23

――モリちゃんを露天風呂に残し、僕とクノミはサウナの前まで移動。


「そういえば、二人は最初から瓏さんを男性と見抜いていた様子でしたね。私なんて初見じゃ分からなかったし……何故でしょう?」

「(かねこりの時の潜在的な記憶だろうけど確信がないから)わがんね。それより、二人は本当にサウナにいるのかな? それっぽい事言って帰ってる可能性ない?」

「どうですかね? かねこりに居た時も二人は岩盤浴やサウナが好きでしたから居ると思いますが」

「え、あそこにそんなのあったんだ。行きたかったなぁ」

「私も恋しいですねぇ。気軽に帰れる場所じゃありませんし」

「ま、それは今目の前にあるので我慢するか。扉開けるよー」

ガチャリ―― サウナ特有の若干重く、少し熱っぽい扉を開くと……

「あ? んだよ、結局お前らも来たのかよ」

「み、短いお別れでした」

普通に寛いでた。

既に二人は良い感じに『仕上がってる』様子で、顔や胸元には大粒の汗が……ん?

「シフォンちゃん、おっぱい溢れそうだけど?」

「……え? ……わ、わぁ!」

無意識か暑かったからか、パツンパツンな胸元が疎かなっていた内気妹は指摘されてすぐにサッと整えた。

「ん、じゃ、ウチらも失礼しますよっと(ドスンッ)あー、敷かれたタオル熱っ」

「隣、失礼しますっ」

座る僕ら……を、姉妹が何か言いたげに見ている。

「なに?」

「いや……なんとなく、お前の事だから妹にもっとセクハラまがいの言動すると思ったんだがな」

「(コクコク)」

「あ、確かに」

「なんて失礼な姉妹だ、おめー(クノミ)も『確かに』じゃねぇ。そんなに僕のちんちんが見たいなら見せてやるよっ(バッ)」

「誰も言ってねぇ! 服をたくし上げるなっ」

「お、おや? 謎の光のせいで見えません(まじまじ)」

「クゥ! この光はいつ消えるんですか瓏さんっ」

「おやおや、悲しいねぇ。君達あれだけ僕のを見たがってたってのに、今は他の男のちんちんに夢中かい」

「わけわからんセクハラをほざくなっ、どこの世界線の話だよっ」

「む、むぅ……この状況、どこか『デジャヴ』が……?」

たくし上げていた服を戻し、座っていた場所に僕は戻って。

「はぁ、いいかい? 話を戻すよ? この世には決して侵してはならぬルールがある。それは『ヒロインは主人公や同性以外に裸を見せてはならない』、だ」

拳を握って熱弁する僕の言う事が解ってなさそうな女の子達。

「簡単な話、ヒロインは『彼氏以外に裸を見せちゃダメ』ってこった。なぁ二人とも?」

「「っっ……」」

「ええ!? お二人には既にそのようなお相手が!?」

「さっきからチョイチョイ話に出てたじゃない。二人は既に『出逢っていた』んだよ」

「あっ……」

僕の言いたい事を、クノミはすぐに理解しただろう。

姉妹がここに居るという事はつまりはかねこりの館で『客の相手』をし、『恋』をし、館を出たという意味で。

「おい、勝手に話進めんなよ。誰も連れが男とは一言も……」

「そ、そうですよっ」

「はぁ。まぁそういう事にしといたるわ」

「後で詳しく訊かせて貰いますからねっ」

クノミ、ノリノリである。

女の子は色恋話好きだからね、仕方ないね。

「……そういうお前らは、どんな関係なんだ?」

「(コクコクッ)」

「見ての通り相思相愛ラブラブですっ」

「少し優しくしたら家にまで押し掛けられて困ってるんだ」

「……ペットと飼い主って感じだな」

「た、確かに」

言い得て妙だ。

「それはそれでっ」とクノミも満足気だし。

「……風の噂じゃ、マザーハートの持ち主には必ず『そういった相手』が現れるらしいがな」

