28
悪霊──守護者は背筋をピンと伸ばし、体をこちらに向け、まるで『旅館の女将』のように姿勢良く両手を前に揃えた。
幽霊から『品が滲み出てくる』様は恐怖でしか無く……それと同時に、守護者の前にパッと、二人の【子供】が現れる。
『袴を着た』子供だ。
守護者同様、顔は黒いモヤで見えない。
手にはそれぞれ、【オタマ】と【フライ返し】という調理器具。
っ……またこの感覚……『デジャヴ』。
あのガキどもも、『他人の気がしない』。
厄介な精神攻撃して来やがって。
「来ますよっ」
タッーー
子供達は地面を蹴り、袴の動きにくさを物ともせず、空を飛ぶように襲い掛かってきた!
「くっ」
返り討ちにするのは簡単だ。
他の雑魚と同じく、植物で殴り飛ばせばいい。
子供、という見た目に躊躇はしてない。
幽霊なんだから姿形は変えられるし、たとえ本来の姿だったとしても『成仏』を願って躊躇なく払って来た。
だが……この状況でもなお、戦意が湧かない。
「ま、マカロンちゃん!」
「チッ!」
アタシは懐に忍ばせていた【鬼灯】を投げつけた。
道中で見つけた、トマトのような実を萼(がく)で包んだ赤い提灯みたいなナス科の植物。
マザーハートで力を込めて放ったソレは、数秒後にボンッと巨大化し、ガパッと食虫植物のように大口を開いて……
パクッ! よしっ、一人のガキは捕らえた。
しかし、もう一人のガキには ガンッ! とオタマで鬼灯を殴り飛ばされる。
「マジか!? 鉄球並の重量あるんだぞ!」
「ッ! ま、マカロンちゃん危ない!」
シフォンがアタシの前に出て、オタマを振りかぶったガキに鏡を向けた。
ピタリーー鏡に姿が映り込んだ瞬間、動きを止めるガキ。
大抵はこの鏡の力で無力化出来るが…… グググッ 「っ!?」
コイツ! 抵抗してやがる!
「シフォン!」
「きゃっ!」
妹の手首を掴み無理矢理コッチに引っ張ると、直後にガキが動き出し ドゴンッッ!
オタマは空を切ったが、その勢いのまま地面を殴りつけ、物凄い音と共に、鉄球でも落としたような凹みを作った。
「あ、ありがとうマカロンちゃん……鏡が効かない相手……厄介だね」
「何故効かなかったのでしょう?」
「鏡は弱点が多いからな……裏表がある奴には効果抜群だが、『目的が一貫』してる奴にはてんで弱い……って、クノミ、お前こんな状況でもノホホンとしすぎだろっ」
--スパッ
ッ!?
捕まえていたもう一人のガキが、中から鬼灯を切断して出て来やがった。
簡単に脱出出来るもんじゃねぇってのに、なんだよそのフライ返しの切れ味は。
オタマのガキも、立ち上がって体勢を整える。
なんなんだコイツらは?
ハッキリとした姿とこれほどの膂力……そこいらの悪霊のレベルを越えてる。
コイツらより強い親玉の守護者も控えてるってのに……と、奥の方に目をやるとーー
パッ パッ パッ
「なぁ!? 更にガキ増やしやがったっ」
増えたのは三人。
それぞれ手に【ハサミ】、【秤】、【包丁】という日用品を持っていて……まるで【マザーハート】のよう。
「くそがっ、ポコポコ産みやがって!」
「日本の少子化解消だねぇ」
「ウルセェ! お前も手伝えよ!」
「僕が出たら『意味が無い』だろ。君達に頑張って貰わないと」
「適当な事言いやがってっ」
さっきみたいに拘束は無理だ。
守護者も、更にガキを作れる可能性だってある。
……やるしかないのか?
「ま、マカロンちゃん! 来るよっ」
「くっ!」
あちらさんは少しの逡巡もなく潰しに掛かってくる。
数どころか心構えからしてこっちは負けてるってのに……!
「瓏さん、この場面で適切な格好はなんでしょう?」
「んー……ゴーストバスターだから『巫女』じゃね? あ、ミニスカのね」
「分かりました! えいっ!」
シュパパパパパーー ドドドドドンッッッッッ!!!!!
「……は?」
ガキどもが、『爆発』した?
