vol.4
「ありがと、そうしようか。三浦さん、お願い」
「他の会場も含めてコメントしたらいいですか?」
「ああ、うん、そう。よろしく。」
ぶっちゃけ、このクラスは動かしたくない。
鬼龍院に市川にそもそもおれの生徒会時代の最大の因縁の二人がいるのに加え、会長副会長もぶっとんでるし、演出もよく知らん人。
かろうじて三浦さんが押さえてるけど、これもかろうじて感が強い。さっきも、会長副会長が乗り込んできてたし。ここで下手したら、舞台監督の信用というよりも、舞監会の信用が危うい気がする。
けど、それを理由にすることはまかりならない。
「クラスの意見としては、第二体育館が第一希望で、次が武道場です。第一体育館は脚本にあわないという事でアンケートも0人でした。一方で、武道場は舞台が狭いので三台のベッドを置いてどうなるか心配と言う声もあり、客席との距離もそこそこ近くて広い第二体育館が多いです。武道場は数人でした。」
とりあえず、これくらいしか言えないです。と申し訳なさそうに言った。
いい、いい、もうあんま余計なことは言うなよ、と心で念じて次に回す。
「えー、D組は、クラスの意見として全会一致で第二体育館でまとまってます。理由としてはほぼおなじになっちゃうんですが、笑いあり涙ありみたいな劇なので第一体育館は広すぎるけど、舞台のひろさもそこそこほしいからです。けどまあ、武道場にしてもできなくはないっていうのが、俺個人の意見ですが、個人的な意見なのでなんともいえません。」
相馬がいつもより歯切れがよくないのは、クラスのためだけでもない。
実は、会場割りがきまったら、各会場に会場長を置いて、舞台の組み立て、撤収を取り仕切ってもらう仕組みだ。第二体育館はいろいろと設置が面倒なこともあって、信頼できるやつに頼みたいと思ってた。そこで、俺が水面下で相馬にこっそり頼んだんだ。
俺の頼みに答えて、相馬はクラスを全会一致で第二体育館にする強硬手段を取ったわけだけど、ここにきて、やはりもどかしい思いがでてきてるに違いなかった。
「E組は、多数決で第二体育館になりました、第一体育館も武道場も、少数派ですが、いて、若干武道場がおおいです。劇としては第一体育館は向いてないと思いますが、第二体育館と武道場は実際のところどっちもどっちかなと思ってます。会場決めにあたって、演出とかも少し話しましたが、客席のほうでの演出の案などが盛り上がっていて、体育館でやりたい人が多いです。なのでクラスの意見的には、すんなりと変わるとは言いにくいです。」
浦野は、本当にいいやつだし警官もあるから、ちゃんとした理由さえあればうまくクラスをもってってくれると思う。けど、中途半端な理由で変えさせちゃうと、優しいから丸め込まれたのではという、舞監会への不信感にも繋がるし、慎重にならざるを得ない。
舞監会に不信感をもたれると、舞台監督の言うことも舞監会の言うこともきいてくれない最悪のパターンも想定しないといけない。それは避けたい。
「とりあえずなんだけど、第二体育館組は武道場でも可能なところが多くて、第一体育館組は武道場はNGなところしかないから、第二体育館組から武道場に移ってもらうしかないんじゃない?」
「けど、G組はどうするの?第二体育館にするの?第二体育館が第一希望のところに変わってもらってまで?」
「じゃあ、優木ちゃんのとこが武道場になって劇は成立するの?あゆみのとこだってそれとおなじじゃない?」
「それは...」
春野の言うことは正しい。第二体育館を第一希望としてたやつらからしてみればたまったものじゃないし、それこそ、春野の発言は血も涙もない。けど、目指すところが全体の利益ならば、割りきらないといけないというものなんだろう。
「まあ、とりあえず、春野の言うとおり、第一体育館はA・C・Fで仮置きで、進めてみよう。もちろん、話し合うなかで違うなとなったら変える可能性もある。ひとまずのことね」
第一体育館…A・C・F
第二体育館…B・D・E・G
武道場…H(日曜午前)
「まあ、一通り聞いたわけだけど、なんかある?」
「あの…」
「はい、あゆみさん、なに?」
「武道場はやっぱり無理なので、できればG組も第二体育館で仮置きしたいです」
「それはちょっとずるくね?なんていうか1体もまだ仮だし」
真っ先に反応したのは、掛川だが、
「それでいいよ」
相馬がいいと請け負った。
「A・C・F・Gはどっちにしろ、武道場はだめってなってんだろ?だったらどのみち二体は二枠なわけだし、その方が話がわかりやすい。このまま考えて、一体と二体でまだ納得いかないんなら後からきめりゃいいよ」
こういう場合、掛川のように、違和感を感じたらはっきりしなくても声を上げないと、話が進んでしまって取り返しがつかない。だから、その反射神経は賞讃ものだけど、相馬の理解力の速さはそれも越えている。
三浦さんも浦野も同意のようだ。
「じゃあ、それで。マイちゃんよろしく」
アユミさんのやり方はあんまり好きじゃないけど、それも実力のうちってことかな。私情は持ち込まない。
しかし、ここまできてやはり沈黙してしまった。
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