「ま、マカロンちゃん、その言い方だとっ……」

実際は順番が逆なんだけど、それは指摘せず。

「口を滑らすなんて、実は語りたかったんだな? 聞かせろよー男の(ノロケ)話ー」

「きかせろー」

「しまったヤブ蛇だったっ」

「ま、マカロンちゃん……(呆れ)」

結局、彼氏は日本人で日本語はそいつから教わった、くらいしか絞り出せず、さっさと二人はサウナから出て行ってしまい……。


――その後、温泉施設から出た僕達は、スイーツ姉妹が寝泊りするキャンプ場までついて行く。

その頃にはもう夕焼け空も夜のカーテンに覆われていて。


「わー、おっきなテントがありますねっ。キャンプ用品も沢山あってなんだかワクワクしますっ」

ここでみんなで夕飯を作って食べよう、という流れに。

「テントはこれでも小さいんだぜ。荷物も最低限だ。三人で色んなとこに行くからな」

「テント小さい方がみんなでギューって寄せ合って寝られるからなぁ?」

「ッ! 瓏さん天才です! そうなんですかマカロンちゃん!?」

「んな事考えた事ねぇよっ。てか付き合ってねぇって!」

「ちょっとアンタら、少しはご飯作るの手伝いなさいよ」

一人寂しく炊事場でフライパンをジュージューさせてるモリちゃんの元へ向かう僕。

「何作ってるの?」

「パエリア」

「ようやるわ。米と具材炒めてスープ入れてそのまま炊くんだっけ?」

「そ。一度キャンプでやってみたかったのよね」

「ようやるわ。で、こっちの鍋は……芋煮?」

「そ」

「ん……? まさか牛肉醤油味にするつもりか!?」

「なに? 文句あるの? まさか味噌味豚肉とかいう豚汁作れとか言わないわよね?」

「てめぇ! 言ってはならぬ事をっ。それを言うならこれはただのすき焼きだろっ」

「二人とも喧嘩はやめてくださいっ。明日の朝ご飯を味噌味にすればいいでしょうっ」

「どんな争いしてんだよお前ら……てかこんだけの食材どっから生えてきたんだ……?」

――紆余曲折あったが、無事出来上がった料理をテント前のレジャーシートの上まで運び。

「さぁさぁ、食べるよー」

「美味しそうですっ」

「殆ど私が作ったんだけどね」

「んっ、んっ(モグモグ)ん! モリちゃん! パエリアは海鮮のダシが効いてるしお焦げも香ばしいですっ。芋煮も味が染みてホクホクしてて美味しいっ」

「あ、ありがと……恥ずかしいからそんな興奮しないで」

「クノミ、芋煮にはカレー粉入れるとウメーんだよ(パッパ)」

「アンタは人が作ったもん勝手にアレンジしてんじゃないわよっ」

「飯時も騒がしい連中だな……ん? シフォン。さっきからスマホいじってるが、まだ『繋がらない』のか?」

「う、うん……」

「モグ? シフォンさん、どこに電話掛けてるんです?」

「え、えっと……同行者の方に、です」

どうやらダーリンと連絡が取れない状況らしい。

「確か、食材買いに島の外に、とか言ってたわよね。こんな時間になっても戻って来ないのは確かにおかしいけど」

「は、はい……(プツン)あっ、繋がりましたっ。もしもしっ」


『……ザザッ……ザッ……ザー……』

ツー、ツー、ツー


「おいシフォン、ホントに繋がったのか?」

「う、うん……おかしい……」

んー。

「『お前らどうした? 俺は今街の方の港に着いたとこだけど、追加の注文か何かか?』だって」

「え? 瓏さん、今の聞こえたんですか?」

「嘘くさ」

早口言葉みたいなものだったが、聞き取れないレベルでは無かった。

スイーツ姉妹のダーリンの電話は普段からこんな茶目っけ溢れるモノなん? まぁ姉妹の反応的に違うだろう。

僕は今の電話だけで現状を『察せ』たけど、さて。

「……コイツの言葉を信じるなら、どうやらウチらは、おかしな事態に巻き込まれたみたいだな」

「じ、『時間の流れが歪んでる』……でいいのかな?」

ふむ、スイーツ姉妹、伊達におかしな仕事をしてないらしい。

「え? どういう事です?」

「原因は分からんが、この島と島の外は時間の流れが違うっぽい。『こっちの半日』が、外だと『一時間』くらい、から? まぁ、アイツとは明日合流すればいいか」

「ま、前に教えて貰った浦島太郎のお話みたいです……」

「はぁ、また変なのに巻き込まれたのね」

……うーん、この子ら落ち着いてんなぁ。

もっと女の子らしくキャーキャーパニックになってくれたら可愛げあるのに、タフな子ばっかだ。

「つまり! この土日はゆっくり瓏さんと過ごせるという意味ですね! 最高です!」

「何言ってんだ、『明日になったら』仕事終わらせて僕ぁ普通に帰るからな」

「殺生な!」

「――さて、今夜はこんなにも星が綺麗な夜だ。突然の展開にみんなパニックになる気持ちも分かる。だからこそ、君達の為に僕が一曲弾いて落ち着けてあげよう(スチャ)」

「なんか仕切り始めたわね。どこの誰がパニクってるって?」

「こいつ、どこからアコギ出したんだ……?」

「……(再びスマホを弄っている)」

「わー(パチパチ)」

むぅ、コイツら、完全に舐め切ってるな? まともな反応をしてるのは――路上ミュージシャンの前に座り込んでうっとりしてる女の子みたいな――クノミくらい。

「へっ、そんな態度も今だけだぜ」

僕の演奏を聴いた瞬間、『一部の層』は心をざわつかせずにはいられなくなる。

一度しか聴いてない『耳コピ』だけど、まぁいけるだろ。

「ふんふんふーん」

ジャン、ジャンジャカジャン――

「へぇ、普通に弾けるのね。クラシックっぽい感じで眠くなるわ」

「弾き方はお兄から教わってねー。『女の子はギター聴かせりゃ堕ちる』って。他にも色んなモテテク叩き込まれたんだよー」

「弟が弟なら兄も兄ね。姉さ……姉さん?」

僕の演奏に、『狙い通り』釘付けになるかねこりシスターズ。

「ろ、瓏さん、この曲は……」

「んー? 『どこぞの図書館』で聴いたBGMだよ」

彼女らには馴染みのある曲。

とは言っても、記憶を保持してるクノミが反応するならまだしも、スイーツ姉妹がこの曲を憶えてる筈がない。

なのに、その表情は確実に魂を揺さぶられていて。

この曲を作ったのがせぽねさんなのか別の誰かなのかは知らないが、彼女達が心穏やかに過ごせた一因の鎮魂歌なのは間違いない。

さながら……生まれ変わる前の魂が憶えている胎教だ。

「ぅぅ……心穏やかになりつつ寂しさも感じさせる……失って初めて気付く、そんな大事なモノを再確認出来るような、自然と涙が出る名曲です……ウビャ!?」

と。

不意にクノミが奇声を漏らし、仰向けにゴロンと倒れた。

しんみりしたムードも吹き飛ぶ。

「おっ? 光に釣られてカブトムシが飛んできたか。クノミの甘い匂いに吊られたかな? 顔に蜂蜜塗ったらオオクワガタとかヘラクレスとかも飛んでくるかもね」

「いたたっ、取って下さいっ。……ふぅ。ありがとモリちゃんっ」

「カブトムシ触ったのなんて何年ぶりかしら」

「いかにも夏っぽいじゃないか。よしっ、このままの勢いで花火もここでやろうぜっ(バッ)」

「だからこういうのどこに隠してたんだよ……」

「し、シフォンは少し花火に興味が……【あの人】もこの場にいれば良かったのですが」

それから、なんやかんや食後に花火で盛り上がって、その場は解散して。


それから――。

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