vol.5

重たい沈黙が流れる。

正直、劇をするという点で、私のクラスが武道場になったところで、そんな大きな影響はない。大道具なんかは舞台サイズに合わせて作ればいいだけのこと。むしろ、演出効果はお客さんが近い武道場の方が高いんじゃないかとさえ思う。相馬君のクラスは、全会一致だというし、私のところか浦野君のところが武道場になるのがベストなのはわかる。

でも、どうしても甘えがある。私はこういう立場初めてだし、やり手がいなかったから仕方なくやってる。浦野君は、こういうの慣れてるし、日向さんだっている。変わってほしいなんておこがましくてとても言えないけど、やっぱり、代わってほしいって思ってる。

だれも口を開けない。

「なんか、ないですか?このままだと一生決まらないんですが」

入江君も困ったようなイラついたような。なんか言いたいんだけど、何を言ったらいいのか全く分からない。

「正直、残り3クラスはどこになっても劇は成立するし、優劣つけがたいって思うよ」

口を開いたのは、やはり相馬君。

「だから、こんなこと言うのはなんだけど、うちのクラスは全会一致しちゃってるから、そうじゃないクラスがあるのになんで譲った?って言われたら、なんも言えないっていうか…。」

わかるよ。そんなの当然じゃん。なんでそんな顔で言うのかな、大丈夫だよ。

「そんなこといったら、全会一致させたもん勝ちかよって言われるのもわかるし、これだけを理由にできないから申し訳ないんだけど、…やっぱ他の二クラスのどっちかに譲ってほしいって思う…。ごめん。」

謝らなくていいのに。わかってる。浦野君も真剣な顔して何か考えてる。私に経験があるとかないとか、誰かに経験があるとかないとか、そんなことじゃない。みんな今必死でどうしたらいいか考えてる。私だけが、初めてなわけじゃない。一人だけ甘えてるわけにもいかない。

けど、いざ代わるって言おうとすると、さっきの世良とハチくんの言葉がよぎる。

『んなことは、かんけーねーだろ。自分とこの舞台監督信頼しろよ!』

『三浦さんは信頼してるよ!けど他の奴らがシンヨーできねーんだよ!』

 『特におまえな!』

二人は、私のことを信頼してるといってくれた。けど、それだったらこんなとこまで押しかけてくる?もし希望通りにならなくても、ちゃんとクラスがいい方向に行くように決定したって思ってくれることを信頼してるっていうんじゃないかな。私が、希望通りの結果じゃないことを伝えて、三浦さんが決めたならいいよって思ってくれる?相馬君たちを疑うんじゃないかな。それは、信頼してるとは言わないんだよ。

結局、私はまだまだみんなに信頼されていない。クラスが何とか回っているのは、たまたま私と世良やハチくんが“劇を成功させる”っていう同じ方向を見てたってだけで、そんな彼らがまとめてくれてるから。まだ私自身を信頼してくれている人はほんのわずか。

なんて無力。クラスを代表して、ここにきているはずなのに、クラスのための決断は何一つできない。

「まあ、相馬の言うことはわかるし、けどそれを理由に仮置きにもできないっていうのもわかる。浦野に三浦さん、なんかある?」

なんていったらいいのか、わからない。

「相馬の言ってることはもっともだと思う。けど、じゃあここで代わりますっていうには、B組の方が二体に向いてる、あるいは俺らの方が武道場に向いてるっていうはっきりした理由がないと、言い出せないっていうところかなあ。」

そう。そうなんだよね。私が何も言えないままじゃ、どうすることもできない。けどそんなどっちがいいかなんて理由、持ってないし、思いつかない。

「三浦さん?」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る