vol.7

相馬君は完全に不機嫌モードに入ってしまった。入江君は休憩中に相馬君と相談したかったんだろうと思うけど、やめといたほうがいいよ、と伝えた。相馬君はほんとに優秀だと思う。二体の会場長を事前に頼まれて、しぶしぶ引き受けて、確実に二体を取れるよう、クラスをまとめ上げた。完璧だった。結局、この話し合いもそのおかげで二体になりそうなんだけど、それが逆に嫌だったのかな。

相手が春野さんとかだった気にしなかっただろうに、ハナちゃんだったから、なんか申し訳なくなっちゃったのかも。発言中そんな感じがした。相馬君の場合、こういう時はそっとしておいてあげるのがいいと、長年生徒会などで一緒にいて学んでるから、あえて声はかけないけど、しんどいんだろうな、と思う。

けど、同じしんどいところに、突然投げ込まれて渦中の人になっちゃった、ハナちゃんも心配。休憩になっても上の空って感じ。声かけてもいいかな、だめかな。

入江君にアイコンタクトを取って、ハナちゃんの方にちらりと目をやると、頼む、と言われた。笑っちゃうよね、以心伝心?

「ハナちゃん、大丈夫?」

「マイちゃん、ありがとう、大丈夫。」

「大変だよねー。相馬君もさっきから不機嫌。みて?あんな顔めったに見れないよ」

そういっておどけると、ふふっと笑ってくれた。

「みんな大変だ。」

「難しいね」

「うん」

会話に詰まってしまう。

「ハナちゃん、大丈夫?」

お手洗いから戻ってきたらしい、優木ちゃんも加わった。この二人は舞監会で初めて知り合ったんだっけ。

「みんなめっちゃ心配してくれる、ありがとう。緊張して喉乾いちゃった。」

そういってからのペットボトルを振った。

「外出れんもんねぇ」

優木ちゃんも力なく笑う。そうか、出れんのか。

「私買ってこようか?」

「いいの?」

「うん、私は舞台監督じゃないし。頑張ってるもん、おごってあげる!」

「え、いいの?男前~」

「うん!」

入江くーん、お茶買ってくるーと声をかけて、教室を出る。自販機まで三年生の教室の廊下をまっすぐ行く。どのクラスもテスト期間だし、終業からだいぶたってて、勉強する人が少しいるかいないかという感じだ。

「小阪さん!」

ふいに呼び止められた。声のする方を見ると、ハチくんだった。千秋ちゃんもいる。

「もうおわった?」

「ううん。まだ。何してるの?」

「心配だから残ってるの。テスト期間に1人頑張ってるし。どんな感じ?」

「それは言えないけど。。。」

「そっか、そうだよね。だいじょうぶかなあ。」

「大丈夫だよ、みんなで真剣にやってるから」

「そうだよね、ありがとう。」

「うん。」

やさしいなあ。早く買ってハナちゃんに教えてあげよ。


「はい!どーぞ」

「ありがとー」

そういって、ごくごくと飲み始めた。

「教室にハチくんと千秋ちゃん、残ってたよ、終わるまで待ってるって」

喜ぶかなーって思って伝えたんだけど、帰ってきたのは苦笑いだった。

「そっか、プレッシャーだなぁ」

そんなプレッシャーに思うことないよーと優木ちゃんがフォローしてる。平気な顔してるけどやっぱり、ハナちゃんメンタル、ちょっとやられてるのかも。

「そろそろじかんだね、マイちゃん、お茶ありがとう、これで残りも頑張れる」

「うん」

答えながら、ちょっと泣きそうになる。目の前でクラスを背負って議論するみんなに何もしてあげれない、そんなもどかしさだ。

「小阪―」

珍しく苗字で呼ぶ入江君に返事しながら、席に戻る。花ちゃんは優木ちゃんと何か話してる。舞台監督同士でしか話せないこともあるだろう。少しの無力感を感じながら、やれることをやろう、と気合を入れ直した。

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