【EP4】24

【EP4】


パチクリ。


ベッドの上で目が覚めた。

場所は……ああ、初っ端に真新しくしたあのホテルの一室ツインルームか、焦ったわ。

時間は……深夜で、日が変わったばかりか。

はぁ、面倒くさいけど、『仕事』はしなきゃね。

ムクリ、体を起こすと、

「行きますか?」

「うおっ」

パチクリ、隣で寝ていたクノミも目を覚ましてビックリした。

「行くんですよね? すぐ準備します(ボソボソ)」

隣のベッドで眠るモリちゃんへの配慮か、小さな声のクノミ。

残念ながら、モリちゃんはお留守番だ。

まぁ彼女も来たがらないだろうけど。


――浴衣から私服に、着替えを済ませ、ホテルから出る。


「瓏さん瓏さんっ、見て下さいっ、星が綺麗ですよっ。アレが夏の大三角ってやつですかねっ」

「そーだねー」

「灯りが無いのに月の光が明るくて真っ直ぐ進めますねっ」

「そーだねー」

「虫の声も心地いいですっ。ジージーキリキリカナカナカナッ。クビキリギスキリギリスヒグラシですかねっ」

「そーだねー」

「ジメジメ湿っぽいですねっ、土の香りがしますっ」

「そーだねー」

「あっ、かゆいっ。胸元虫に刺されてます!」

「そーだねー(ウナクール)」

「ヒャ! 冷たいですっ」

僕の塩対応にもコロコロと笑顔を見せるクノミ。

冬の世界では無かった、夏という対極の世界の顔だから、全てが幼少期以来で懐かしく新鮮なのだろう。

「君は能天気でいいね」

「そりゃあ能天気にもなりますよっ。おチビだった姉妹ともこちらで再会出来て、今幸せそうなのをこの目で確認出来たんですっ。今の私には心配事など一切ありませんっ」

楽天家め。

「これから危険な目にあって死ぬ可能性もあるぞ」

「私にとってそれは心配事に入りませんねー」

「一度死んだ奴は太いなぁ」

多分また死んでもせぽねさんが保護してくれるだろう。

今の彼女に怖いものは何も無い。

「しかし……こんな時間に仕事を再開する意味はあったんです?」

「あるよー。知ってるかい? 幽霊ってのは夜に元気になるんだ」

「墓場で運動会ですか?」

「そーだねー」

――っと。

目的地に辿り着いたな。

『戻って来た』と言うべきか。

「あ、ここだったんですね」

「知らないでついてきたんかい」

そう、『遊園地』。

目的のブツは確実にここにある。

「ああ、そうだ。クノミにはこの中で『起こるであろう展開』と僕の『仕事内容』を予め言っておこう」

かくかくしかじか

「……そんな事が。ならば『早く行かないと』ですねっ」

話が早くて助かる。

「おや? もしかしてあそこのゲート前に居るのはっ」

タタタタと一人早足になるクノミ。

お菓子コーナー見つけた子供かな?

「こんばんはお二人ともっ」

「ああ」「ど、どうも……」

スイーツ姉妹だ。

こんな場所、こんな時間で奇遇だなぁ……とは思わない。

予定通り、というか、特に約束は決めてなかったが会話の中で取り決めしたような『利害の一致』というか。

「その様子だと、まだ中には入ってないようだね。『どう思った?』」

「どうもこうも……どうなってんだ?」

「お、お昼に来た時より『邪気』が何倍も増えてます……」

「邪気?」

あざとく首を傾げるクノミ。

「霊気やら妖気やらが入り混じった良く無い空気だよ。そういう場所を霊だのは好む」

「よ、夜は必然的に邪気が増える傾向にあるのですが……しかし、この濃度は異常です」

「『邪気を濃くするモノ』が遊園地内にある、って事だねー」

僕が『答え』を言うと、スイーツ姉妹は胡散臭そうな目でこちらを見て、

「お前……心当たりあんのか?」

「や、やはり信用出来ないです……」

「なら僕が先頭に立って進むさ。それこそが僕が今回求めていた【依頼品】だからね。最悪『クノミさえ居れば』仕事に支障は無い。君達は帰って寝直していいよ(スタスタ)」

「あっ、瓏さんっ、待って下さいーっ」

「……安い挑発くれやがって」

「い、行くしかないですね……」

よしよし、ついて来てるな。

「(ひそひそ)本当に来てくれましたね、二人とも。なんで来るって分かったんです?」

「(ひそひそ)そりゃあ沢山『餌を撒いた』からね。来ない筈がない」

「餌?」

「さっきのギターもその一つさ。あの曲を聴けば僕という存在が気になるだろ?」

「でも、警戒もするのでは? 罠だと思って来なかった可能性も……」

「二人は無意識に『答え』を探してたんだ。長年燻らせて来たであろうモヤモヤを解消する答えをね。罠だろうが食いつくさ」

「成る程っ。私も、瓏さん相手なら同じ選択をしますっ」

「お前は餌無くても入れ食いだろ」

なんて内緒話をしながら、僕達はゲートを潜る。


――さながら、今のゲートは【鳥居】だ。


『………………』

美少女三人、ゲートから一歩足を踏み入れた瞬間、足が止まった。

異界。

その形容が正しい。

昼頃の空気とはまるで違う。

仕事柄この空気に慣れているであろうスイーツ姉妹ですら眉を潜める。

このアーチ型のゲートも、神社にある鳥居も、役割は同じだ。

遊園地のゲートが『現実』と『夢の世界』の間に立つ門なら、

鳥居は『人の世(うつつ世)』と『人ならざるものの世(かくり世)』を分ける門。

僕らが今居る世界はどれかなど、説明するまでもない。

「んー、なんだか懐かしい『空気』を感じますねぇ」

一方、尻込みしていた姉妹とは対照的に、落ち着いた様子のクノミ。

まぁ……ここは死後の世界の親戚みたいなもんだから、似た匂いを覚えるのだろう。

危機感なさ過ぎて心配になるな。

けれど、良いタイミングで空気を変えてくれた。

「ほらっ(バンッ)ダーリンいなくて心細いのは分かるけど、とっとと終わらせるよっ」

「いたっ! 背中叩くなっ」

「うぅ……しかし本当に、あの方が居てくれたら……」

「グチグチと……ああ、そうか。この場所が『暗いから』やる気出ないんだね? なら」

パンッ 僕は手を叩き、

「『イッツァショータイムッ』」

パッ パッ パッ

死んでいた遊園地は、息を吹き返したように照明が蘇り。

楽しげな音楽が、動き出すアトラクションの音が、嫌でも気分を盛り上げる。

「わぁ! まさに遊園地って感じですね! 貸し切りですっ」

「そ、クノミが言う通り貸し切りだ。これで少しはやる気出るでしょ?」

「「…………」」

スイーツ姉妹は言葉を失うほど感動したようだね。


俺達の仕事は始まったばかりだ!

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