目が覚めたら雪山にいて近くの宿の女中さんに拾われた話

21

――その後。

ぐるりと遊園地内を散策するが、複数の幽霊さん以外にめぼしい発見も無く……。

「はーアッツ。汗やば。シャワー浴びたい」

「だねぇ」

「よしっ、水着イベントへの自然な導入だなっ」

「え？」「は？」

「『海開きー』（パンッ）」

手を叩くと パッ 場面は変わり――――眼前には広がるのは『海』。

「は？ は？ なにここ？ 海水浴場？」

「はえー。あ、もしかして言霊の力でこの『島の端にワープ』したんですか？」

「超速理解だなクノミ、そうだよ。さ、水着回しようぜっ。脱げ脱げっ。どうせ中に着てんだろっ」

「なんでバレてんのよ。てかアンタの前で水着とかなんかヤなんだけど」

「私は構いませんよっ、えいっ！」

クノミが両手を万歳すると、不思議な事が起こる。

着ていたワンピースがキラキラ光を放って……みるみる縮んで行き……最終的に『白ビキニに変化した』。

「ううむ、何度見てもこの変身シーンは魔法少女ぽくていいね。せぽねさんは良い物を『くれた』よ」

初めは着物用コートとして別れ際に渡してくれた物だが、それを見たナヨさんが『普通のコートじゃない』と一目で察し、使い方を教えてくれた。

意図は分からないが、『凡ゆる服に変化させられる』そんな【嫁入り道具】を渡してくれたようだ。

「ほらっ、モリちゃんも脱いでっ」

「いや、だから」

「脱がないと私が全裸になりますよっ」

「どんな脅しよ」

「僕もなるよっ」

「なんでよ。どこのヌーディストビーチよ。……はぁ。分かった分かった」

Tシャツをこう、両手をクロスさせるやり方脱ぐと プルンッ 姉にも劣らぬ彼女の母性が解放された。

「ふぅむ……白Tシャツ越しにも見えてたけど、黒のビキニか……いいね。デニムショートパンツとの組み合わせもいい」

「評論家みたいなこと言いながらジロジロ見るなっ」

サッと両腕で隠された。

むほほ、そんな憂い反応すら僕を喜ばせるとも知らずに。

「さぁて、僕も脱いで……ん？」

視線を感じ、振り返ると、

「……お前ら、いつの間に」

「ゆ、遊園地に居た筈では……？」

スイーツ姉妹と早めの再会を果たした。

しかもその姿は水着だ。

デカイ×２

「と、というか、今、パッと現れたような？ あのお姉様も、服が変わったような？」

「やっぱり、カタギじゃねぇってこったな。大人しくしてるってのも信用ならねぇ。『アイツが戻って来る前』にお引き取り願うぞっ、シフォンッ」

「は、はいっ」

なんか臨戦態勢に入られた。

ぶるんっと揺れる二人のおっぱいがいいね、小さな頃の姿を見てるから妙な背徳感もあるし。

――それはそれとして。

成長した二人は今は妙な仕事についているのか、怪しい相手に喧嘩を売れるほどの自信があるようだ。

勝気なマカロンちゃんはどこからか【手鏡】を取り出し、

内気なシフォンちゃんは頭の【花型髪飾り】に手を添えた。

いやどう見ても戦うスタイルではないのだが……あの道具からは『せぽねさんの魔力』を感じるので、ハッタリではないのだろう。

……さて。

それでも僕が負ける要素は無いし、僕自身、彼女達を傷付けるつもりは一切無いので、どう穏便に片付けようかと一考していると――

「え……？ 私の水着が、急に光って……」

「ちょっ、姉さん、大丈夫？」

慌てるクノミとモリちゃん。

変身時とは違う『黒い輝き』。

「な……ウチらの【マザーハート】も？」

「こ、この反応……もしやあのお姉様『も』？」

そして、共鳴するように、スイーツ姉妹の得物も輝いて。

……成る程、よく分からないけど。

「まぁまぁ落ち着こうよ。少なくとも、その道具達は『争いを望んで無い』ように見えるぜ？」

