30

追加でガキを産み出す様子は今の所無い。

この高揚感……誰にも負ける気がしないほど調子に乗ってる自覚はあるが、無闇に突っ込もうとも思わない。


バキッ


と。

何かが折れる音がしたかと思うと、

バキッ ゴキッ ボキッ

守護者がカク! カク! と不規則に悶え出し、その姿を徐々に変えていく。

「うわっ、変身シーンぐっろ」

何もしてない傍観者がひとりごちってるように、これは確かに、変身……いや、変態だ。

その大きさも少しずつ膨らんでいって……。

「今攻撃しないの? チャンスじゃね?」

「流石瓏さんっ、容赦無しですっ」

「……変なタイミングで倒しても復活するかもだからな。そういう条件付きの悪霊は多いんだよ」

「しょ、正直、今攻撃するのは何か『怖い』というか……」

そう、怖い、というのもある。

ゴーストバスター稼業とはいえ、本能的に怖いものは怖い。

中途半端に倒した結果、相手の呪いにやられ、悲惨な目にあった奴の話はよく聞く。

「むっ、変身が終わったようですね……アレは……【花】?」


花--正確には黄水仙。


グロい変身シーンとは裏腹な、華やかな第二形態。

しかし……まるで、あのこじんまりとした姿に無理やり凝縮していたのではと思うほどに、ビリビリと空気が揺れるのを感じる。

凄い圧(プレッシャー)だ。

「そもそも。なんで昼僕らがこの辺に来た時は静かなものだったのに、今になってこうもカーニバルしてるか分かるかい?」

「そういえばっ。何故ですか瓏さんっ」

「救助を求めるマザーハートの持ち主は、常に救難信号を出してたんだ。『同志に向けて』、ね。そして今日、三人の持ち主が一気にここに現れた。となると、やっぱり気づいて貰う為に『目立つ』必要があるよね」

「成る程っ。それで、これほどの邪気を時間を掛けてかけて広げたんですねっ。『何がある』と気付いて貰う為にっ」

「そして、その救助を求める主は、ここが『安全圏』にならないと姿を現さないと思う。だから……あの守護者さえ落とせば、晴れてミッションコンプリートだよ」

「守護者を出したのは自分なのに勝手な人ですっ。でもっ。目標が分かりやすくて助かりますっ、ネッ!」

またもや、一人で駆け出し守護者へ襲い掛かるクノミ。

「やぁ!」

唸りを上げ振り下ろされる幣。

とった! と確信した瞬間ーー ガキィン!!

衝撃音と共に、クノミが後方へと弾き飛ばされた。

「んー? うわぁ……悪趣味の極みだなぁ」

フワリーーUFOのように宙に浮かんだ水仙は、花弁を夜の空へと向け、クルクル回りだす。

そして……その花弁の先には、何かが吊るされていた。

「まるで、赤ちゃんをあやす時にベッドに吊す【メリー】のようだね」

吊るされていたのは【ガキの首】。

その口にはマザーハートを思わせる日用品が咥えられていて。

それが高速で回転してるもんだから、近づく事自体が困難な状態だ。

--と、思ったか?

「あんなもん見せられて気分悪ぃぜ! 逆に的がデカくなったから楽! 一気に潰すっ! 『千手』!」

千手観音を動かし、一気に畳み掛ける!

ドドドドドッッッッッ!!!!!

千ある拳で休み無く殴る殴る殴る!!

--が。

「と、止まらねぇ!?」

蚊でも払うように、フワフワとこちらに近づいて来る守護者。

まさか、ここまで硬いなんてアリか!?

