市川祥子

五時間目が終わると祥子は選ばれた5冊の台本を抱え印刷室にダッシュした。生徒会に参加して、印刷室の扱いもクラスでは一番慣れていると思うから、自分から申し出た。花がLTで話している間に終わらせて持って行きたいところだ。手際よく準備をしていく。

高校に入ってからの二年間、私はクラスにはあまりなじめてなかった。確かに、自分でも気が強いのは自覚しているし、なんとなくそんな性格が原因だともわかってる。だけど、それを隠して生きるのも苦しいし、だったら、一匹狼と思われても、自分らしく生きたいと思ってる。それでも、すこし、寂しかった。受け入れてくれる人が欲しかった。

入江との一件もそんな性格が災いしての揉め事だった。あの時は、私の上に入江がいて、その下で小さいグループをまとめていた。その進め方が気に入らなかったらしく、大揉めして、最終的には私は実質クビであいつが仕切っていた。一部の人からはいまでもよく思われていないと思うし、同じクラスだったことがある人は苦手と思っていても仕方ない。

でも、今年のクラスは少し違う。三浦花っていう少しおとなし目の子が、頑張って舞台監督として前で声を張っている。その姿に多かれ少なかれ、みんな応援したい気持ちを持っていて温かい。だから安心して私もおせっかいできるし、意見が言える。

それに、ハナは多分ああ見えて、前に立つことをよくわかってる。一人で頑張りすぎず、誰にでも平等で、人のいいところを見つけてうまく利用する。もしかしたら、いいクラスになるかもしれない。そんな予感がする。

「市川さーん!一人じゃ大変でしょ、手伝う!」

「ハチ!いいの?」

「うん、三浦さんが、今日は黒板大丈夫だからって。」

「頼もしくなったね、ハナちゃん。」

「うん。けど…」

「どした?」

「脚本が決まったら、ぼくらはキャストになっちゃう。そしたら、熱くなっちゃって周りが見えなくなったりしちゃうかもしれないし。大変だろうなって。」

「まあ。けど、演出もいるし」

「そうだね。…市川さんさ、助監督とかやらない?」

はっ、とした。クラスで幹部側の役割に誘われるなんて。嬉しかった。でも…、

「それは、いいや。私、そういうの向いてないと思うし、今のまま無職でクラスの力になれたらいいなって。助監督はハチくんやりなよ」

私がやっても、劇を学年で仕切ってるのは入江だ。きっとクラスに迷惑をかけてしまう。私は陰で支えよう。

「そっか…。あ、一冊目、できたね。さき教室持って行くね!」

「うん、お願い」

私は、私なりに、やれることをやろう。




 

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