僕の言葉に、スイーツ姉妹は顔を見合わせ……場は、白けたような空気に。

「あ……あのっ。お二人の【ソレ】は一体？ この反応はっ？」

勇気を出し、僕の前に出て姉妹に問うクノミ。

スイーツ姉妹は動揺しつつ、心なしか、クノミを見た瞬間警戒心を薄めた様子で。

「……すっとぼけてる感じはなさそうだな。ウチらが持ってるコレはマザーハート。不思議な力を持った小道具だ」

「お、お姉様は、それをどこで？」

「……私は、まぁ、とてもお世話になった『母親のような方』に頂いて……お二人は？」

「ウチらは『気付いたら持ってた』感じだが……母親、か、言い得て妙だな。この反応はマザーハート同士が『近付いた時』に起こる現象だ。今までも二人ぐらい、この反応をした奴と会って来たが……」

「あ、相手は決まって女性で……その方と目を合わせた瞬間シフォン達は覚えるんです。『既視感』を」

「既視感……」

クノミの場合はガッツリ憶えているから既視感どころではなく他人行儀な二人に対する違和感とかまた会えた幸福感とかだろう。

「マザーハート……存在は『数百年前』から確認されてるらしいが、その見た目の特徴は『日用品』ってとこでな」

「つ、使えるのはその持ち主ただ一人で……加えて、全て『女性が使う物』、正確には『母から娘に託す』ような道具という特徴から、こう呼ばれるようになりました。【マザーハート（嫁入り道具）】と」

「母の愛……というわけですね」

せぽねさんは、女中が旅立つ際、彼女らに嫁入り道具を渡していたのだろう。

生まれ変わった先でも困らぬように。

そんな嫁入り道具を持つ元女中同士が近付いた際、輝いて知らせる機能がある『理由』も、想像に難く無い。

「それで……先程の、別の場所で会ったマザーハート持ちの方とはその後？」

「ああ。その時あっちが抱えてたトラブル解決したり、逆にこっちの仕事手伝って貰ったりと、持ちつ持たれつだったぜ」

「す、凄く、息が合ったように仕事出来ましたよね、お互い。まるで、昔からの……」

やはり。

困難に足を止められても、同じ時を過ごした姉妹同士で助け合って行け、という思惑。

ほんと、あの冥界の女王は愛が深い。

「ではっ、私にも是非っ、お二人のお手伝いをさせて下さいっ」

「それは有難い話だけど……なぁ？」

「こ、今回のお仕事はそこまで難しくもなくて……『知り合いが戻ってき次第』、すぐ終わる案件ですし……」

「そうですか……」

ショボンとなるクノミ。

元お姉ちゃんとして妹達にいいとこを見せたかったんだろう。

まぁそんな機会はこの先いくらでもあるよ。

――さて。

これ以上モブみたいな扱いにも耐えられないんで、話を区切らせて貰うか。

モリちゃんなんて僕以上にちんぷんかんだろうし。

「はいはい（パンパン）暗い空気はそこまで。折角、こうして素敵な出会いを果たせたんだ。親睦を深めようじゃないか」

「いや、未だにお前は警戒してるんだが」

「い、良い感じに纏めようとしてて怖いです……」

なんでこんな嫌われてるんだろ？

あちらが忘れてるとはいえ、かねこりじゃあ楽しくスマブラしたってのに。

いや、考えたら後半は『クノミを連れて行く悪い男』って認識だったな。

「でもっ、親睦を深めるというのは私も参戦ですっ。ほらっ、モリちゃんこっちこっち」

「ええ……この流れで……？」

その後。

冒頭の水着イベントへと繋がり……

女の子達は（僕を蔑ろにして）キャッキャウフフとビーチバレーやらビーチフラッグ等をして距離を縮めていった。

途中、ポロリなハプニングがあったり、それをガン見していた僕がボールやら砂やら海水やらの集中砲火を浴びたりと盛り上がって……

気付けば、逢魔ヶ時だ。