「シフォン! 同士討ちだ!」

「は、はい! 『月読』!」

コレだけデカいんだ、わざわざ高い場所じゃなくてもピンポイントで月光を浴びせられる。

果たして、月読で守護者のコピーはすぐに生まれたが……。

「え、ええ!? すぐに負けました!」

信じられない光景だ。

コピーした相手は同じ強さのはず。

考えられる可能性があるとするなら--。

「た、多分、少しずつ『強くなりながら』こっちに来てるんだと思う。ほらっ、アレっ」

見れば、進みつつ『産み出したガキが下から吸い込まれて行く』様子が見えた。

月読でコピーしたモノはその瞬間のオリジナルのコピー。

ああいった手合いには弱い。

「ふふっ、ならばここは巫女ビームの出番ですねっ。先程放ったのは貯蔵の三割程度。でも今回は七割を一気に出します!!」

「ダメなフラグにしか聞こえないなぁ」

--果たして。

放たれたのは、先程以上の熱量の光線。

コレでダメなら……。

「あらぁ……周りのクルクルは破壊出来ましたが、すぐに追加されてしまいましたね。もう打つ手がありませんっ」

「諦めんの早過ぎだろっ」

「い、潔良すぎですっ。逃げましょうっ」

「ダメですっ。すぐそこに救助を待つ『姉妹』が居るのにっ」

「だからってウチらが死んだら意味ねぇだろ! 逃げるっても態勢を建て直すだけだっ」

「その必要はありませんっ。--瓏さんっ、お願いしますっ」

ここで、まさかの他人(ジョーカー)任せ。

「えー? でもこれ、君ら身内の問題じゃない?」

「でもこの案件を解決しないと瓏さんも『仕事を終えられ』ませんよっ」

「言うようになったなぁクノミ。調子に乗り始めたな?」

「すみませんっ! でもこの通り、『今の』私達には手に余る強敵です!」

「はぁ…………じゃ。僕の活躍を期待させるお膳立ては済んだし、行きますか」

スッ--奴が片手で両眼を隠し……パッと手を離すと、瞳の色が『銀から金』へと変わって。

ゾクリ

なんだ……? 鳥肌……?

「いやー、『あの人』倒さなきゃだなんて気が重いなー」

頭を掻きながら、アイツは面倒くさそうに守護者へと歩み寄る。

「……ホントに大丈夫なのか? 期待していいのか?」

「ふ、普通にヤラれても、シフォン達は逃げますからね?」

「安心して下さいっ。お二人は知らないと思いますが--瓏さんはとってもお強いんですよっ!」


ズンッッッッッ!!!


……その瞬間を、アタシとシフォンは見逃していた。

見ていたのは、ずっとアイツをキラキラした目で見ていたクノミだけだろう。

まるで地盤沈下が起きたような音に、視線を戻すと、守護者が『地面に沈んでいた』。

ピクピクと苦しげな反応は確認出来るが……まるで、上から重い物に押し潰されてるような反応。

「アレは、どんな攻撃だ?」

「い、一切触れてるようには見えませんが……超能力(サイキック)、ですか?」

「いえ、『睨んでるだけ』です」

「「は??」」

「竜の暴圧(ドラゴンスタンプ)。瓏さんほどの『上位者』であるならば、睨まれた相手は首を垂れるより他ありませんよね?」

「ありませんよね? とか言われても……」

しかし、目の前でこうして現実だと証明されている。

あれだけの強敵を、異次元な奴らは、触れずとも蹴散らせるってのか?

自分を一般人と言うつもりは無いが……非現実(ファンタジー)という存在を認めざるを得なくなる。


グシャァ!


……トマトが潰れたような嫌な音の後、


シュウゥゥゥーー


「あ、倒したようですねっ。行きましょうっ」

「「…………」」

黒い煙となって消えていく守護者に同情しつつ、アタシらはクノミの後を追う。

「お疲れ様です瓏さんっ」

「全くだよ。本来なら君らが協力して、こう、合体技なんか出してギリギリで倒す熱い展開なのに。僕が『舞台に立ったら』こんなつまんないオチになるって分かるでしょ」

「すいませんっ、助かりましたっ」


……まるで、この世界を『漫画』か何かだと思ってそうな奴だ。

それだけ恵まれた力を持って生まれたらそんな思考にもなるのかもしれないが。

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