33

一時間掛からないくらいで着いた先は……田道間家近くの公園。

遊具はブランコくらいしかなく、広くもない、地味な公園。


「じゃ、私は先に帰ってるから」

「モリちゃんホント、サブヒロインに徹するよね」

「サブは認めるけどヒロイン認定はやめてよね」

「では……失礼します(ペコペコ)」

「じゃーねーモリちゃんっ、お母さん!」


去って行く車が見えなくなるまでクノミは手を振っていた。


「うーん、君のママンは頭を下げる姿しか印象にないなぁ」

「綺麗なお辞儀ですよねっ。女将さんも認めるお辞儀ですっ」

「……おい、ここでいいのか?」

「た、確かに、人通りも少ない良い場所ですね」

おっ、スイーツ姉妹も来たか。

「むぅ、ダーリンは連れて来てないんですかっ?」

「なんであの流れ見て連れて来ると思ったんだ」

「ほ、本人は挨拶したがってましたね……と、特に……(チラッ)」

「お? 野郎が僕に挨拶したいって? 良い度胸だ女の目の前でボコボコにしてやるっ(シュッシュ)」

「……クノミ、魔法瓶はあるか?」

「はいっ、ここにっ」

僕を無視して話を進める姦し娘。

扱い方解って来たな?

「ふ、普通に開けちゃって良いんですかね? 開けた瞬間邪気が溢れて来たりとか、爆発したりとか……」

「不安になる事言うやよ……」

「瓏さんがいるからどんな展開になっても大丈夫ですっ」

「僕を便利キャラ扱いするんじゃねぇ。もしこれがパンドラの箱でこの街に厄災が降りかかっても僕は普通に楽しむからな。--ま、普通に開けて大丈夫でしょ。どうぞ」

三人は目配せし合い、特に示し合わせたわけではないが、「では」とクノミが開ける流れになって……


パカッ


「んー? 中身はー(覗き)何も見え……ぷはっ!」

「け、煙が出て来ましたっ」

「クノミ! 地面に置け!」

魔法瓶を置き、そそくさと距離を置く女の子達。

初めて火を見た原始人みたいで見てて飽きない。

「どんどん煙が出て来ますね。これも邪気です?」

「に、匂いは近いですが、少し違いますね……じっとりと粘性のある煙で……イベントで見るドライアイスのようです」

「……まるで、中身を守る為の【緩衝材】みたいな感じだな」

煙は空気に混じって消える事なく、地面へと広がっていって--それが晴れた瞬間、少女達は息を呑んだ。

「人が転がってますっ。一人の女性と……沢山の『子供達』!?」

うーん、『情報通り』か。

「クノミ。あの遊園地で『どんな事故が起きたか』覚えてるかい?」

「え? えーっと、確か……爆発事故が起きて、子供が消えたんですよね?」

「そう。そして--コレは『その時の子供達』だ」


話の概要はこう。

その日、この魔法瓶の持ち主は、十数年前、営業時のこのテーマパークに来ていた。

で、持ち主はこの広場に来て、大道芸を見に集まる子供達を見て、何か違和感を覚えたのだろう。

爆発の瞬間、持ち主は魔法瓶を使い、自らと共に子供達を魔法瓶の中へ避難させた。

そしてーー今日まで、救助を待っていたわけ、と。


「(ピトッ)……よ、良かった。子供達はみんな、息があります」

「コイツの話がホントなら、十年以上行方不明になってたガキ、か……諦めてた親はパニックになるだろうが、兎に角、警察やら救急車やら呼んだ方が良いな」

「そして、この女性がマザーハートの持ち主で……ん?」

クノミは、うつ伏せに倒れた彼女の横顔を見て止まる。


「つ、椿お姉様!?」


「あん? クノミ、知り合いか?」

「つ、つばき……花の名前……しかしどこかで……聞いた名です……」

「い、いえっ、知り合いに似ていただけですよっ」

必死に取り繕うが、そっくりさんだなんて思ってないだろう。

僕も、あの夜少しだけ顔を合わせたお姉様。

あの時は歳上の容姿だったが、今は僕らと同じ年代の若さに見える。


「んっ……」


と。

騒がしい姦シスターズの声が煩わしかったのか、少女はピクリと揺れ、 ムクリと体を起こし。

それからキョロキョロと周りを見て、最後に、『元妹達』を視界にとらえて、

「……ああ。君らが助けてくれたんやねぁ?」

状況をすぐに察してくれた。


ーーその後、警察に非通知で公園に来るよう伝え、僕らはその場を離れる。

少し離れた場所に停めてあったスイーツ姉妹のjeepに移動だ。

因みに姉妹のダーリンはどっかにやらされた、かわいそう。

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