やるじゃん
翌朝、キャストだけを集めて、演出の口から結果を発表することになり、中庭にキャストが集合していた。役が被っていた面々は緊張の面持ちだ。
結果をしっているハナは居心地悪く、とてもそんな場所にいられないので、校舎内にすっとはいる。
するとサロンスペースの椅子にうつむいてる影をみつけた。
「大丈夫?」
「あ、三浦さん...、だめ、吐きそう、、、」
「五木くんが緊張してどうするの。大丈夫、わたしが何とかするから」
「はあ...なんとかなるかなぁ」
予想以上にネガティブだったぁ。
そして、助演出陣も続々と集まってきた。
「そと、みてくるね!」
発表されるがわも、するがわも緊張が最高潮だ。よし、キャストももう集まってる。
「じゃあ、発表、しにいこうか。」
死にそうな五木くんがなんとか、腰をあげる。がんばれ。
「それじゃ、発表するね」
しん、とする。
「ほしみ役、リカさん。」
おおお、っとどよめき、拍手がおきる。
しかし、五木くんは表情なく続ける。
「鉄平役、テツロー」
ふたたび、拍手。正直な世良は、くそーがんばれよーとか、なんとか言ってる。
「あやめ役、レイナさん。」
ちらりと、みると、千秋ちゃんは表情なく拍手している。すでにこれか。
その後も配役の発表はつづく、
「菊川役、鬼龍院。」
「銀平役、世良。」
「ナミコ役、玉木さん。」
「タケコお婆ちゃん役、ハチ。」
さすがのハチくんも、ちょっと、いや、かなり驚いている。ヨウタ役もオーディション受けてたのに、まさかのオーディション受けてない役だったからね。
でも、まだつづく。
「ヨウタ役、千秋さん。」
五木くんは全く千秋ちゃんをみることができてない。けど、たぶん彼の予想どおり、千秋ちゃんは、あのときと同じ、目に涙をためて、拍手していた。
オーディションで、千秋が披露した、家族が事故で死ぬシーン。悲しみで震える声。練習どおり、心を込めて。役に入りきって。思わず、涙がこぼれ落ちる。
迫真の演技だった。
だが、ハナをはじめ、五木や助演出たちが感じたのは、ドラマみたい、という感想だった。
もしこれが、カメラでズームして、マイクで音を拾うテレビドラマや映画だったら、すごくよい。けど、劇は舞台だ。遠くまで通る声、わかりやすく大きい動き。求められているものが、違ったのだ。
もちろん、それらはこれから練習すればできることだ。だけど、既にそれを理解して表現していたリカには勝ることはなかった。
けれど、ヨウタも消して出番はすくなくない。家族の一員だ。
「薄田刑事役、翔。」
その後も淡々と五木くんは役を発表していく。
「患者の小林役、セナさん。」
「患者の松川役、鳴宮さん。以上です。」
ふぅっと、息を吐き五木君はまっすぐ前を向く。
「希望どおりならなかった人もたくさんいると思います。けど、俺らなりに真剣に考えて、これがベストだと思ってます。もし、納得行かなければ、選考メンバーに聞いてください。ちゃんと説明するつもりです。これから、がんばって作っていきましょう。」
その言葉に、ハナは大きく拍手した。
そして、その拍手は周りに広がった。千秋も拍手をしていた。これなら大丈夫。
頼りない五木くんだったけど、みんなの前ではしっかりしてた。
やるじゃん、演出さん。
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