「い、一体、何が……?」
「ふふっ、真打登場、ですねっ」
アタシらの前に立ったのは--『巫女服姿』のクノミ。
手には数枚の【お札】。
この場面で、なんでコスプレなんてしてんだ?
というか、今、袴のガキどもを一気に葬ったのは……まさか?
「何をしてるんですかお二人ともっ。こんな雑魚ども相手に尻込みしないで下さいっ」
「いや……てか、その姿は何だよ?」
「見ての通り巫女スタイルですっ。対悪霊の正統派戦闘フォームでは?」
「に、日本の価値観はよく分かりませんが……その格好で戦えるんです?」
「勿論ですっ。私のマザーハートは『どんな格好にも成れる』、ですが、その姿に合った戦闘もこなせるんですっ。巫女服なら『神事』、魔法使いの服なら『魔法』という具合にっ」
「まぁ僕の『能力』に近いよね。やろうと思えば漫画とかゲームのキャラ『何にでも成れる』」
「でも本当に私が成りたいのは白無垢やウェディングドレスを着て瓏さんとけ……むっ?」
クノミが守護者に目を向けると、既にヤツは追加のガキを二人こしらえ済みで。
「とりゃ!」
地面を蹴るクノミと、同時に走り出すガキども。
「やあ!」
クノミは右手に……確か幣(ぬさ。木の棒に紙が垂らされた日本の神具だったか)を顕現させ、ガキの一人を躊躇なく斬り付けた。
煙となって消えるガキ。
「そぉい!」
もう一人のガキの【洗濯叩き】を一歩下がって回避し、避けざまに左手にあった札を投げつけーードンッ! と爆殺。
無駄のないフットワーク。
クノミというキャラからは考えられない俊敏な動き。
「しゅた!」と声に出しながらクノミはこちらに飛んで戻ってくる。
「ふふ、ざっとこんな感じですっ。『妹達』の前で格好悪いとこは見せられませんからねっ。お二人も『ヤル気になれば』この程度余裕な筈っ」
「……その身体能力も、変幻自在な服の効果か?」
「いいえ? これは『育ての親』から鍛えられた賜物ですっ。幼き頃から『お姉様や小さい子達』と共にビシバシしごかれましたっ」
「幼き頃……? まさか、孤児院出身か?」
「と、となるとモリさんも……しかし、戦闘訓練……暗殺者を育てる機関……? ふ、複雑な過去を……」
「勘違いしてるけど面白いからこのままでいいか」
しかし、なんだこの、今の話の中身の『既視感』は?
昨日今日と既視感だらけだったが、今のクノミの話は他の比じゃない。
……『洋館』……『雪』……『小さなガキや大きなガキ』……
今の情報だけで、いや、情報にないワードも混じったが、すぐにその光景がイメージ出来た。
「お二人が『あの者達』に対する苦手意識があるのは『理解』出来ます。寧ろ『仲間意識』、ですか。しかし……私の育ての親であり師は、いつもこうおっしゃってました。
『仲間と闘う事になったらぁ? 思い切りぶっ飛ばしなさいな』
ーーと」
「いや、やべぇ師ってのは分かったが」
「の、脳筋です……」
でも、今のクノミの声真似……『懐かしい』なんて気持ちが溢れて泣きそうになった。
やはり、アタシらマザーハート持ちは、『何かが繋がっている』気がする。
「手心を加えるのは相手にも自身にも不義理だと私は思います。
仲間が洗脳されたら殴って目を覚まさせろ、
決め事で揉めたら勝った方の意見で進めろ、
仲間相手だからと黙って嬲り殺されたら誰がその仲間を救う?
ーーという教えで、私は育ちました。今でも、素晴らしい教育だと思っています」
「いや、バイオレンス過ぎるでしょ(瓏)」
「相手を仲間と思ってしまう? 結構では無いですかっ。『姉妹対決』! とても『熱い展開』だと思いますっ」
言って、クノミは再び守護者の元へ駆ける。
……無茶苦茶な根性論だ。
論理的でも倫理的でも無い。
おおよその人間が納得と出来ない説得の仕方。
--なのに。
アタシの中で燻っていたモノがジリジリと焦がれ……一気に火が点く。
横を見ると、意思が疎通出来たように、シフォンも頷いて。
結局、普通じゃない奴に普通じゃない説得をされて納得してしまったアタシらもまた、普通じゃないんだろう。
「クノミに続くぞ!」
「は、はい!」
「がんばえー(瓏)」
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