19

――島全体が元テーマパークだったという事で、その名残は移動中チラホラ伺えた。


移動に使っていたであろう電車の線路。

動物達と触れ合えたであろう牧場。

放置されたお好み焼きやクレープ、たこ焼き等の屋台。


「うーん、良さそうな場所なんですがねぇ。どうして廃れてしまったのでしょう?」

「アクセスの悪さじゃない? 船ないと行けないとか悪条件でしょ」

「いや、それでも普通に栄えてたらしいよ? とある『事件』がなきゃ今もやってたかもね」

「「事件??」」

「『児童大量失踪事件』」

姉妹は口を噤んだ。

「事件、というより事故って言い方が正しいかもね。僕も詳しくは知らないけど――」


十数年前……

その日もテーマパークは賑わっていて。

その日一番の盛り上がりを見せていたのは、遊園地エリアに来ていた大道芸人達のパフォーマンスだ。

集まった親子やカップル達は、それを見ようと大道芸人らをドーナツ状に囲む。

パフォーマンスはピークを迎え、子供達を集めて何かをしようとしていて――

次の瞬間、『大爆発』を起こした。

……その時、大道芸人らは決して火器を扱って居なかったと当時の場にいた客は語る。

奇跡的に、客に怪我人は居なかった。

しかし大道芸人らは、子供達は……『消えていた』。

死体も焦げ跡も一切無く。

消えていた。

まるで、『神隠し』にあったように。


「当時は大騒ぎさ。十数人居た子供達が煙のように消えたんだから。テーマパーク側に非があった訳じゃないけど……多分それが原因で現状に、だね」

「あわわ……恐ろしい話です……」

「今までなら都市伝説か何かって決めつけて下らないと一蹴してたけど……何だか他人事に感じない話ね」

二人とも、すんなり『超常現象』を受け入れてくれるから話が早い。

「も、もしかして、瓏さんの今回の仕事って……?」

「それ関連。神隠しの原因は『大体分かってる』から、上手く行けば、まぁ『色々』ね」

「そ、それは素晴らしい事ですっ。是非私にも協力をっ」

「君に出来る事は何も無いよ。僕の為に飯でも作ってろ」

「承知! (ビシッ)」

「都合の良い女ね……」

そうこうしてる間に、周囲の雰囲気は変わり……いくつか建物がポツポツ見えてきた。

この辺は宿泊エリアだろう。

「てかアンタ、そんな身軽でご飯とか寝る時とかどうするつもりだったのよ」

「あん? んなのどうにでもなるでしょ。貰ったお重もあるし。逆に、君らキャリーケースなんてガラガラ転がしてきやがって……ピクニックじゃねぇんだぞ」

「女の子は男と違って入り用なの。本来ならこの荷物も男のアンタが運ぶべきなのよ」

「価値観が昭和だなぁ。じゃあそんなお姫様方には綺麗なホテルで休んで貰いましょうかね」

「綺麗なホテルなんてどこにあんのよ」

「目の前にあんだろ。当時なら一泊五万は取られてるぞ」

「廃墟好きが喜びそうなビルしか見えないけど?」

「雨風しのげりゃ十分やろ。僕は適当に『テント取り寄せて』寝るから気にしないで」

「テント! 私は瓏さんと一緒がいいですっ」

「姉さんは黙ってて。てか、本当にまともな宿泊場所も無いの?」

「リゾートにでも行くと思ってたのかこのお嬢様は。……はぁ仕方ない。今回だけだぞ」

僕は廃墟ホテルを見上げて、

「『新装開店』っと」

パンッ 一度手を叩くと――『ピカピカのホテル』へと変貌した。

いや、手を叩く必要は無いんだけど、切り替える意味でね。

「ほら、適当に部屋選んで荷物置いて来な。電気も通したからエレベーターも使えるぞ」

「わーすごいっ。選びたい放題ですっ」

「……もう無茶苦茶ね」


――一〇分後、姉妹がトートバッグだけを持って戻って来て。


「水もお湯も出たし、冷蔵庫には飲み物まで入ってて至れり尽くせりでしたねっ」

