プライド
それから何日かたって、教室の後ろにキャストの役の希望表が張り出された。公平を期すために、被ってない役もオーディション形式で演技を披露ことになっている。
音からはまだ返事はない。けど、とりあえず、オーディション終わって残った役をみてからでもいいかなと思う。そうすればオーディション受けなくても済むし。
ヒロインは女の子なんだけど、三人希望してる。
張り出された当日に一番に千秋ちゃんがなまえをかいてたけど、
レイナちゃんは言わずもがな、今までも運営に結構尽力してくれているし、梨花ちゃんも普段はおとなしい分、結構覚悟があるんだと思う。
すごそうだなぁ。それから、男子の一番いい役にもすごいメンツが揃ってる。
まあ、予想はついてたけど、会長の世良、副会長のハチくん、五木くんと一緒にいつも脚本会議に来てくれてた哲朗くん。
クラス劇のキャストって、単に演技力とかだけじゃなくて、どうしてもクラスの中心的ないわゆる華のある人がやりがちだけど、やっぱりうちのクラスもそうなるのかなぁ。まあいいんだけどねぇ。
そんなことを思いながら希望表を見ているときだった。
「ねぇ、ハナ。わたし、キャストやる。」
突然、音がそんなことをいって隣に立つと、鉛筆できれいな字でまだ誰も書いていない役のところに、鳴宮音、と自分の名前を書いた。
驚いて振り向くと、ちょうどチャイムが鳴って、音はにこっとほほえんで行ってしまった。
あわててわたしもロッカーから教科書を引っ張り出して席へと向かう。
今名前を書いたってことは、オーディションうけてキャストをやるってことだよね。
普段の音なら、恥ずかしがってためらうところなのに。
嬉しくもあり、普段と違う感じに少し不安も感じた。気安く誘ったりして、なんか気分を損ねたのかもしれない。
けど、そんなことは考えてもしかたないのだ、と思い直す。何はともあれ、最終的には音が決めたことだ。応援すればいい。というか、応援するしかできない。
わたしもがんばる。
そして、いよいよオーディションの当日がやってきた。その日の最後の授業は英語だったが、クラスはそのあとの一大イベントのことで頭一杯で、誰も聞いていなかった。
「〜〜〜〜.repeat after me ?」
という先生の呼び掛けに、
「....」
誰も返事をしない、という有り様だった。
もっとも、本当に全員オーディションで頭が一杯なわけでもないんだけど、こういうときにちゃんと声を出してる連中がキャスト志望だから、ね。その人たちが黙ってれば、他の人たちも言わない、みたいな感じよ。そしたら、先生怒っちゃって。残り15分かそこら、お説教みたいな感じ。
それから、やっと終わって、掃除して机を並べかえて会場設営。オーディションはクラス内で公開となっていたから、部活とか塾とかの予定のないほとんどの人が残っていた。
五木くんは少し緊張した面持ちだ。
オーディションの内容と審査は完全に任せてしまったから、今日はわたしは見守るだけだ。そういえば、こうやって傍観するのは、舞台監督になってからはじめてだ。はじめはどうなることかと思ったけど、まあなんとかこんなわたしでも、やりくりしてきたんだなあ、と少しだけ自信が持てるようになってきた。
五木くんも、今日は緊張するだろうし、大変だと思うけど、演出はいつか舞台監督とは別で動き始めないと回っていかない。ここがその始まりだ。だから、なるべく任せて、自信にする。裏方に徹して、絶対失敗しないようにフォローする。これが今回のわたしの仕事。
それもこれも、今までハチくんや世良、入江くんにやってもらってたことだしね。わたしも頼りにしてもらえるようにがんばるよ。
さて、いよいよ始まりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます