少年とお婆ちゃん

残った二役は、ヨウタという、主人公家族の末の弟と、お婆ちゃん。そして、残ったふたりは、ヒロインのほしみ役に立候補していた千秋ちゃんと、ヒーローの鉄平役に立候補していたはちくんだった。

「ふたりとも、大役に立候補していただけに、どういう反応をするか。。。」

と、あっくんが心配そうにいう。

「でもねー、はちくんが弟役はまだしも、千秋ちゃん、お婆ちゃん役は受け入れてもらえるかしら」

と、石田ちゃん。

エレンちゃんも、なんとなく、腑に落ちない感じ。ここまではポジティブな理由で、この人のこういうところが合っている!みたいなのがあっだけに、なかなかむずかしい。

「いや、」

と、五木くんがたっぷりまを置いて言った。

「できれば、逆がいい。千秋さんは、ヨウタで、ハチはお婆ちゃんだと思う。」

みんな、はっとした。

「小学生くらいなら、声変わりしてないし、あえて千秋さんみたいな小柄な女子がやった方がそれらしくなる。お婆ちゃんも、歳を取れば声は低くなるし、ハチはそんな身長もでかくないだろ?ちょっと腰を屈めれば、ちょうどいいと思うんだわ」

「それ、めっちゃいいと思う!」

エレンちゃんが早速乗り気だ。

「すごい、納得いった、今。」

「それがベストな気がしてきたー」

ハナも、それがいちばんしっくり来ると思った。何より、演出陣の顔色が一気に変わった。


「けど、ふたりが何て言うか。。。」

五木くんが、ぽつり、と呟いた。

「それは、仕方ないよ、全員が全員やりたい役やれる訳じゃないもん。」とエレンちゃん。それに対してあっくんは、

「でも、オーディション受けてもいない役だぜ?」

「でも、それを言い出したらまた1から考え直しだよ」と石田ちゃん。

こういうとき、女の子の方が、バッサリと決断する。

しばしの沈黙が流れる。

その間にハナは腹をくくった。

なんのために、わたしがここにいる?

演出陣がこうして、劇の構想を描いてくれた。それを実現できるように助けるのが、舞台監督の仕事だ。

「ベストだと思うキャスティングでやればいいと思う。」

4人がこちらをみる。

「ちゃんと、伝わると思う。しっかり説明しよ。」

綺麗事だとは思うけど、でも、高校生の文化祭だ。これくらい、綺麗にできる、と信じたい。

「...まあ、ハチは、落ち込みこそすれ、理解してくれると思うけど、」

あっくんが言うなら大丈夫だ。

だが、続きがあった。

「千秋さんは去年から劇の主役狙ってたから、ちょっと心配だな」

「だよなー...俺、言えねーよ。。。」

五木くんがネガティブモードだ。

まあ、オーディション結果の責任は、主催者の演出が背負うからね。。。

エレンちゃんも、石田ちゃんも黙ってしまった。

「もしものことがあれば、わたしがちゃんとフォローします。どっちにしても、千秋ちゃんがショックを受けるのは確実だから、せめて、私たちがベストだと思うのにしよ!」


「...そーだな。。。頼りにさせてもらいます。」

こうして、全てのキャスティングが決まった。

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