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↑↓
気に食わない。
全部アイツの思い通りにコトが進んでる。
というか、全てアイツが仕組んだんじゃねぇかと考えた方が自然だ。
女みてえな顔、冷たい銀髪、何考えてるか分かんねー銀眼の自称探偵。
そもそも、なんでウチらがアイツの手伝いしなきゃなんねぇんだ。
どうしてこうなった?
ウチらはウチらの仕事をする為にこの島に来たんじゃねぇのか?
「お二人が後ろに居て下さると安心出来ますねっ。後ろはお任せしますっ」
……。
そう、コイツだ。
クノミ。
ウチらが動く理由付けをするとしたら、コイツの為だ。
白ワンピ 、黒髪ボブカット、整った顔立ちの快活少女。
そんなコイツはなんと【マザーハート】持ちだという。
不思議な力を持つ日用品、マザーハート。
これを持つ者同士は、何故だか会った瞬間『既視感』を覚え、すぐに打ち解けられるという。
という、というか、実際それを身を以て何度か実感してる。
本当に、何故だか安心するのだ。
まるで『長年連れ添った家族』のように。
「ま、マカロンちゃん……なんだか、『反応』してない?」
シフォン――アタシの双子の姉。
オドオドした感じのやつだが、やる時はやる便りになる奴。
そんなシフォンも、クノミに対しての印象はアタシと同じだった。
マザーハートは謎が多い。
何故持ち主以外使えないのか、何故持ち主の元に現れたのか、
何故……懐かしい匂いを感じるのか。
この謎は、いつまでも明らかにならないだろうという確信があった。
「ま、マカロンちゃん?」
「え、あ、ああ。なんだっけ」
今シフォンはなんて言った? 反応、だったか?
シフォンは自身の手鏡型マザーハートを見せて来る。
ソレは淡く光を放っていた。
恐らく、アタシの花の髪飾り(花の種類は魔女の花ことアコニット。中身はソーイングセット)型マザーハートも同じ状態の筈。
「前に居るクノミのに反応……じゃあなさそうだな。反応も、少し弱々しい」
まるで、何かが『遮ってる』ような感じだ。
それは物理的になのか、この濃い邪気のせいなのか。
「い、居るのかな? ここに、別のマザーハートの持ち主が……」
「ああ……しかし、こんな場所に居るとなると、色んな意味で心配事が増えるな」
目の前を歩いてるアイツは、『邪気の発生源がある』みたいな話をしていた。
それが物なのか他人なのか。
マザーハートを持ってる奴が危険な状況なのか、『持ってる奴自身が危険』なのか。
そも、なんでアイツはそこまで知ってるんだ?
少し考えようとして……やめた。
時間の無駄だろうから。
「おっ? やっこさんがお出ましだ」
不意に、足を止めたアイツは、何やら不穏な事を言い出して。
――直後。
「おやっ? なんだか『黒いモヤ』みたいのが……?」
クノミが指差す先。
クルクルと呑気に回るメリーゴーランドの側。
そこで何かを燃やしているかのように、煙のようなモヤが揺らめいていて。
それはまるで、この明るい遊園地(状態にしたアイツが一番の異常というのは置いといて)を恨むように生まれた影。
影は徐々に横に広がっていって……それらは『人の形』になった。
小さな、子供の形に。
顔は無い。
ただの、黒いシルエットが十体ほど。
「『あっち』で最近見たなー、こんなの」
呑気に何か言ってるアイツは放っておいて、アタシとシフォンは『臨戦態勢』へと一呼吸で移行する。
【こういう類い】のを見るのは、仕事上慣れてる。
その場所にこびりついた(または引き寄せられた)負の念が具現化したもの。
悪霊、と呼んだ方が分かりやすいか。
慣れてる、とは言ったが、実際ここまで大量に沸いたのを見るのは初めてだが。
こんな遊園地に、何があるってんだ。
ユララ――
陽炎のように揺らめいていた悪霊どもが、突然、意思を持ったかのようにこちらに雪崩れ込んで来た。
