12 【EP4】
【EP4】
うん?
なんか時間が戻された?
一応現状を誰かさんに説明しておくと、クノミちゃんがしゅわしゅわぶどうジュース呑んでぶっ倒れた辺りね。
で、僕はいま彼女から剥いだ袴着て廊下ウロウロしてます。
メタメタな話はここまでにして。
僕の行動理由はここの探検だ。
探検というからには【捜し物】があるわけで。
捜し物は何ですか? と訊かれれば……おっと、『この辺り』かな?
とある部屋の前で足を止めた。
【談話室】
いかにも、人が居そうな場所。
しかし扉の奥から人の気配は感じない。
--かねこりの館に来て、今現在も出会えぬ他の従業員やお客さん。
恐らく、そういう『結界』を張っているのだろう。
客はルールに沿って動く事しか出来ず、大人しく一人の女の子からお世話を受けるしかない。
いや、それでもいいんだけど……僕はそれでも、他の子に会いたい事情があったのだ。
さて、談話室。
ガチャリ……中を覗く。
電気はついているが、誰もおらず、静かなものだ。
ガチャン……一度閉めて。
「『お邪魔しまーす』」
ガチャリ……中に足を踏み入れる。
「ふー、お疲れ様ー」
「おつー」「お、お疲れ様です……」ピコピコ
「二人は何やっての?」
「スマブラー」「い、一緒にやりますか?」
「初代かぁ、いいねぇ。僕は鮮血のルイージ使いと恐れられてたんだよ」
「そりゃあ楽しみだ」「……??」
三人でコタツに入って3ストックアイテム無しルールで一戦終えた後。
「ってかお前誰だよ!?」「し、知らない人ですっ」
「へっ! 今頃気付いたかガキども! お兄ちゃんはクノミちゃんのお客さんだぜ!」
と、ここでネタバラシ。
僕が『言霊』を使って部屋に入ると、そこは人の気配溢れる談話室へと変貌していたのだ。
目の前に居るのは、恐らく双子であろう幼女二人。
栗毛と青い目を見る限り海外の子かな?
例に漏れず袴を着ている姿を見るとお人形さんのよう。
「客だと!? お兄ちゃんだと!?」「ど、どうみてもお姉様です……」
「まぁクノミちゃんの袴を着てるとそう見えちゃうよね。しかし実際、これのお陰で怪しまれる事なくここに侵入出来たってわけだ」
「これが男……証拠にちんちん見せろー!」「ドキドキ」
「なんだこのガキども!? ぬわー!」
幼女二人に押し倒された。
「おらぁ! 閻魔固めだ」「ぼ、菩薩拳っ、破心掌っ」
「このガキども! タフを読み込んでやがる!」
「こら! 手でちんちんガードするなっ。引き剥がすぞシフォン!」「くんくん……お、男の人は臭いって聞いたのに良い匂いだよマカロンちゃん」
そんな風に騒いでいたら、「なになに?」と他の女の子達も集まって来たようで、
「あらぁ? この子……」「知らん子がおるなぁ? 新入りぃ?」
現れたのは、僕やクノミちゃんより少し年上に見えるおっとりブロンドヘアーと京都なまり系ポニテのお姉様二人。
「あっ! 椿! アリス! 男が攻めて来たぞ!」「ま、マカロンちゃん、お客さんだよ……」
「あらあら、もしかしてクーちゃんが今担当してる例の?」「へー、ウチ、男見るのはガキの頃以来やけど、随分可愛くなったなぁ」
「よいしょっと(ヒョイ)僕は瓏って名前のナイスガイさ、よろしくね」
「にゃー! 肩車すなー! あ、でも楽しい!」「い、いいなぁマカロンちゃん……つ、次は私も……」
「うふふ、もうおチビちゃん達の心を掴んでるわねー」「やっぱ力ある子はええなぁ」
「よっしゃ! 人も増えたし親睦深める為にマリカーしようぜっ」
突如始まるゲーム大会。
僕含めて五人だから一人あぶれるけど、そこはローテーションで。
「だはは! おせーなロー! 張り合いがねーってそこから緑甲羅!?」「さ、最下位になっちゃったね……」
「ガハハヌルイぞガキどもめっ。これで僕が独そ--ぬわー! こんな所にバナナが! 誰だっ!」
「すっ、すいませんっ、私が仕掛けて……!」「よくやったシフォン! ガハハ! おりゃあ! ……しゃぁ! 一位!」
「ぐぬぬ……まんまとクソガキコンビにワンツーフィニッシュを決められたわい……」
