27

──生まれた時から、アタシは『満たされなさ』を感じていた。


何かが『足りない』という思いが、常にあった。

一番に思ったのが母親の存在。

この人は本当にウチらの母親なのか? というしっくりの来なさ。

子供特有の痛い時期と言われればそれまでだが、どうもそれは、シフォンも同様だったらしい。

モヤモヤした時は、二人でいつの間にか持っていたマザーハートを触り、心を落ち着けていた。

まるで御守りのように、身に付けておくと安心するのだった。


ーーそんな気持ちは、去年【あの男】と出逢い、『とある事件』で助けられた事で満たされたと、そう思っていた。


力の本当の使い方を男に教わったアタシ達姉妹は、同じ様な境遇の少女を導く為、故郷であるイギリスから出て世界を転々とする。

同じくマザーハートを持った少女と逢えた時も、お互い、満たされなかったピースを埋められた実感はあった。

それでも、ポッカリと空いたモノが埋まる事は無かった。

もしかして、探していたモノはピースではなく、それを収める『枠組み』だったのかもしれない。


……そんなアタシが、あの着物の悪霊を見た瞬間、『見つけた』と思った。

なにを? 理解出来(わから)ない。

この気持ちはなんだ。

そういう『敵意を無くす』ような攻撃をして来ているのか?

……見た感じ、相手は微動だにせず、猫背気味にダラリと両腕を下ろし、地面見ているだけ。

強い、のは間違いない。

間違いなく、過去最大級の悪霊。

他の雑魚悪霊を違い、姿もハッキリしてる。

だが、まだ、敵として見られる気がしない。

生みの親や恩人を前にしてるような気持ち悪い感覚だ。

「うーむ、これはこれは。中々に『エグくて性格悪い展開』だなぁ」

「そうですかね? 私は『熱い展開』だと思いますっ」

「躊躇ねぇなぁ」

こんな状況でも能天気な二人の会話。

しかし、聞き流せない会話。

「……クノミ。【アレ】がなんだか分かるのか?」

「なんで僕に訊かないの?」

「信用なんねぇからだよ」

「アレですか? んー、なんと申しましょうか。言うなれば、『愛の象徴』と、いったところですね」

「よ、余計分からなくなりました……」

「そもそもアレは、『マザーハート所有者が生んだ守護者』です」

アタシとシフォンは息を飲む。

確かに……この辺りに来てからウチらのマザーハートの反応が強くなって来ていて。

すなわち、すぐ近くに別の所有者がいるという事実に他ならず。

「……アレが、まだ見ぬ奴のマザーハートの能力なのか?」

「いえ。アレ自体は『マザーハートに込められた魔力のほんの一部が具現化した姿』に過ぎません。そして、恐らくは、この遊園地に満ちた邪気も、その一部かと」

「い、一部だけでこの禍々しさ……気軽に使っていたマザーハートの恐ろしさを、実感出来た気がします」

というか、こんなのんびり会話してていいのか? 今。

まだ、アレが動く気配はない。

「近くに所有者が居るのは確定なんだろ? どこに居るか分かるのか?」

「分かった所で、あの守護者を打ち破らねば会う事は叶わないでしょうね」

「ど、どういう意味です? 打ち破る? シフォン達はマザーハートを持つ同士の同志では?」

「そうです。しかし、その所有者の方は今、『自由が利かない状態』と思われます。結果、無意識に『助けに来て欲しい相手』があのように具現化された。元々、マザーハートに備わった『持ち主を護る防衛反応』でもあるのでしょうけど」

「……お前は、どうしてそこまで詳しいんだ? そこまで知らない雰囲気だったろ」

「さっき瓏さんに教えて貰ったんです!」

「イェーイ」

「一気に信憑性無くなったわっ」

なら話半分って事にしとくのは良いとして……こうして実際、マザーハートは反応していて、近くに別の持ち主が居るのは事実。

この辺を探るには、あの悪霊との戦いは避けられない、ってわけだ。


--スッ


「ッ!? アレがこっち見たぞっ」

背中がヒヤリとなる。

見られただけで、この圧力!

「『敵意』に反応しましたね。仕掛けて来ますよ」

「て、敵意? シフォンやマカロンちゃんにはそんなのもの……」

「ふふっ、私が向けましたっ。皆でぶっ飛ばしちゃいましょう! 全てはマザーハートを持つ『姉妹』を助ける為ですっ」

「お前戦えんのかよ!? 一人で盛り上がりやがってっ」

「みんながんばえー(瓏)」

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