「ホテルマンも他の客も居なくて不気味過ぎたけどね……」

「終わった? じゃ、行くよ」

このまま順路通りに進めば、自ずと『目的地』に辿り着くだろう。

「しかしその能力(言霊)、何でもありすぎない? アンタにそんな『神様』みたいな力あるとか不安でしかないんだけど」

「神様かー、言い得て妙だね。僕のママンの『真の姿』を見た一般人が、心酔しすぎて『宗教』作ったって話もあるよ」

「瓏さんのお母様! 瓏さんを産んだお母様であるならば魅力たっぷりなのも納得です! はぁ……早くご挨拶したいですぅ」

それは無理だと何度も説明してるのに話を聞かない子だな。

ちょっとの事ですぐに癇癪を起こす爆弾ママンの前にコイツを出してみろ、一瞬で消されて二度と生き返られなくなる呪い掛けられるぞ。

「探偵の仕事だって、場合によっちゃその力ですぐに終わらせられるでしょ」

「言霊はそんな便利な力でも無いさ。クノミの時みたいに『ルール』を守らないといけない場面もある」

……【お兄】なら事務所のソファーに座ったまま全て解決出来るくらいチートだけど。

「っと。着いたかな?」


足を止め、見据えた先にあったのは【入場ゲート】。


「ん? ってここ明らかに【遊園地】の入り口じゃない?」

「姉妹は近付くなと言ってましたね……」

「知らんがな。僕は一人でも行くでー」

スタスタ先に進むと、少し遅れて二人分の足音が迫って来た。

本来ならばチケットを見せる為の窓口を重役のように素通りし、園内へ。

――直後、空気が変わる。

真夏だというのに、園内は空気がひんやりと肌寒く、だというのにネットリと何かが肌にまとわりつく感じで……。

「君達も何か感じた?」

肯く姉妹。

「……まぁ思い込みって部分もあるんだろうけど」とあまり余裕の無さそうなモリちゃんと、

「暑かったから逆に過ごしやすいかもですねー」と余裕なクノミ。

そこは生者と元死者という立場の違いもあるのだろう、多分、恐らく、いやモリちゃんがただの怖がりなだけかも。

「なんだいモリちゃん。こんないかにもな廃墟の遊園地に幽霊でも期待してるのかい?」

「誰が好き好んで見たがるのよ。素直に言っとくけど【そういうの】無理だから、私」

「妙に強がるより潔い子だ。でもクノミなんて『さわれる幽霊(人肌)』みたいなもんなのに」

「『会いに行けるアイドル』みたいなキャッチコピーやめなさい」

「うらめしやー! (迫真)」

「姉さんもノらなくていいから、テンション高い幽霊とか怖くないから」

「全く、何が怖いのかね。幽霊なんて所詮『人や生き物の絞りカス』だってのに」

「アンタ一回呪われた方がいいわよ」

「あいにく初期ステータスに呪い無効が付いてるんだ」


――とまぁ、幽霊さん達を牽制した所で移動再開。

ゲートから真っ直ぐ歩くと、巨大な案内看板が見えて。

所々滲んでいたり錆びていたりと見辛くあったが、何とか目的の場所を確認し、進む。

テクテクテクテク……結構広い園内なんで、歩きも楽じゃない。

で、当たり前だが、途中、様々なアトラクションの名残が目に入った。

観覧車。

ジェットコースター。

メリーゴーランド。

目を瞑れば、当時の賑わいを想像するのは難しくない。

ハシャぐ子供の声。

楽しげなBGMや絶叫マシーンの悲鳴。

チュロスやキャラメルポップコーンの甘い香り。

盛者必衰、悲しいなぁ。

……あともう一つ、気になる部分を上げるとするなら。

思ったほどアトラクションが『劣化してない』という事。

元関係者が定期的に善意で整備している?

だとしても、『一、二年しか経ってない』ような軽い廃れ具合というか。

まぁ、そういうのは島の気候にもよるのかな。


気にする程でもない、か。

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