[ちょこっと番外編] サミット~頂上決戦~

vol.1

脚本が決まり、それぞれのクラスで動きはじめて少し経った頃、それは行われることとなった。

―――会場決め

劇は文化祭二日間、三か所に分けて行われる。

 一番広い第一体育館、少し狭くて熱気がこもるが客席との距離が近い武道場、その真ん中の第二体育館。それぞれの会場で1日目の午前午後、二日目の午前が劇で使える時間だ。

さて、と総監督の入江はつぶやく。今年の脚本を見ると、それぞれの会場に向いているクラスが何となくわかる。けれど、必ずしもそのクラスがそのクラスに向いている会場を希望するとは限らない。というか、まずありえない。だいたいうちの生徒は1・2年の間に、いくつかの劇をみて、第一体育館でやりたいと思う。ド素人の意見だと、俺は思うけどな。

第一体育館は椅子席だ。しかも屋根が高く熱がこもらない。残暑の厳しい九月、これらの快適さは重要であることは確かだ。しかし、劇に関しては、舞台も天井が高く大掛かりな大道具の使用が可能だが、舞台自体も高く、客席と距離があるために、劇ならではの感情の共有が難しいし、横長の舞台は演出に苦労する。しかも、マイクなしでバレーコート二面分の広い第一体育館の後方まで声が通るかも問題だ。

反対に武道場は人気がないが、感動系やコメディは圧倒的にこういう小さい会場の方が、効果が高い。

けどまあ、ほとんどのやつは、観客に快適なところで自分らの劇を見てもらいたいし、見に来る側も、迷ったら第一体育館に来るだろうから、そこに希望が集中する。

しかしねえ。。。その劇の演出効果だけを考えたら、これがベストなんだよなあ。

第一体育館…A・C・F

第二体育館…D・G

武道場…B・E・H

けど決めるのはあくまでクラスの希望を集約した舞台監督同士の話し合いだ。希望が被れば、当然希望通りにならないクラスも出てくる。それで、責任を背負うのは、舞台監督ただ一人。今後もクラスを取り仕切っていかなきゃならない彼らには、今後を左右する大仕事なわけだ。

この前の舞監会では、各会場のメリット・デメリットをくどいくらい説明して、ちゃんとクラスにも説明するよう舞台監督陣には伝えたが、やはり心配が尽きない。平和に終わってくれよ。。。


「えっと!聞いてくれる?」

今日もさわがしいなあ。と花はうんざりする。会長を筆頭に相変わらず劇に関しては積極的に味方についてくれる人が多かったけど、最近は慣れもあってか、基本的にうるさい。まあ、献身的すぎても気味悪いし、これくらいでいいんだけどさ。

「来週の舞監会で、会場決めをすることになったので、クラスの意見をまとめたいと思うんですが、会場と日程について説明させてください!」

話題が興味をそそったのか、騒がしさが少し収まり、花へと視線が集まる。

会場の特徴や、日程に重要さなど、入江君に仕込まれた情報を流す。

「なこと言ったって俺は絶対第一体育館がいい!」

「いやでも、感動系の劇だし、第二体育館とか、武道場の方がいいんじゃね?」

「武道場はあついからいやだー」

説明したところで、って感じではあるけど、まあ、説明する前の第一体育館一択!みたいな感じはちょっと緩和されたかも。

会場決めは最終的には舞台監督に一任されるわけなんだけど、クラスの希望通りにならないと、クラスメイトが落胆するのは目に見えてる。身の丈に合った会場にクラスの意見をまとめておくのも舞台監督の手腕のうち、と入江君には言われている。まあただ、うちのクラスは…

「武道場は絶対いや!あそこでおれ幽霊見たもん!」

世良…。

これがいる限りは武道場は無理なんですわ。クラス最大の権力者が、理屈じゃないところで主張してくるので、こればっかは私の手腕云々じゃないでしょ。まあ、こいつがこう言ってるのをいいことに、暑い武道場が嫌な連中が全く意見を動かさないのも確かなんだけど。ただ、劇の種類的に第一体育館は向いてないのは明らかなので、最初から私は第二体育館狙いなんだけどね。

ということで、第二体育館の客席が遠すぎないこと、舞台の広さや座席の自由度の高さをアピールして、なんとか多数決で第二体育館を第一希望にすることができた。まあ、これならそこそこの倍率に収まるかなと思うんだけど。

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