22【EP3】

【EP3】


夏の夕方。


青かった空が次第に色を変えていく時間。

暑い季節とは言え、この時間はやはり肌寒くなってくる。

「みんなで温泉、入ろうっ」

僕が提案すると、「いいですねっ」とクノミは同意してくれたが、残りの三人には『何言ってんだ』みたいな目を向けられた。

「海で遊んでベタベタだろ? そこまでおかしな提案かい?」

「おかしくないですっ。あ、ホテルに戻ってそこの温泉に入るんです?」

「いや、もっと近くにいいとこがあるんだ。行くよ」

何も疑わず僕について来るクノミ。

すると必然、モリちゃんも追従せざるを得ず、スイーツ姉妹も様々な思惑で追い掛けてくるだろう。


――辿り着いた先は、『湯』と書かれた旗や暖簾が掛けられた十階建てほどの建物(側に煙突付き)。


「な? いかにもな銭湯だろ?」

「いいですねっ」

「良い具合に廃れてるけどね。で、また『アレ』?」

「モリちゃんは一度見てるから驚かせ甲斐がねぇなぁ。ま、いいや。はい、『ババンババンバンバン』と」

直後。

パッと、建物が息を吹きかえしたように中から光が漏れ出し、煙突からも煙がモクモクと。

ポカン――立ち尽くすスイーツ姉妹。

「何しやがったんだ、今……?」

「ふ、古びた温泉施設が、一瞬で新築同様に……?」

「いいリアクションありがとうシスターズ。さ、入った入った」

「「説明しろっ(下さいっ)!!」」

怪物は正体が分からないから恐れられるように、敢えて解説せず恐れられていよう、尊厳を保つ為。

ロビーに足を踏み入れると、新築特有の木の香りがお出迎え。

フロントがあり、土産売り場があり、食堂があり、選べる浴衣の棚があり、人はなし。

案内板を見る限り、様々な種類の温泉を楽しめる施設だったのだろう。

「おっ。屋上の方に展望露天風呂、らしいですよっ。行きましょう!」

「姉さんほんと高い所好きね」

エレベーターが使える事を一切疑わず乗り込むクノモリ姉妹と、

「なんで電気系統も復旧してんだ……」

「こ、これほどの怪奇現象は『マヨヒガ』に迷い込んで以来です……」

ビビりつつ、ついて来るスイーツ姉妹。

――新品だが少し古い型のエレベーターは、グングン登っていき……屋上に到着。

エレベーターホールに出ると、初めに思うのが、ツンとした硫黄の香り。

どうやら本物の温泉をここまで引き上げているようだ。

そして目の前には、男湯と女湯の暖簾。

「さっ、皆さん行きましょうっ」

「ん」

「予想通りの行動取らないでよ」

ガシッ、モリちゃんに後ろ首掴まれた。

「なんだい?」

「分かってて言ってるでしょ」

「モリちゃんどうしたんです?」

「姉さんは分かってなさそうだけど、そっちは『女湯』よ」

「「???」」

「いやそんな顔されても一歩も引かないから」

「全く、細かい子だよホント。仕方ねぇ、こっち(男湯)行くか」

「では私もそちらにっ」

「今までのやり取りを無駄にしないでよ」

「お前らさっきからなんの言い争いしてんだよ?」

「に、日本のヤングのノリは解りにくいです……」


――そんなこんなで。


「おー、ぜっけーぜっけー」

「お空も海もオレンジジュースをぶちまけたみたいな色ですー」

屋上露天風呂。

テーマパークの売りの一つであったろうその場所は期待を裏切らないオーシャンビューであった。

「なんだか負けた気分……」

「これが日本の温泉かぁ。少し熱めだが、広くて良い気分だな」

「あわわ、高い……」

シフォンちゃんは着物と言ってるが、正確には白装束。

とある有名な温泉では湯治の際、湯着としてこれを着て温泉に入るらしいが、丁度この場にも置いてあったのでみんなで着てみた。

当然、水着や裸と比べるでもなく露出は少ないが、下は履かず長めな丈の上着一枚なその姿は『彼氏ワイシャツ』姿っぽいし、水を吸った布が肌にぴっちり張り付き体のラインをハッキリさせて……たまには別の味付けも悪くないもんだね。

にしても、二回も温泉回があるなんて贅沢だなぁ

「うー……少し肌がピリピリしますね……」

「日焼けしてるからね。久しぶりの感覚でしょ」

「はいっ」

まぁ雪だらけの場所でも雪焼けはあるが、あの世界では焼けない仕様なのだろう。

小麦肌巨乳は大好物である。

「あっ、瓏さんっ、遊園地の観覧車が見えますよっ。なんだか風情がありますねー」

「うん。陽に染まる廃墟……なんだかノスタルジーだねぇ」

海を眺めるのも良いが、その反対側である島の中を一望出来るのもポイントが高い。

ホント、潰れたのが惜しいテーマパークだ。

「遊園地ね。ったく、のどかすぎて腑抜けちまう。なんで【アイツ】はワザワザこんなショボい場所を今回の仕事場に選んだのかね」

「ま、まぁたまにはこうして休息するのもいいんじゃないかな。にしても、着物でお風呂に入るのは不思議な気分……でも、何故だか『懐かしい気持ち』に……?」

「あっ! そういえば、お二人は今どういったお仕事をしてるんです?」

僕が先程同じ事を訊いて突っぱねられた質問だが、

「あ? ああ。まぁ言ってもいいか。ウチらは【ゴーストバスターズ】として世界を転々としててな」

サラリと話した、ひどい。

「もう完全にファンタジーな世界の話ね」モリちゃんもポツリと今更な事を漏らしてる。

「ほ、本当はあと【もう一人】同行者が居るのですが、今は買い出しに街の方に行ってまして……」

「ゴーストバスターズ! なんだがかっこいいですっ。ショボい場所、という事は、遊園地にいる幽霊さんは大した事がないと?」

「ああ。さっき遊園地をひと回りした感じじゃ、な」

「し、しかし、霊が多く居る場所は負のオーラが満ち、見えない人間でも本能的に近付きたがらなくなりますからね。仕事を依頼して来た方は島を再開発したいらしいので……」

「良いですねっ、これだけ素敵な場所なら再びの成功も約束されたものですっ」

「まぁそんなわけで、ウチらなんて話しても面白くない連中だ。お前らに比べたら、な」

マカロンちゃんが僕を見た。

嫌だねぇ、熱い視線を向けられるなんて罪な男だよ僕ぁ。

「た、確か、探偵業とおっしゃってましたね。爆発事故……シフォン達も少しは調べました」

「そーそー。その際に行方不明になった少年少女について調査しててね。で、見た感じ……解決には『人手が足りない』って感じかな」

「人手? もっと沢山の人が居れば、行方不明になった方々が見つかるんです?」

「いや数人で大丈夫。そうだな、例えば……ゴーストバスターズの女の子二人、とかさ」

「なんと! ここに偶然いますっ」

「指を差すな。両手で二人に指を差すな」

クノミの手を湯の中に沈めつつ件の二人を見ると、胡散臭い視線を向けられていて。

「それって、ホントにウチらが必要な案件なんか?」

「こ、この建物を一瞬で新築に出来るような方ならば出来ぬ事など無さそうですが……」

「瓏さんが必要とするなんて、二人は凄いですよっ」

キラキラとした目を向けられ姉妹は「「ウッ」」と困惑し、

「……考えとくわ」

「ぜ、善処を」

無垢な少女に丸め込まれた。

ふぅむ、やはりクノミという緩衝材を間に挟むと話が早いな。

「そういや、脱衣所の近くにサウナがあったな。シフォン、お前好きだろ」

「そ、そうですね。では、シフォン達はそちらに行きますんで」

ザバァ と二人は腰を上げ、ペタペタと扉の方に向かって行った。

ううむ……プリンとしたお尻のライン……あの幼女二人がこうも女性として育成成功するとは。

『良い相手(男)と巡り合えた』ようだね。

「さて(ザバァ)」

「ちょっとっ、急に立たないでよっ」

「あ? モリちゃんどうしたんだい? 僕の股間が眼前に突きつけられた以外に何か問題でも?」

「自分で問題理解してんじゃないのよっ」

「ほら、よく見てみな。『謎の光』で見えないようになってるだろ?」

「わっ、本当ですっ。ここだけ陽光が集中してて見えないですっ」

「不自然過ぎるでしょ……見ないで済むのは助かるけど、また言霊の力?」

「まぁ別に今だって服着てるけど、一応ね。多方面に配慮してるんだよ僕も。じゃ、サウナ行くか」

「私も行きますっ」

「やめときなさいよ、あの二人アンタから離れたかったのかもしれないし。てか普通にそうだし」

「なら尚更仲良くなりに行かなきゃね」

「素晴らしい考えですっ。モリちゃんもっ」

「私はいいわよ。話ついてけないし」

合理的な判断をする子だなぁ。


ま、今回に限っては彼女は蚊帳の外に徹した方がいいだろう。

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