サブエピソード2 43
1
——この『夢』は、いったい何?
よくないものしか見れなかったのに……この温かな『希望(ひかり)』は?
朝日のように眩し過ぎて、目が覚めてしまう。
出来れば、この夢をいつまでも……。
↑↓
「ふぅ……手強い相手だったぜ」
コトリ ゲームのコントローラーをテーブルに置き、一息吐く。
「お疲れ様ですっ」
すかさず、クノミがアイスカフェオレを僕に手渡してくる。
クピリと一口飲むと……甘い。
僕好みの甘さだ。
「何時間くらい『あっちに行ってた』?」
「現実では二時間くらいですね。そちらでは?」
「体感『三日』、かな。思ったより時間が掛かったよ。まぁ半分は『仮想世界』を楽しんだ所為だけど」
——キッカケは、ネットの一つの書き込みからだった。
『あの名作レトロゲームがおかしな事になってるぞ』
という内容。
そのゲームは、主人公である勇者を操り魔王を倒す、そんな王道RPGの原点ともなった作品。
書き込みの内容は、そのゲーム(スーファミ版)を久し振りに起動させたら『中身が別ゲーに変わっていた』、なんて胡散臭い内容で。
しかし……半信半疑で試した全国のプレイヤー達が、一斉に『昏睡状態に陥った』という事件が起きる。
皆が皆、ゲームのコントローラーを持ったまま、その場に倒れていたのだ。
目覚めないプレイヤー達。
彼らは皆——ゲームの中に『閉じ込められていた』。
「『上から』依頼を受けた時は、僕も話の内容を疑っていたさ。けど、実際にゲーム世界へ行けた時は興奮したね。まさに、VRMMO世界って感じに、剣と魔法の異世界が目の前に広がってたんだから」
「私も、テレビの画面から瓏さんの活躍を『視聴』してましたよっ」
「誰もが、モンスターを狩れれば強くなれて魔法も使える世界だから、みんなにクリア出来るチャンスはあったんだけどねぇ」
「しかし……事件の黒幕は予想外でしたね……」
「いや、結構王道だよ。黒幕が『ゲーム自身』ってのはさ」
——魔王城へと到達した僕。
ゲームの目的地であり象徴でもあるココの主を倒さねば、囚われた皆が解放される事は無いと思ったから。
そして。
そこで僕を待っていたのは……凶々しい姿の魔王ではなく、美しい姫だった。
『よくぞ辿り着いてくれましたね。貴方のような勇者を待っておりました』
『私は、ゲームの思念です』
『ゲーム達の無念の思念が蓄積した存在』
『飽きられたが故に……ふっかつのじゅもんを忘れられたが故に……データを消されたが故に……あらゆるゲームのキャラクター達は、その場(セーブポイント)から動けなくなってしまいました』
『世界を救う目的も果たせず、何も出来ず……無念の思念は、そうして、私とこの世界を作りました』
『私達の目的はただ一つ。このゲームをクリアして貰うこと』
『それを、貴方は見事叶えて下さいました』
『皆、満足してくれる事でしょう』
そうして、世界は、姫は、ゆっくりと光の粒子となって消えていく。
『まぁ欲を言うなら……もっと普通の方にクリアして欲しかった。貴方は——こちら側、ですよね』
クノミはソファーから立ち上がり、スーファミを片しつつ、
「……そういえば解放された皆さんは今頃目覚めてますかね? 普通の日常に戻れればいいですが」
「姫様曰く、中での記憶は忘れるらしいよ。どこまでも甘っちょろい黒幕だったね」
「瓏さんはもっとドロドロした話が好きですもんねー」
「——さて。今回の仕事で得られる『教訓』はなんだい?」
「んー」
僕は毎回、仕事終わりに助手(?)であるクノミにこの問い掛けをする。
コレをやっておくと、僕自身も頭の整理が出来て助かるのだ。
クノミは、腕を組んでウンウン唸り、
「『何事も半端はいけない』」
「うん。あとは?」
「『ハッピーエンドでもバッドエンドでも、物語はきちんと締めねばならない』」
「うん。あとは?
「『逃げて解決する事など何一つない』」
「ま、そんなとこだね」
「ふぅ……正解出来て良かったですっ」
うーん、複数解答OKな時点でブレッブレでフワッフワで芯が無いけど、ま、僕らが納得出来たかが重要だからね。
「んー……」
クノミは、ダンボールにゴチャゴチャ入ったスーファミカセットの一つ(メト◯イド)を手に取って、
「この色んなゲーム一つ一つに、様々な思いが詰まってるんですねぇ。中古ソフトなら尚更でしょう。それが団結し合うと、コレだけの事件が起こせる、と」
「いや、『普通は起こり得ない』よ」
「そうなんです?」
「例え、ゲームソフトに付喪神のように魂が宿ったとしても、これだけ大掛かりな事は起こせない。『誰かが介入』しない限り」
「誰かが?」
頷く僕。
「魔術師とか、呪術師とか、妖怪とか……『こっち側』の存在が、何か目的を持ってゲーム達に介入(手助け)しないと、さ」
「目的……例えば、今回の事件を起こして、その人達が得られる物とは?」
「一番は【人の魂】だろうさ。人の魂ってのは色々と便利で、有れば有るだけヤレる事が増える便利な物だし。ソシャゲの魔法石みたいなもんさ」
「はえー、解りやすい。そして解りやすいほどに悪い人達っ。その方々は正義側である瓏さんの敵ですねっ」
「いや敵じゃないけど?」
「え?」
クノミが首を傾げる。
「どういう意味です?」
「うーん……なんか頭使う会話疲れちゃった。続きは今度ね」
「えー」
ブー垂れるクノミは無視して、閉じていたノーパソを開く。
「新しい仕事の依頼はーっと。んー……今のとこ無いねぇ」
「でしたら! 今日はもうお休みという事でどこかに羽を伸ばしませんかっ」
「お前が遊び行きたいだけだろ。んー……しかし、前から思ってたけどソファーとテーブルの高さのバランス、事務作業には向いてないな。猫背になっちゃうっていうか」
「パソコンの下に何か敷いて高さを調整してみては?」
「ううむ。あ、そうだ。クノミ、テーブルの上に『縦に寝て』。僕側でね」
「いいですよっ(ゴロン)」
仰向けに寝そべるクノミ。
ハミ出た彼女の頭はこのままだと疲れるだろうから特別に僕の太ももで支えてやって。
それから、クノミのお腹の上にノーパソを置く。
「あははっ、あったかいですっ」と彼女は楽しそうだ。
因みに今のコイツの格好は、ショートパンツとタンクトップというラフなもの。
「おお、絶妙に良い高さ。しかも(プニョン)【おっぱいマウスパッド】も付属ときてらぁ」
「あははっ、くすぐったいですっ。
プルルルル
「っと。【上司】から電話。(ピッ)あい、もしー。うん、今終わったよー。……、えー今からー? ……、ふぅん、『村』ねぇ……、あいあい(ピッ)……ふぅ。人使い荒い人だよ」
「新しいお仕事ですか?」
「うん。『山にピクニック』行く事になった」
「ではお弁当の準備しますねっ」
パソコン台が体を起こした。
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