29

現状。


クノミは、頭である守護者を叩こうと向かっていたが、すんでの所で再び生まれたガキに阻まれた。

今回は一人や二人じゃない。

ざっと見て『五〇人以上』は居る。

守護者も余裕が無くなったのか、或いはまだまだ産めるのか……考えたって仕方がねぇ。

そっちが物量で押そうってんなら、こっちも容赦無しだ。

アタシは、『丁度いい木造の建物』に目を向け、叫ぶ。


「『千手(せんじゅ)』!」


直後── ゴゴゴゴゴ……地面が揺れ……バキバキバキッッ……お化け屋敷が『変形』して行って--

数秒後には、立派な木造の【千手観音】が、お化け屋敷跡地に降臨していた。

千の手と千の目がある菩薩。

その手とその目は多くの人を救う為にあると--【あの男】に教わって以来、憧れを持ち、いつかは自分の手で降臨させたいと思うほどに、思い入れのある一尊。

過去何度も失敗してきたのに、今は『成功する気しかしない』ほどに、アタシは『ゾーン』に入っていた。

「おーすげー、巨大ロボだー」

「ロボですっ」

「ロボじゃねぇよっ。行け! 千手!」

ドドン! ゴゴン! バギィィ!

千ある手が一斉にガキどもをなぎ払う。

効果は抜群……だが、アタシも動かすのに慣れてない所為か、ちょこまかと回避するガキも居る。

しかし、それも『折り込み済み』だ。

「シフォン! 行けるなっ」


「は、はいっ。『虚像』っ」


フッ-- その場から『シフォンが消え』--

スタッ。

千手観音の掌へと『ワープ』した。

虚像は、鏡から鏡へと移動する能力。

千手観音の瞳の部分はお化け屋敷の窓ガラスを利用してるワケだが、それも鏡と見なしてるらしい。

漫画だかアニメの技を参考にして試したら出来たんだと。

「……」

観音様の掌から世界を見下ろすシフォン。

高所恐怖症な妹だが、今は澄ました顔をしている。

アイツも『ゾーン』に入ってるな。

手鏡を眼前に掲げ……


「『月読(つくよみ)』」


--雲が晴れ、月の光が差し込み、手鏡へと吸われていって……反射した月光は、地上へと降り注ぐ。

月の光は古来より、人々を狂わせるもの。

その反射光を浴びたガキどもは、数秒止まり……『分裂』した。

鏡使いとしての基本中の基本、『コピー』。

この手鏡に限っては色々と条件やらタイミングが厳しいのだが、案の定一発で成功させやがった。

そして条件が厳しい分、『リターンも大きい』。

「おやぁ? 増えたと思ったらオリジナルと『戦い始め』ましたね? 同族嫌悪ですか?」

そう、コピーはオリジナルを『消そう』と動き始めるのだ。

まるで自分を『オリジナル』とでも主張するように。

怒った時のシフォン同様、冗談の通じないエグい能力である。

「いいですよー二人とも! 息が合ってきましたね! それじゃ! 私も一発『ブッ放し』ますかぁ!」


キィィィィィ!

クノミの持っている幣が眩しく輝き出して-- カッッッ!!!


「巫女ビームッッ!!」

幣の先端からキラキラした光が放出。

数秒間、昼のような明るさだったが……終わった頃には、その放射線上にいた『ガキもアトラクションも何も残っていなかった』。

……唖然とするアタシとシフォン。

「お前、そんな大技あるなら最初から使えや」

「巫女ビームは『キル数』を稼がないと使えない大技ですからねぇ。殺された者の恨みを貯めて放出するんです」

「み、巫女らしからぬダークな技です……」


--しかし、これで残ったのは守護者ただ一人。



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