
「あらあら、どっか行っちゃいますよ?」
「ついてこーぜ。この子は『案内役』だ」
お尻を追いかける僕に「え? ま、待って下さいっ」と慌てて追い付くクノミ。
「案内役って、今回の仕事の関係者の方ですか?」
「今回のっていうか、この子はあの人(上司)の遣いでね。その優秀な鼻で目的地まで連れてってくれるんだと」
「あの方の! 私の恩人です! しかし、このままでは登山コース外れちゃいますよ?」
「いいんだよ。目的地が『誰でも行ける場所じゃアカン』からね」
ふと。
狐が足を止めたのは、登山コースの反対側にある獣道。
「キャン!」
「わぁ!?」
突然鳴いた狐にクノミがビクッとなる。
「び、びっくりしました……『コンッ』て鳴かないんですね……」
「そっちかよ。基本『キャン』とか『ケンッ』って鳴くんだぞ。たまに『ニャー』とも鳴く」
「猫ちゃんみたいで可愛いですっ」
そんな無駄話はさて置いて。
狐が獣道を『威圧』すると、ビビった相手は『姿を見せた』。
「わっ。『道が現れ』ましたよっ。キチンと整備されてるヤツがっ」
「上手く隠してたつもりなんだろうね。普通の人ならまず通らない場所だから疑問に思わないけど、『妖狐(ようこ)』の鼻は誤魔化せないってこった」
「妖狐?」
「妖力を持った人間以上に賢い狐だよ。人間にも化けられるんだ。てか普段はそっちの姿のが長いだろうさ」
「擬人化! 見たいです! 狐さん! 変身変身!」
そんなクノミのリクエストなど聞く様子も無く、狐はクールに先へ進んで行く。
「ああ……行っちゃいました……ん? この看板は……」
「どしたの」
「『行方不明多数』らしいですよ? そんなに複雑な山なのでしょうか」
「ま、低い山ほど遭難多いらしいからね。っと、狐がどんどん行っちゃってるから早く追うよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます