vol.2
そして翌週。
「三浦さん、頑張ってね!」
そういってさりげないプレッシャーをかけて帰っていったのは、五木君。
ちなみに今日からテスト週間のため、クラスの活動はない。なのに、舞監会だ。全く舞台監督をなんだと思ってるんだ。
「テスト週間に、各クラスの舞台監督8人だけ、会場決めで教室に軟禁。決まるまで終われない上に、外部との接触禁止ケータイも禁止って、まじ俺ら人権ねーな!」
こちらはH組の掛川くん。見た目のチャラさに反して、三年間ずっと会長をやってる物好k…じゃなかった、大物。
「俺らもなんだが」
そうね、入江君や麻衣ちゃん、日向さんもテスト期間にこうして残ってる。
「わりいわりい、そーかんとく様もお疲れ様ですー」
入江君相手にこんなくだけた感じで仲良くしてる人も珍しい。もっとも彼は誰に対してもそうなんだけど。
「いくら人払いしたいからってテスト期間はねーよ」
おれだって勉強したい、とこちらはD組の相馬君。口調は掛川君同様くだけてるけど、仲いいって感じは、あんまないかなあ。。。彼は頭もいいからそんな勉強しなくても大丈夫そうだけど。
「で、あいつらは何なの?」
「まだ始まってねーんだからいいだろ!」
あちゃー、まあ、当然バレバレなんですけどね。。。世良とハチくんです。祥子ちゃんにも散々止められたのに、心配って言ってついてきちゃったんだよねー。
「舞台監督のやつらなんて、みんな会長とか生徒会でブイブイ言わせてきたやつらばっかだから、ほんとに大丈夫かこの目で確かめたかっただけー」
世良だけならまだしも、ハチくんもこれだから…
「んなことは、かんけーねーだろ。自分とこの舞台監督信頼しろよ!」
「三浦さんは信頼してるよ!けど他の奴らがシンヨーできねーんだよ!」
「特におまえな!」
あーあー。相馬君とハチくんと世良と、元2Dトリオでけんか腰だよ。
「だーもう!でてけ!」
これには入江君、おこでした。うちのクラスのバカ二人はなにやら叫びながら連れ出され教室のドアは閉められました。気づいたら、もうみんな揃っていたみたい。舞台監督だけになると、やっぱり空気は少し重たい。すんなり決まるといいんだけど。
「じゃあ、そろそろはじめますか!」
重たい空気を振り払うかのようにわざとらしく明るい声で入江君が切り出す。それでも、空気は軽くはならない。あきらめたように少し苦笑いを浮かべて続ける。
「じゃあまず、各クラス時間優先か場所優先かと、その希望の場所か日時を教えてください。理由もできればお願いします。A組から。」
「はい、A組は場所優先で第一体育館希望です。理由は演出で大きなロケットを作りたいからです。」
A組の優木さんは、脚本決めのときに苦労して、泣いてしまったところを入江君に慰められてたって聞いたけど、この子も会長経験のある子。基本的にはしっかりしてて、クラス運営も安定感がある。泣いてしまったのは、舞台監督の手腕云々より、やっぱそれだけ脚本決めってしんどいんだと思う。うちのクラスも、五木君や祥子ちゃんに助けられてなかったらほんとに危なかった。
「はい。じゃ、次、B組」
おっと、私の番じゃん。
「はい。えっと、B組は場所優先で、第二体育館希望です。脚本的に第一体育館向きじゃないのと、演出でバルコニーを使いたいからです。」
理由については、祥子ちゃんとハチくんとそれらしいのを考えた。実際に使うかはまだわからんけどね。そんなもんだって、言われた。
「C組は場所優先、第一体育館希望です。殺陣の演出で客席間を使いたいです。」
C組は入江君のいるクラス。舞台監督さんは木村君。彼も三年間会長をやってる変人だけど、ちょっと特殊。というのも、三年間入江君と同じクラスなんだって。つまり、会長は木村君だけど、裏の会長は入江君、みたいなことらしい。ある意味すごいなと思う。
「D組は、場所優先、第二体育館希望。理由は特にないけど、しいて言うなら、舞台に奥行きがあって、この脚本の演出がやりやすいからです。」
相馬君は、さすがの安定感。いっつもめんどくさそうにしているくせに、やることはちゃんとやってるって感じ。やりなれてるんだよね。
「E組は場所優先で、第二体育館希望です。以前に同じ脚本を第二体育館でやっているDVDをみて、第二体育館向きかなと思ってます。」
E組は浦野君。彼は去年こそ、2Dで相馬君がいたから会長はしてないけど、一年のときは会長してるし、剣道部の部長もやってる。まじめで優しい感じで、相馬君とは逆のタイプかな。
「F組は、場所優先、第一体育館希望です。殺陣があるので横長の舞台が映えると思います。」
F組の春野さんは生徒会長経験者。二年の後期で生徒会長だったから、多分相当な学校の実力者。噂じゃ、去年の生徒会長と付き合ってるって話。なにはともあれ、とても経験のあるお方。
「G組は、場所優先、第一体育館希望です。演出で大きい大道具が必要なので、第一体育館がいいです。」
アユミも、春野さんほどではないけど、生徒会の役員や委員を何度もやってるから、こういう会議、みたいなのには慣れてる感じだ。すごいなあ。
「H組は、時間優先で、日曜午前がいいです。」
掛川君…ここで、急に時間優先だって。
「キャストに、土曜が大会のやつがいて。まあ、それもわかっててキャストやらせたんだけど、だから、日曜じゃなきゃダメなんで。聞いた感じ、武道場きぼうがどこもないんで、武道場の日曜午前かなって思うんですけど。脚本もコメディだから向いてると思うし」
「まーこれで一通り聞いたわけだけど、聞いた感じ、確かに武道場は誰もいなかったし、H組は武道場日曜午前に仮置きでいいかな。マイちゃん、板書よろしく」
「あざっす」
とここまでで
第一体育館…A・C・F・G
第二体育館…B・D・E
武道場…H(日曜午前)
各会場、最大3クラスだから、割とばらけてるっちゃばらけてるか。でもこれ、逆に言うと一クラスだけ希望に沿わないってことだよね。。。うわあ、やだなあ。自分のとこがそうなるのも嫌だけど、みんな同じ立場を味わってる者同士、誰か一人だけが犠牲になるのも同じくらい嫌な気分。
みんなも同じこと考えてるみたいで、重たい沈黙が流れる。
「知っての通り、劇の会場は土曜の午前午後日曜の午前の3公演分しか使えないから、今のままだと、第一体育館がオーバーしてる。けど、ここでクジとかじゃんけんで決めちゃうと、成立しない劇とか出てきちゃうかもしれない。もとより、舞監会は全クラスの劇が最大限いいものになるようにするのが目的だから、そんなことしたくない。もっと言えば、」
ここで一旦言葉を切った。花はこの間に、入江君のなにか大きな覚悟を感じた気がした。
「クラスの希望とは違っても、脚本と会場の相性がよりよくなる組み合わせを考える方が、最終的に三年生の文化祭の劇の満足度は上がるんじゃないかと思う。」
ひやり、とする。
「よって、クジやじゃんけんでの決定はなし。話し合いでの決定にしようと思う。」
ゴクリ。自分が唾をのんだ音が聞こえた。アユミから噂には聞いていたけどね。さすがの相馬君も真剣な顔のまま、腕を組んで考え込んでる。
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