vol.3
会場決めを話し合いで決めるというのは、例年そうらしい。塩谷先生にかなり念押しされた。まあ、わかるけども。でも、脚本の会場への適性なんて、大差ない場合はいいんじゃないですか、と食い下がってみたら、「入江、舞監会の目的はわかってるだろうな」と恐喝まがいな感じで丸め込まれた。
傍からは血も涙もないやつと思われてそうだけど、俺だって、やっと脚本が決まってクラスを軌道に乗せつつある舞台監督が、ここで期待通りの会場を取りたい気持ちも、取れなかったときのダメージも、わかる。しかもそれが、くじ運とかじゃなくて、話し合いで丸め込まれたとなったら、舞台監督自身の信頼問題だけではなく、舞監会への信頼まで崩れかねない。塩谷先生はそれを何とかしろと言っているのだ。同時に歴代の舞監会はそれを乗り越えてきたんだ。ほんと、いかれてるよなあ、この学校。
一通り、クラスの希望を見る。思ったよりバランスはいいが、結局一クラスでも希望通りにいかないんだったら、どんだけ偏ってたとしても同じだと思う。いや、むしろ傷は深いか。考えても仕方がない。普段は頼りになる舞台監督たちも、今日ばかりは当事者で迂闊な発言はできない。総監督が進めるしかない。
「それじゃあ、とりあえず、いまオーバーしてる第一体育館組は、三会場すべてについてコメント貰えるかな。」
事前の予想でA・C・F組を想定していたから、G組は多少不利だと思う。けど、A組もG組も大道具を理由に出してるから、現時点では、わからない。ただ、おそらく、G組の劇にはそこまでおおきな道具がなくても問題がないような気がしている。
教室の隅で黙って聞いている日向は演劇部だし、わかっているはず。これをどう指摘するかな。それともアユミさんが先手を打つか。彼女は生徒会経験も豊富だし、そういうところは良くも悪くも容量がいい。
「A組は、タイトルにもあるように、ロケットが象徴的な劇なので、やっぱりそれを作りたいというのがクラスの意見です。できればそのロケットに人が入れるサイズにしたいんですけど、第二体育館や、武道場だと、搬入の制限とかがあるので、規模を縮小しないといけないかな、と思ってます。」
大道具の具体的なところまで話を詰めてきてる。たしか演出もしっかりしてた子だったし、堅実な感じだ。ここまでいわれて、譲らせるのは難しいだろうなぁ。
「C組は時代ものなので、殺陣を客席の方までつかって大きく見せたいっていう話があがってます。第一体育館なら可能だと思ってます。第二体育館や武道場ではできないと思うので、その場合は演出を変えるかなと思います。」
C組は自分のクラスではあるけど、今回は俺は一切口を出さんっていってある。どのクラスも舞台監督一人が責任を背負ってるんだから、うちだけ特別とはいかない。
クラスで、アンケートを取ろうとしたとき、俺らのクラスは入江がいるから安泰だーとほざいていたやつがいたから、そんな自分のクラスをひいきしたりはしない、全権は木村にある、と一喝してきたけど、クラスのやつらはそんくらいにしか思ってないのかもしれない。
けど、木村にとってはそうじゃない。今までなんだかんだ会長をやらせてはきたけど、何かあれば俺が裏で動いたし、それを知っててあえて知らんぷりすることであいつはうまくまとめてきた。言うなれば二人でひとつだったんだ。でも今回は俺は全く動けない。あいつの感じてる不安やプレッシャーは察するに安い。
「まあ、じゃあ、AもCもできないわけでもないのね」
俺の一言にびくり、と木村が視線を向ける。ごめん。けど、ひいきはできないんだ。
「とりあえず、つづけようか」
「はい。F組も殺陣の場面があるんですが、客席を使う予定は今のとこありません。けど、第一体育館の横に長い舞台を生かして、殺陣の人数やダイナミクスをふやし迫力のある劇にしたいと思ってます。第二体育館、武道場へのコメントはとくにないです。」
...。でたよ。元生徒会長。超苦手。
しかも、うまいよね。舞監会の目的は各クラスの劇が全体として最大の成功をすることだから、できるできないとかじゃなくて、この場所が最大だって言ってくるあたり、格が違う。
まあ、そういう人の足下をみてるような性格は気にくわないけど。
「コメントなしってことは、別にそこになっても文句はないってことでいいの?」
掛川が我慢ならんというようにくってかかる。まあ、わかるが、それはむだだと思う。
「できないことはないし、どうしてもってならしかたないけど、うちの劇が一番効果的なのは第一体育館だし、うちのクラスなら第一体育館のよさを最大限使うことができると思うってこと。それでも、違うとこでやれっていうなら、それなりの理由がないと、うちだってクラスの意見を背負ってるんだから。」
ぐうの音も出ない。
「はいはい、わかった。ありがとう。じゃあ、G組」
「はい。...第一希望としては、第一体育館なんですが、クラスのアンケートでは第二体育館にも多くの票が入ってます。」
おっと。先手を打ってきたか。ちらり、と日向を見ると目があった。同じ事を考えてるかな。
「大道具として時計台を作りたいと思っていて、それなりの高さもあるので、広い会場の方が希望です。ですが、第二体育館でも入るサイズにはできると言う意見もあったので、順位として、第一体育館、第二体育館です。武道場は天井が低いので、入るかわからないため、希望しません。」
なるほどねえ。第二体育館なら手を打とうという話だ。けど、第二体育館はいま3クラス。簡単に第二体育館を約束できる状況じゃないな。
「まあ、とりあえず、第二体育館に移ってもいいクラスがあるなら、第二体育館組の話しもきくべきじゃね?」
一人、仮置きになってる掛川がみかねて声をかけてきた。俺が黙っちゃだめだよね。
「ありがと、そうしようか。三浦さん、お願い」
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