たりないひとり

さて。足りないキャスト問題。これは、よく言えば、適材適所、悪く言えば人の弱みに付け込むことになるから、慎重にいかなくてはいけないのだけど、心当たりが一人いる。


鳴宮音。私が舞台監督をすることになって、照明、一緒にできなくなっちゃったし、確かに、劇に全力を注ぐタイプではないけど、今回必要なのはちょい役。部活ではコンサートマスターをやってたり、目立つのは嫌いじゃない。それに、ニナもキャストだ。

後ろめたさもなくはないんだけど、でも、こうなってしまった以上は、音にとっても選択肢としては、ありだし、提案するだけなら、いいよね。嫌なら、断ってもらえばいい…。



「私がキャスト?」

「うん、ちょい役みたいな感じになっちゃうんだけど、逆にそれなら練習の負担も少しは減ると思うし。けど、嫌だったら全然、断ってくれていいんだ。勉強もあるだろうし、その辺は音が自由に決めて」

「そうねえ。。。ちょっと考えさせて」

「うん、もちろん。」


ずるいよなあ。ってちょっと思っちゃう。

オトからするとハナは、明るくて友達も多い。勉強も部活もうまいことやってる。そんな花がいつも仲良くしてくれることが、嬉しかった。けど、時々卑屈になってしまう自分もいた。私も、もっと明るくて、だれとでも仲良くやれるような性格だったらよかったのに。

劇の件もそう。

花は音響やるって言ってたのに、舞台監督をしてる。それで私も含めクラスは助かったし、なんも文句は言えない。けど、約束したのにってちょっと思ってしまう。生き生きとクラスで仕事してるところ見て、素直に応援してあげたいのに、時々いいなあ、私も花みたいな性格だったらって思ってしまう。

本当は、みんなと仲良くしたいのに、不器用でできない。キャストに興味がないわけじゃないのに、性格が邪魔する。多分音がこういう性格なのを、ハナはわかっている。そのう

えで今回悪気はないんだろうけど、ちょうどキャストが足りないから、声をかけてきた。自分を変えるチャンスだと素直に思うし、挑戦したいとも思う。だけど、わがままだけどほんとは、こうなる前に背中を押してほしかった。足りないからじゃなくて、やりたいならやりなよって。

花はずるいよ。何一つ責めることができない。結局、私も自分と周りの利益を考えたら、引き受けるんだと思う。感情がぐちゃぐちゃだ。けど、今の状況でやれることをやるしかないんだろうな。。

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