「シフォン!」
「は、はい!」
腰に添えた手鏡を引き抜き、鏡面を敵に向けるシフォン。
「『め、明鏡止水』!」
面には、全ての悪霊が映っていて……ピタリ、奴らの動きが止まった。
そして奴らは、フッ―― 音も無く消滅。
「え? アレ? 居なくなりました?」
「そうだねぇ、盛り上がりに欠けるねぇ。まるで『成仏したかのように』消えたけど、どういうカラクリだいシフォンちゃん?」
「え、えっと……」
言うか言うまいかと目を泳がせていたが、
「じょ、成仏したってのはあながち間違いじゃなくて……『目的を反転』させたんです」
「反転、です?」
「は、はい……シフォン達を襲うという目的の逆……シフォン達と敵対しないという風に『中身を変えて』……」
「うわ、なんか聞いたらエグい攻撃に思えて来たな。目的が無くなったようなもんだから消滅という選択を取ったと。鏡の特性を活かした(?)戦い方だけど、これ、有効範囲は幽霊だけとかじゃないんだよね?」
頷くシフォンに、アイツは「エグッ」と言葉とは裏腹に楽しそうに笑った。
「しかし、瓏さん……今のはまさか、例の被害者の子供達ですかね……?」
クノミが言うのは話に聞く『集団失踪事件』の、という意味だろう。
さわりしか知らないが、確かに、怪異が関わっててもおかしくはない事件という印象。
消えた子供達が本当に死んでいてこの地に縛られているとしたら、これだけの悪霊ともなろう。
あのクノミが、不安そうに訊ねる光景……見ていると、胸が締め付けられる。
「いや、アレは違うよ。見た感じ、生前の魂らしき痕跡も無さそうだし。意思なんてないただの残響さ」
「そ、そうですか……安心しました」
「子供の形になってたのは、遊園地に残っていた『人の思い』だろうね。いつまでも消えないんだよ、『楽しかった記憶』は」
「はえー……なんだか悲しいですねぇ」
「――っと。しんみりしてる暇は無いみたいだよ、ホレ」
子供型の悪霊は消えた。
でもそれで終わりじゃない。
こんな場所にはいくらでも『湧いてくる』。
ガゴガゴ!
鈍い音と共に急に動きを止めるメリーゴーランド。
見れば、馬の中に、黒いモヤが入り込んで行って……バキンッ!
まるで命を吹き込まれたように、馬らが自ら支柱を折って、十頭以上一気にこちらに飛び込んできた。
「ま、マカロンちゃんっ」
「言わずもがな!」
雑魚狩りはアタシの仕事。
瞬時に頭にある花の髪飾りに指を置き、敵を見据える……のではなく、近くにあった【花壇】に目を向けた。
ご丁寧に、アイツが『花まで当時を再現』してくれたから仕事は楽だ。
「『無憂樹(むうじゅ)』!」
花壇に植えられチューリップに意識を集中させると……グモモモ! 花はムクムクッと一瞬で大きくなって……
ブオン!
電柱並に『大きくした』チューリップの頭を、
ドンッ!!
モーニングスターのように振るい、馬どもを一掃した。
砕け散り、地面を埋め尽くす馬の残骸。
ソレらが再び動き出す様子は無かった。
……役目を終えたチューリップは、静かに、元の大きさに戻る。
「オオ! 凄いですマカロンさん! 今のは!?」
「あ、ああ。見た通り、アタシのマザーハートは『植物に作用』する力がある。成長を促したり、必要以上に大きくしたり。その植物をコントロールも出来て、戦いに使えるまでに強化も出来る。理屈は分からんがな」
「(ボソッ)まぁシフォンちゃんのも同様、生みの親が『本場』に住むアレな人だから、悪霊退治くらいは余裕よね」
アイツがなんか言ってるが、適当な話だろうし無視だ無視。
「目的地までまだあるってのに猛攻が続いてるね。でも気を引き締めてっ。終わりじゃないよっ」
何もしてない(頭のおかしい方向で視界は良くしたが)癖に口だけは偉そうなアイツはズンズン先へ。
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