「(ボソリ)うふふ、お優しいんですね、わざと負けてあげるだなんて」「小さ子の扱い慣れてるなぁ。妹さんおるん?」
「お兄が一人ねー。僕がやって貰ったことを二人にもしてるだけさー」
「こういう引っ張ってくれる子がクーちゃんにはピッタリかもねえ」「せやねぇ。クーは天然やし?」
良い感じにお姉様方とも打ち解けてきた、その時だ。
「--貴方達、何を騒いでいますの?」
スパっと。
場の空気ごと割くような存在感のある声。
僕は顔を上げる。
着物の美人。
闇のように漆黒の髪色と、血のように赤い瞳。
「ああ、【女将さん】。クーの担当客が迷い込んだみたいやで」「うふふ、シフォロン姉妹ともうこんなに仲良くなったようで」
「わははっ、ロー、次はマリオテニスするぞ!」「せ、折角だし、お兄さんとペアが組みたいです……」
「お客様が、迷い込んだ?」
ギロリ。
女将さんの僕を見る瞳は鋭い。
おいおい、クノミちゃんの話振りから僕はもっとおっとりした人を想像してたってのに、何とも刺がありそうな感じじゃないか。
具体的には、そこのおっとり金髪お姉さんであるアリスお姉様みたいな。
……いや、よく見たら。
女将さんは前に後ろにと【赤ちゃん】二人を抱えていた。
この人の子供、って雰囲気でもないし、多分、『未来の女中さん』だろう。
あれか、クーデレか。
「……(ニコリ)。それはそれは。このようなゴチャゴチャした場ですみません。『規則』とはいえ、挨拶の方もおざなりにしてしまって……改めて。わたくし、かねこりの館の女将、【せぽね】と申しますわ(ペコリ)」
「どうも。やー、すいませんね、無料で温泉なりご飯なり頂いちゃって」
「お気になさらず。して、今、クノミの方は……?」
「しゅわしゅわ飲んだら寝ちゃって。だから今のうちに、他の子達に挨拶に来たんす」
「それはそれは……マイペースな女中で申し訳ございません。しかし、よく辿り着けましたわね。クノミから説明はあったでしょうが、基本、他の女中とまみえる確率は皆無に等しいのに。たまに、ならあるんですがね」
「ならその『たまに』ってヤツじゃないっすか? 運が良かったってヤツっすよー(棒読み)」
「……では、そろそろこのような場より、お部屋の方に。クノミも待っている事でしょう」
「そっすね。あー、最後に、『目的』の挨拶を」
「挨拶?」
「明日、クノミちゃんが僕を追って『ここを出る』と思いますので、出来れば彼女のお別れ会の方、よろしくお願いしまっす」
--場が、シーンと静かになって。
「ふええ……クノミお姉様、居なくなっちゃうんですかぁ?」
先にぐずり出したのはシフォンちゃん。
「なにぃ! どーゆー事だロー!」
「すまんなマカロンシフォン。僕が魅力的過ぎる故にクノミちゃんを惚れさせてしまったんだ」
「くそぅ! クノミを止めろロー!」「ふぇぇ……いっそローさんがここにいてくださぁい」
愛されてるなぁクノミちゃん。
割と心が痛む。
「こらこら、お兄さんを困らせるもんやないでーシフォロン」「ふふ。二人も、クーちゃんの憧れシチュ聞いたことあるでしょー? 『白馬の王子様』に迎えに来て貰いたいって」
「僕は『竜の王子様』だけどもね」
「竜!? カッケー!」「く、クノミお姉様の好きなお話に出て来た主人公みたいです……」
よく分からないが納得してくれたらしい。
「(ボソリ)ごめんねぇ? クーちゃんの為に、悪者になってくれんだよね?」「で、実際どうなん? クー、本当にベタ惚れ?」
「攻略は今の所30パーってとこだけど……まぁ、すぐに爆上げ出来る確信があるよ」
ブラフでも虚勢でも堂々と相手にそう答えられなければ、持って生まれたこの『血』に失礼だ。
「いうやん自分。はぁ、まさか後輩に先越されるなんてなぁ。このままババアになるまで客担当出来なきゃどないしよー」「クーちゃんの事、お願いねー。泣かせたら承知しないぞっ」
泣かせないってのは無理だろうなあ。
しかしまぁ、兎に角、これで筋は通した。
……さっきから女将さんが一言も喋らないのが怖いけど。
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