vol.6

二体の二枠を三クラスで争う形になってから、三浦さんは、ずっとだまって何か考え込んでいる。不慣れな立場でやっと軌道にかろうじて乗ってきたタイミング。はじめてのピりつく会議。俺や、相馬でさえ緊張するような空間で、議論の中心人物となってしまったことを考えると、当然そうなるわな。かわいそうだ。

そんなことは多分みんなわかってる。わかってるからこそ、あの春野もさっきから沈黙しているんだと思う。けど、相馬も浦野も誠意をもって発言して、この場面で、沈黙するのは許されない。酷だとは思うが、話す義務はある。

「三浦さん?」

なるべく穏やかな声で問いかけたつもりだったが、耳に届いた自分の声は思ったより冷たい響きだ。向いてないんだよな、そういうの。軽く隣の掛川ににらまれる。三浦さん、何でもいい、無理なら無理でいい。なんか言ってくれなきゃ進まない。

「なんか、」

俺がしびれを切らして発した言葉にかぶせるように、しずかに切り出した。

「相馬君のいうことは、もっともだし、やっぱり代わってもらうわけにはいかないなって思って。浦野君もすごく真剣に考えてくれて決めれないっていうのもわかる」

静かな同意から始まった。

「だから、私なりにも考えてみて、B組も武道場でもやれる劇だなとは思ってて。だけど、クラスを納得させれるようないい理由がやっぱり見出せなくて。結局浦野君と同じことになっちゃうんだけど、そんな感じ、です。」

この人は、意外なところがある。真剣さがすごくよく伝わる。こういうの初めてだから、と甘えたりせずに、ちゃんと言葉を選ぶ。だから、あんなクレイジーなクラスだけど、任せようと思えるのかなあ。

けど、なんの解決にもなってない。再び沈黙を破ったのは相馬だ。こいつにはもう頭上がんねえな。

「掛川はさ、ある意味最初から第三者的ポジションだけど、そっから見て、どう思うわけ?」

「おれっ?んー、でもまあ、なんか、同じ感じだよ。どっちになってもできないことはないけど、決定打がないからこっちが譲るべき!みたいなことは言えないかな」

そうなんだよね。

「…本気で話し合いだけで決めなきゃダメなわけ?」

「最初にも行ったけど、最大利益を追求するから…」

苛立ちを含んだ相馬の声に、内心、やっぱそう思うよな、とつぶやきながらかろうじてそう答える。

「でももうそう変わんないよ?入江だってそう思うだろ?」

反論の余地がない。

「でも、毎年そうしてるって塩谷先生に言われたんでしょう?」

突然、春野が入ってくる。やっぱ、この人にはばれてるか。

「別に言われたからやってるわけじゃない」

精一杯の意地だ。

「それに、二人だけでクジ引かすの?それで納得させれる?」

「…」

今度は相馬が黙る。

「ちょっと休憩にしよう。とはいっても、外出るなよ、接触禁止だからな。トイレも職員側の使ってね」

相馬は不機嫌だ。ちらりとマイちゃんの方を見ると苦笑いして首を振った。いまはほっとけ、というようだ。浦野は日向のところで何か話していたが、日向が首を振っている。あの二人は同じクラスだから、何かしら相談を持ち掛けたのだろうが、舞台監督以外は口出ししてはいけないことになってるから、断ったのだろう。

いよいよ話し合いだけでは苦しいな。最悪、塩谷先生に怒鳴られる覚悟も必要なのかもしれない。

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