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「ほら、水、飲めるか?」


「(コクッ)……んっんっ……はぁ。おおきになぁ」

「き、気にしないでいいです。貴方はもっと大変だったのですから」


ウー! ウー!

少しして、警察やら救急車のサイレン。

しばらくはテレビで特集組まれるだろうなぁ。


「そうかぁ……アレから十年以上経ったんやねぇ。ちょっとした浦島太郎の気分やわぁ。『中に居る時』は意識が無かったのが、ある意味幸いかぁ」

「家族の方にご連絡します? 携帯貸しますよっ」

「あらぁ? これが今の携帯なん? ハイテクになったなぁ。……まぁ、京都に居る『仲間』には連絡しとこかぁ」

椿ちゃんも、スイーツ姉妹と同じく『そっち側』の人間だったようで、あまり現状に慌ててる様子は無いな。

「改めて、おおきにな。君らもマザーハート持ちなんやろ? ダメ元で救助を待っとったけど……『姉妹の絆』ってヤツは、ホンマにあるんやねぇ」

「……あのテーマパークに居たのも、仕事か何かか?」

「んー? ん、そうやねぇ。『とある組織』が潜伏してるって情報があって向かったんやけど、子供を助けるのが精一杯やった」


当然、椿ちゃんの仲間も、消えた彼女がテーマパークのどこかに取り残されたのは知っていた筈だ、と。

しかし、救助には同じマザーハート持ちが必要で、仲間達は世界に散らばって探したが、見つからなかったのだろう、と。

椿ちゃんは仲間達を責めず、そう推測する。


「けど、ウチがあそこに居たのよう分かったなぁ? 仲間の誰かから教えて貰ったん?」

「いや……」

チラリ、女の子達が僕を見た。

釣られて椿ちゃんも僕を見て、

「なんや、お兄さんのお陰? さっきから気になってたけど、良い意味で浮いた感じの人や思っとったわぁ。ほんま、おおきになぁ」

「ええんやで」

ニコリと笑顔を交わしあう僕達。

スイーツ姉妹の時とは打って変わって和気藹々とした出会いだ。

まぁかねこりの時も、僕がクノミを連れ帰るのに肯定的だったしね。

「それで、これからどうするんです?」

「ま、まずは体調を整えた方が……」

「んー、とりあえず京都の方に帰ろかなぁ。知り合いが子持ちになってたらどないしよぉ」

「あははっ、私と似たような感じですねぇ」

「交通費なら出すぜ」

「助かるわー。あっち着いたらすぐに返すから連絡先教えてぇ」


世界で孤独(?)だったクノミの知り合いがどんどん増えていく、いい事だね、保護者の気分だ。


「はぁ……起きがけは不安だったけど、みんなが居てくれて安心したぁ。安心したらお腹減ってきたかな?」

「ああ、ここに携帯食が……いや。なんか食いに行くか」

「でしたら、近くにお洒落なカフェがありますよっ」

「ぱ、パンケーキタワー……」

車から降り、僕らは歩いて目的地を目指す事に。

……この辺でいいかな。


曲がり角付近で、「『うさぎとかめ』」 パンッ と手を叩く。


「ん? 今なんか言うた?」

「ひとりごとやで」

「あれ? 他の三人は?」

「忘れ物取りに行ったから『遅れて来る』って」

「ほうかぁ」


そう、遅れて来る。

『うさぎとかめ』で、三人娘の『感覚と動き』を遅くした。

あの角を曲がってここまで来るのに少なくとも一〇分は掛かるだろう。


「そういえば、ちょっと聞きたい事あってさー」

「なにー?」

「【竜神会(りゅうじんかい)】って知ってる?」

ニコニコしていた椿ちゃんの笑顔がピシリと固まる。

「……なんや君、嫌な名前思い出させるなぁ」

「やっぱり知ってたか」

「もしかして、さっきの話で察したん?」

「うん。君が追ってた『敵組織』、もしかしたら? って思って」

「そっかぁ」

椿ちゃんは空を仰いで、

「まだ、この時代に『存在』してるん?」

「してるね。『クノミも狙われた』」

「クノミちゃんも!? 大丈夫だったんっ?」

「まぁ(バタフライエフェクトレベルで結果的に)僕が助けたし、あの子は組織すら知らないよ。無事だからここに居るとも言えるけど」

「……そっかぁ、君やっぱ強いんやねぇ。ま、知らん方がええわなぁ、あんな無茶苦茶な組織」

余程いい思い出がないらしい。

まぁ僕も『竜』なんて文字を使われていい迷惑だけど。

「当時、竜神会は沢山の子供の魂を欲してたらしくてなぁ。それ使って、強力な『呪物』でも作ろうとしたんやろ。あそこはいっつもそうや。富とか名声とかどうでも良くって、呪物を作ったり奪ったりして集める事しか興味が無い。何の為に、ってのは誰も知らんのや」

僕は『知ってるけど』もね。

大した理由じゃないよ。

「ウチの仲間の中には竜神会を潰す為に所属してる子も居る。今も居るかは知らへんが……大なり小なり、確執のある仲間は多いで」

「そうなんだ」

「因みに……君だったら、竜神会をどうにか出来そう?」

「喧嘩売られたらカップ麺が出来るまでに『済ませ』られるよ」

「流石やねぇ。クノミ……クーちゃんは『良い男』見つけたわぁ。君が居てくれたら、ウチの心も大分軽くなるで」

はて。

椿ちゃんはクノミの気持ちとか僕との関係とか知らない筈なのに、『見て来た』みたいな口振りだなぁ。

まぁ、クノミの僕に対する態度で丸わかりなのかね?


「復帰したら、ウチはまた竜神会を追うと思うわ。少しでも一般人の犠牲は減らしたいからね。もし、決戦の場が整ったら、是非君も--(ドンッ)おわっ」

首をこちらに向けながら進んでた所為か、目の前に居た人とぶつかってしまう椿ちゃん。


「あちゃー、良い歳して尻餅ついてもうたわ。ぶつかった人、堪忍な?」

「いえっ、大丈夫ですっ。そちらこそお怪我……は……」

おや、ぶつかった相手は警察官か。

若い男性警官。

ここは失踪キッズが散らばっていた公園が目と鼻の先だし、周囲に怪しい人間が居ないかパトロールするのも当然ちゃ当然だな。

にしても、どうした? 二人とも顔見たまま固まって。

いや……この『巡り合わせ』はもしや?

「ハハッ、お兄さんイケメンやからつい見惚れてしもったわ。んっ……あらら、なんか脚まで震えて立てへん」

「ど、どうぞ、手を貸しますよ。目眩がするのでアレば、飴もどうぞ」

「あはは、おおきに。飴ちゃんとは粋やねぇ」

ううむ、いい雰囲気じゃないか。


「--はぁ、全く。何とか『納まり』ましたわね」


ん?

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